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天才俺の桃狩り!!!



火曜日。


ラピッドスタイルの優真はこの日も醤油ではなく他の物、今日はケチャップを取った。

俺はそれを見て落ち着きがないと、思いはしたが、昨日のように機嫌が下降状態であるとは思わなかった。それは優真がラピッドスタイルをしていることに起因する。ラピッドスタイルをしている時の優真は初心に帰りたい、もしくは動揺した心を落ち着かせる時にする髪型だからだ。俺は一先ずの落着

を見た。


そして、お前ら聞け。涙を流すと良い。俺は、なんと、妹に、弁当を、作ってもらえたのだ!普段から手料理を食っている?バカ野郎、手料理と弁当はまったくの別物だよ。優真は普段から飯を作るが、弁当を作ることは滅多にない。そこまで時間が取れないからだ。故に俺と優真は普段から学校で食う昼食は購買か学食、行きがけのコンビニで買う。それが今日は弁当を作ってくれた。

お前たちは妹に弁当を作ってもらえたことはあるかい?ん?ないだろ?そう、俺は勝ち組!天才俺は普段から人生の勝ち組ではあるがこの瞬間だけは世界唯一の勝者となるのだ!ここまで行くともはや勝ち組所の話ではない、俺組だ。俺一人しか勝ってないんだからな。


その日の俺?スキップで学校に行ったさ。途中負け組のやつらが笑っていたが俺は気にしない。何故なら俺は俺組だからだ。緑山も笑っていた。が、気にしない俺組だからだ。八之上さんも、まぁ、八之上さんとは出会わなかったが、代わりにおっぱいちゃんと出会った。笑っていた、美少女に笑われると少しへこむ。天才俺は仕方なく普通に歩いた。


教室に入った俺は太陽に照らされなかった。八之上さんはまだ登校していなかった。俺の癒しが……。俺は落ち込んだ。


始業間近になって教室がざわついた。数人が窓の外、正しくは校門の方角を見ている。突然だが、俺たちのクラスの1-Aからは校門を見ることが出来る。後付け設定じゃないぞ、前からあったからな。俺も校門を見た。その校門に黒塗りの外国車、ベンツらしきものが一台ゆっくりと止まった。窓の外の車が完全に止まったのとは反して、クラス内でざわめきが加速し、正誤の判別が出来ない憶測が交差する。


「おい、あれ。遠いから見辛いけどよ、ジャガーだぜ。俺生で初めて見たよ」

「高いやつなの?」

「ピンキリ。安いやつは俺でも将来買えるとは思うけど、高いやつは手を出せる気すら起きねー」

「どんな人が乗ってんだろ?」

「ヤクザとか?」

「それだと怖すぎだろこの学校」

「案外八之上さんじゃない?お父さんが会社立ち上げてたんでしょ」


最後に聞こえてきたざわめきが正解になった。車に詳しいクラスメートが言ったジャガーからは、八之上さんが運転手にドアを開けられ降りてきた。その立ち姿はいつも通りの芍薬のような華がある。


「うゎ、ちょっとイヤミったらしくない?高級外車に乗って登校とか」

「さすがは八方美人の八之上さんだよね」

「あんな車、俺も乗ってみてーわ」

「その言い方はちょっとアレじゃねーか?」

「そういえば、昨日の榊原先生の言葉を聞いて調べてみたんだけどさ。八之上さんのお父さんの会社、ずいぶんと業績良いらしいよ」

「思わないの?」

「いや、そりゃ少しは思うけどよ」

「でしょー」

「チョーお金持ちじゃん、八方美人さんの家」


俺は戸惑った。なんだこの空気は?まるで八之上さんが何か悪いことでもしたかのような空気だ。それに八方美人?この場には実に似つかわしくない褒め言葉だ。さっき八之上さんをイヤミったらしいと言った女子を見た。昨日の五時限目に遅れてやってきた八之上さんに大丈夫?と声を掛けていた子だ。そばかすの似合うかわいい女子であり、笑うとそのそばかすが、クシャと縮むのは見ていて小気味が良い、しかしその顔は今は嘲笑いの感情を表し、チャームポイントとも称されるべきそばかすはいつもよりも色褪せて見えた。


