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「」シリーズ

「雪ってどうしてまっしろなの?」

作者: 沖田 了

ある日、てっちゃんの住む町がまっしろになりました。

昨日までは、いつもと同じてっちゃんの町だったのに、次の日目が覚めるとそこは知らない世界になっていました。

てっちゃんは、まっしろになった窓の外を見てママに聞きました。


ーこの白いのはなあに?ー

ーーこれはね、雪って言うのよーー


ママはそう教えてくれました。

でも、てっちゃんには雪が何か分かりません。


ー雪ってなあに?ー

ーー雪って言うのはね、お空から送られてくる贈り物なのよーー


ママはそう言ってクスッと笑いました。

てっちゃんも、その笑顔を見てその笑顔を見て楽しくなりました。


ーお外で遊んでもいい?ー

ーーいいわよ。長靴を履いてお外で遊んでおいで。だけど、雪はとっても冷たいから寒くなったらすぐにお家に入るのよーー


てっちゃんは、はぁ~いと応えて駆け出しました。

そして、お気に入りの青色長靴を履くと勢い良くまっしろな世界へ飛び出していきました。

まっしろな世界は、てっちゃんがこれまでに見たどんな景色よりも綺麗でした。

キラキラと光っている雪が、てっちゃんを誘っているようです。

てっちゃんは、一歩足を踏み出しました。

キュッという雪と長靴の音がして、まっしろな世界にてっちゃんの足形が出来ました。

てっちゃんは、楽しくなって駆け出しました。

まっしろで平らだった雪の上に、いくつもの小さな足跡が出来ました。

てっちゃんがジャンプすると大きな足跡が。てっちゃんがゆっくり歩くと小さな足跡が出来ました。

てっちゃんは転ばないよう慎重に座ると、真っ赤になった小さな手でまっしろな雪をちょっと触りました。


ーちべたっー


雪の冷たさに、てっちゃんはすぐ手を離して温かい息で温めました。

はぁ~。はぁ~。

まっしろな世界に、てっちゃんのまっしろな息が溶けてなくなりました。

てっちゃんは面白くなって、ずっと空に向かってはぁ~、はぁ~としました。


ーーてっちゃん。何してるのーー


ママの声がしました。

ママはしゃがんで両手いっぱいに雪を持つと、それをギュッとして一つにしました。

そして、形を整えると地面にそっと置きました。


ーそれ、なあに?ー

ーーいいものよ。とってもーー


ママは庭に生えていた赤い実のなる木から、細い葉っぱと赤い小さな実を二つづつ取りました。

ママが葉っぱを引っ張ったので、木に積もっていた雪がバサッと落ちました。

てっちゃんが木から舞い上がるまっしろな雪に見とれていると、ママが見てごらんと言いました。

てっちゃんは、ママがいる方をみました。


ーうわあ、うさぎさんだー


てっちゃんは、目を丸くして言いました。

なぜなら、ママの足元に小さなまっしろのうさぎが一匹座っていたからです。


ーーこれはね、雪うさぎさんと言うのよーー

ー雪うさぎさんかわいいー


てっちゃんはママの足元に駆けていき、しゃがみ込んで雪うさぎを見ました。

まっしろでキラキラ輝く体に、真っ赤に光る木の実の目が二つ、そして頭から二本の緑の耳が生えていました。

雪うさぎはまるで生きているようで、今にも動き出しそうです。

てっちゃんは、ずっと雪うさぎを見ていて、いつ動くのか確かめたくなりました。

でも、ママが風邪惹いちゃうから早くおうちに入りなさいと言ったのでしぶしぶお家に入りました。


長靴を脱いで、こたつに潜り込んだてっちゃんはずっと雪うさぎのことを考えていました。

ちっちゃくて可愛くてずっと見ていても飽きない雪うさぎを、てっちゃんは頭の中に思い浮かべました。

と、そのうち遊び疲れたてっちゃんはうとうとと眠ってしまいました。



こたつで眠ったてっちゃんはある夢を見ました。

てっちゃんは、夢の中でまっしろな世界にいました。

今日のてっちゃんの町よりももっともっとまっしろな世界でした。

そのまっしろな世界に、赤い二つの点が浮かんでいました。


ーだれなの?ー


てっちゃんは、聞きました。

すると、赤い二つの点がてっちゃんに近付いてきました。

てっちゃんは少し怖くなってしまいました。


ーだれ?ー


もう一度聞くと、赤い二つの点が今度はさっきよりも素早くてっちゃんに近づきました。

てっちゃんは怖くなって目をぎゅと閉じました。

でも、いくらてっちゃんが身構えても何も起こりません。

てっちゃんは恐る恐る、ぎゅと閉じられた目を開きました。

すると、そこにはあの雪うさぎがちょこんと座っていました。

てっちゃんは雪うさぎを見ると途端に怖くなくなりました。

それと同時に、雪うさぎが動いたという事にとても嬉しくなりました。


ー緒に遊ぼー


てっちゃんはそう言うと、まっしろな世界を走り出しました。

まっしろな世界には、てっちゃんの足跡が出来ました。

その足跡をなぞるように、雪うさぎもぴょこぴょこと駆け出しました。

てっちゃんは、雪うさぎが付いてきてくれるのが嬉しくてさらに早く走りました。


気が付いたときには、辺りはてっちゃんと雪うさぎの足跡で埋め尽くされていました。

走り疲れたてっちゃんは、まっしろな世界に寝転がりました。

そして、その横に座っていた雪うさぎに訊ねました。


ー雪うさぎさんはどこから来たの?ー

ーママとパパはいるの?ー

ーどうしてそんなにまっしろなの?ー

ー寒くないの?ー


いろんな事を聞きました。

でも、雪うさぎは何も答えずじっとそのまま座っています。

何も答えてくれない雪うさぎを見ていると、てっちゃんは何だかとても眠たくなってきました。

てっちゃんは、そのまままっしろな世界でゆっくりと眠りにつきました。



目が覚めたてっちゃんは、子供部屋のベッドの上にいました。

どうやら、こたつで眠ってしまったのをママがベッドに連れてきてくれたようです。

てっちゃんはまだ眠たい目を擦りながら、最近読み方を覚えた時計をみました。

どいやら、今は朝のようです。

子供部屋の窓から眩しい光が差し込んでいます。

てっちゃんは、その窓を見て驚きました。

何故なら、昨日はあんなにまっしろだったてっちゃんの町がいつも通りの色に戻っていたからです。

てっちゃんは慌てて台所へ行きました。

そこでは、いつものようにママが朝ご飯を作っていました。


ーママ、雪ー


慌てていたてっちゃんは、そう言って窓の外を指差しました。


ーーえ?ああ溶けちゃったね。ーー


ママは、てっちゃんのように驚いてはいませんでした。


ーどうして溶けちゃったの?ー

ーー雪は空に帰って行ったのよ。雪は空から贈られてきて、てっちゃんやママ達と遊んだら空に帰って行くのよーー


ママはお味噌汁に入れる大根を切りながらそう言いました。


ーお外に行ってくるー


てっちゃんはそう言うと台所を飛び出し、お気に入りの青い長靴を履いて外へ出ました。

そして、一目散に昨日雪うさぎが座っていた場所に駆け出しました。


ー何で?ー


てっちゃんは雪うさぎが座っていた場所に着くとそう呟きました。

そこにはあのまっしろな体の雪うさぎの姿はなく、庭に生えた木の真っ赤な木の実と緑の葉っぱが二つづつ落ちていました。

てっちゃんは、それを見て泣きたくなってしまいました。

てっちゃんは、もっともっと雪うさぎと遊びたかったのです。

もっともっとまっしろな世界を走り回りたかったのです。

でも、雪うさぎは空に帰ってしまいました。

てっちゃんはとても寂しくて悲しい気持ちになりました。

するとその時、さっきまで光っていたお日様を分厚い灰色の雲が覆い、てっちゃんの住む町に小さな粉雪が舞い降りてきました。

それは、町中をまっしろな世界にするには足りませんでしたが、てっちゃんの悲しい気持ちを拭うには十分でした。

てっちゃんは粉雪の舞う中で、こんな声を聞きました。


ーーー昨日はありがとう。また来年遊ぼうねーーー


聞いたことのない声でしたが、てっちゃんにはそれが雪うさぎのものだと分かりました。

てっちゃんは、さっきとは違う意味で泣きたくなりましたが、涙を堪えて粉雪に向かって叫びました。


ー雪うさぎさん、一緒に遊んでくれてありがとう。また遊ぼうー


てっちゃんがそういい終わると、粉雪はぴたっと止んでまたお日様が顔を出しました。

てっちゃんは空に大きく手を振ると、ママが待っている台所に走って戻っていきました。











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― 新着の感想 ―
[良い点]  初めて雪を見たてっちゃんの心情、雪うさぎとの情景やてっちゃんの心の移り変わりがとても伝わって来ました。 [一言]  田中良太様へ  童話祭の出品、お疲れ様でした。  遅ればせながら〖雪っ…
[一言] 話のつくりがすごく良くて、なんか感動しましたー!
[良い点] 雪に対する母のユーモア溢れる温かい表現が、読者を童心に還す思い出深い作品。 [一言] 鍵括弧では無く「―」を使う斬新さに感動です。 「―」の括る数と人物が対応しているので読みやすく、素晴ら…
2013/12/24 16:28 退会済み
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