「おは、よう。えっと、どうしたのみんな」


教室に八之上さんが入ってきた。教室の空気に戸惑っている。最初から教室にいた俺よりも一入だろう。


「ううん、何でもないよ。それよりも見てたけどすごい車だね、お父さん?」


そばかすの子が八之上さんに聞く。


「見てたの?開けてくれたのはお父さんじゃないけど、うん、お父さんの車。今日寝坊しちゃって」


その八之上さんの言葉にまたクラスがざわつく。八之上さんはまた疑問符を頭に浮かべた。


そのざわつきは始業ベルが鳴り、担任が教室に入ってくるまで続いた。




昼休み。俺は屋上に一人で飯を食おうと思い立ち、来た途端に口からため息がついて出た。ここまでで四時限が終わった。その間も教室の中は浮き立ちまくりだった。登校中の俺の様だ。


天才は浮き立つのか?浮き立つよ、そりゃあ浮き立つよ。妹に弁当を作ってもらったんだぜあたりまえじゃねぇか。


今だって浮き立っているさ、優真の作った弁当は小さめの紺の容器に入れられ、食い盛りの男子高校生からしたら圧倒的にボリュームが少ない。が、その彩は学食やコンビニ弁当なんてお話にならないほどに色鮮やかだ。開けてまず目に入ったのはご飯の上に桜でんぷんで描かれた『ごめんね』の文字、ほうれん草のおひたし、卵焼き、マリネサラダ、極め付けにはたこさんウィンナーだ。待て、分かってる。高校生の弁当にたこさんを入れるの?なんて聞くな。俺が一番実感している。天才俺でもさすがにこれは恥ずかしい、早弁をしようとして良かった、誰にも見られずに済んだ。『ごめんね』は、って?あれは良いんだよ、優真の心だからな。だが、そんなたこさんウィンナーという、小学生のお弁当御用達のアイテム入っていようが、妹に弁当を作ってもらって浮き立たないやつはどうかしてる、そいつは確実に不能だ間違いない。だってタッテいないんだからな。


全国の妹を持つ諸君はきっと同調してくれるだろうさ。そいつらは弁当なんてもらえないだろうがな!


お前ら、まかり間違っても肉体的な方はタタせるなよ?ただの変態だぜ。俺は紳士だからな。

下ネタが多い?お前らも好きだろ。


「おいしそうだね。お母さんが作ってくれたの?」


さっそくたこさんから攻略を始めようとした時、後ろ、正しくは上、給水塔から声が掛かった。天才俺に気配を悟らせぬとは!何奴なにやつ!?


「ヤッホー、ジショーくん」

「なんでここにいるんだよ」

「それはヒ・ミ・ツ!イイ女の子にはヒミツがいっぱいあるんだよ」


給水塔に腰掛けていたのはおっぱいちゃんだった。つか、目良いな。あんな位置からこの弁当箱の中身が見れるのかよ、まるでどっかの先住民だな。天才俺は想像した。間違いじゃないよ、妄想じゃないからね。彼女があのおっぱいを放り出して、どっかの国の先住民のごとく上半身裸である姿を。待て俺!それはダメだ!苦情が色んな所からくるぞ!妄想するなっ!あ、やべ。妄想ってことがばれちまった。


「何かいやらしいこと考えているでしょ」


おっぱいちゃんは目を細め半眼になった。これがジト目ってやつか、アニメ以外で初めて見た。可愛い、眼福なり。俺は思わず手を合わせて拝んだ。


「人の胸に向かって拝まないでくれない?」


上から冷気が漂ってきた。マズい、天才俺が選択肢を間違えるだと!?選択肢を間違えたのは、バッドエンド率九十パーセントを超えるギャルゲー以来だ。どうすんのって?釈明の一点張りだよ。俺はジト目に向かって拝んだのであって、おっぱいに向かって拝んでないんだから。


当然、その後すぐに天才俺であるが故に許された。ごめん嘘、かなり頭下げた、しかも俺はおっぱいに向かって拝んだことになった。最終的にはたこさんで手を打つことになった。これで済んで良かった、彼女が少し悪評を振りまいただけで俺の学園生活は太陽ですら照らしきれないほどの真っ暗な暗黒の世界になっていただろうよ。というか高校生がたこの形をしたウィンナーで手を打つのか、小学生かよ。俺は胸ばかりが大きくなった子供を見た。


「ジショーくんはすぐに人の胸を見るね」

「いや、見てねーし」


何故ばれた。いや違う、俺胸見てねーし。


「ふっふっふっ、私はこう見えて、人の視線には鋭いんだよ。これだけなら世界の誰にも負けないんだから」

「それ自慢できんのかよ」

「できるよ、ものすごくできる。世界記録になるぐらいすごいんだから」

「どんな世界記録だよ」


やばい、これはやばい。間宮藍子とは前に一度会った時は名前を交わしただけだ。しかし、こうやってしゃっべているとこの女のやばさが伝わってくる。なんでやばいかって?キャラが被るんだよ!大言壮語は俺の持ち味、アイデンティティー!にも関わらずだ。この女は普通に被ってくる。もう少し自分のキャラを守れよ!俺の存在が薄くなんだろうが!


俺はそう思いつつも箸を進める。キャラ被りさんは隣でパンを食べる。黙々と食べ進める。美少女と会話が弾んでないが大丈夫かって?問題無い、キャラがこれ以上被るよりかはまだマシだ。


「そういえばジショーくん、八之上さん大変なことになってるね」


キャラが!キャラがやばい!薄くなる!こうなればさっさと打ち切る。もしくは打ち勝つ!打ち切るのは逃げじゃないかって?戦略的撤退だよ。


「それが?」

「八方美人の八之上さん、私のクラスでも今そう言われてるよ八之上さん」

「だから、別に大変でもなんでも無いじゃねーか。いつも通り、オールグリーンってやつだろ」


急に口を開いたかと思えば何言ってんだこいつは?所詮被るのはキャラだけか。俺の頭の冴えにはついて行けない見受ける。


「あれ?ジショーくんもそう思ってるの?」


心底意外そうに、キャラだけ被っている間宮は言った。


「当たり前だろ。八方美人の八之上さん、言い換えれば超絶美人の八之上さんってことだろ。そんなの前から知ってるよ」


そう言って俺は間宮を見た。間宮は顔の割には大きい口を丸く開き呆けていた。かと思えば急に笑い出した。


「ふふふっ。うん、ジショーくんらしいね」


俺は少し、ムッとしながらも問いを返した。


「どういうことだよ」

「なーんにも、私の勘違い。そうだね、超絶美人の八之上さんだよね。でもすごいよね八之上さん。私から見ても嫉妬しちゃうよ。知ってた?八之上さんスッピンなんだよ。私でも軽く化粧はしているのに、なーんにもなしなんだよ」

「えっ、化粧すんのお前?」


今度は間宮がムッとした。


「するよ!女の子なんだよ私!」

「いや、それは知ってる」


そう言いながら視線を下にずらした。登山家の気持ちが今なら分かる。山があるから登るのだ、登りたくなるのだ。


「あっ、また見た」


間宮はそう言って腕で胸を隠すように交差させながら身をよじった。


「ジショーくんのエッチ、もういいよ知らない」


身をよじらせた身体を器用に跳ねさせると、小動物を思い出させるような動きで素早く立ち上がった。その時、屋上に強い風が吹いた。神風である。神は屋上にもいたのだ。


「ふわぁあっ!」


間宮が一際大きな声を上げる。桃だ。弁当の桜でんぷんよりも薄い桃は薄皮一枚を残して俺の前に降臨した。思わずむしゃぶりつきたくなるようなジューシーさも垣間見える桃だ。


「見た?」


目を潤ませたお色気担当の桃レンジャーが聞いてくる。天才俺は当然答えたさ。八之上さんと同じ対応でな。


「見た」

「見てないって言うのが礼儀でしょーがー!」


お色気担当はは言葉に尾を残して立ち去った。天才俺は美少女に聞かれたら正確な答えを出すように心がけているのだ。そして、俺は今日二度目の勝利を手に入れた。そう、キャラ被り回避!、という勝利を。ただし、その犠牲は大きかった。俺はその後しばらく立ち上がれず、五時限目を欠席してしまったのだ。


成績がやべぇ。




今更ですが、この話や前の話でも出てきたカントリースタイルや、

ラピッドスタイルとはツインテールの髪型の種類です。

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