天才俺太陽見たり!!!
俺の話を聞け。
ついに、太陽の全貌を見た。
世界がその姿を変えた。
日、登らぬ世界。
光、照らされぬ世界。
雨、降りしきる世界。
涙、止まらぬ世界。
世界は変わる希望の世界へと。
夢、叶いし世界!!!
俺は今夢を見ている。その夢は蜂蜜よりもなお黄金色で甘い夢だ。それは苦汁を飲んでも運命に諍い続けた天才俺に、神が与えたもうた褒美。俺の視線のその先には桃があった。
褒美は昼休みが終わるまであと十五分の時から始まった。俺は神に出会ったのだ。白髪交じりというよりも、黒髪交じりといった方が正しいような神は社会科教師の姿をしており、榊原と名乗った。神は言った。
「ジショー、今日日直だろ。社会資料室からプリント持ってきてくれ、ちょっと奥まったところにあるけど1Aって書いてあるしすぐ分かるから」
その時、俺はこう思ったね。メンドイ、ってな。しかし、強権には逆らえなかった。当然渋々とだが、俺はチョモランマが足にでもぶら下ったかのような重みを感じながらも向かったさ。その最中、太陽が俺の目の前にその姿を現し、俺を照らした。八之上さんだ。感無量である。パンチラは見えない方が良い?雨が降っていても気にしない?夜行性?何言ってんの?パンツは見えた方がうれしいし、天気は晴れてる方が良いに決まってんじゃん。俺夜行性じゃないし、昼行性だし。
「ジショーくん大変だね。手伝おうか?」
さっきの糞野郎、神との会話を聞いていたのだろう。八之上さんは俺の身を案じて助けを申し出てきてくれたのだ。八之上さんを観察、ストーカーじゃないぞ、していると、度々八之上さんが本当に些細なことで困っている、そんな人を助けるところをよく見る。
それはイケメンだろうが、デブだろうが、禿げてようが関係無くだ。彼女の趣味が人助けに見えてくるほどに頻繁に。
俺は何故かその人助けの範疇から外れていたが、そんな八之上さんはついに俺にも声を掛けてきてくれた。
社交辞令?知ってるよそんなこと。だがしかし、天才俺は凡人共とは考え方が違う。これは確かに社交辞令かもしれない、がここで俺がその助けを拒まず、受け入れた場合、彼女はなんと答えるだろうか?そう、彼女は助けざるえなくなる!ここでやっぱり嘘、なんて言った日には彼女の名声は地に落ちるからだ!そこから天才俺はこう考える。合法?なら行くしかない!と。
その結果がこれだ。
資料室のドアを開け、入ったところのすぐ横にあった電灯のスイッチを入れる。蛍光灯が古いのか、切れかけているのか、なんにせよあまり明るくはならなかった。が、問題無い。むしろ好都合だ。
「けほっ、ここ埃っぽいねジショーくん」
そう、俺は、薄暗い、密室で、美少女と、二人っきり、になるというラノベ主人公御用達の夢のシチュエーションを手に入れることができたのだ!
さらにそこから俺のラッキーは続く、さすがにラッキーの後にスケベが続くことはねぇが、不安定な位置に置いてあったのだろうプリントが床にばら撒き散らされていたのだ!これには天才俺でも唖然とした、神は実在したのだと。
そこからはご察しの通り、薄暗い室内での俺と八之上さんの初めての共同作業が始まった、プリント集めという名の二人の共同作業が。俺的には、八之上さんとの初めての共同作業はケーキ入刀の一択だとばかり思っていたが、これはこれで良し!
二人でプリントを黙々と集める。そう、黙々と。話す機会がねぇ。どうしたらいいの?助けてよ。
「ジショーくん、そっちは何枚あるの?こっちは十八枚しか見つからないんだけど」
助けの女神は八之上さんだった、さすがは俺の女神。だが焦るな、聞かれたら正しい答えを返すんだ。俺は素早くテキトーに集めていたプリントの枚数を数えた。その速さと言ったら百メートル走で八秒台を叩き出せるほどだ。
「こっち十七枚」
「そっか、四十人分だから、最低でも後五枚は必要だねジショーくん」
ハートマークが付いている、オンプでも良い。彼女の発す言葉の全てにハートマークもしくはオンプが付いていることを、俺は今更ながらに思い知らされた。
「どこだろ?早くしないと五時限目が始まっちゃうよ」
可愛い、クール系だと思っていた彼女は実は可愛い系だった。知ってたけどね。俺は可愛らしく揺れるお尻を見てそう思った。パンツ?見てねーよ、偶然見れるならともかく、見に行くのはただの変態だよ。俺は変態じゃねーから、天才だから、紳士だから。オーケー?
俺がそうやって八之上さんのお尻を見ていると、サボってる?ノーノー、俺の責任じゃねー、八之上さんが可愛すぎるのがいけない、罪作りな人だ、天才俺をお尻で誘惑するとは。俺はついに最後のプリント数枚を見つけた。目をこらしてよく見ると五、六枚はあるだろう至福の時もこれで終わりだ。八之上さん見つけたことを話す。場所はアルミで出来た棚の下で、プリントは八割ほど潜り込む形である。
「よかった、間に合うね。ジショーくん」
場所を教えると彼女はそう答えた。その言葉に俺は引っ掛かりを感じた。が今はそれよりもプリントだ。俺は棚の前で中腰になった。その時に埃にでも足を取られたのか、俺は滑らせた。が、そこは天才俺!こけることなどあるはずが無い。俺は踏ん張り、手を棚に付いた。続く瞬間上から段ボール箱が落ちてきた。ラノベかよ!俺?ぶつかったよ天才俺と言えど二重トラップはよけられねーし。
「ジショーくん、大丈夫!」
「ダイジョーブ、問題無い」
八之上さんが心配してきてくれるがそこは天才俺痛みなどあるはずが無い。
俺は落ちてきた段ボールを見た。その段ボールの側面には神の名が書かれていた。うん、後で文句言う。段ボールは落ちた衝撃か、口が開いていた。その中には十冊ほどの卒業アルバムが入っていた。一番上の一冊に関してはページが開いている。
「あ、お父さん」
それを見て八之上さんが小さく声を上げた。
「お父さん?」
「うん」
八之上さんは少し恥ずかしそうに頷くと一人の男子生徒の顔写真を指差した。その下には八之上誠と書かれている。俺はもう一人見覚えのある顔を見つけた。
「これ榊原じゃね」
そう神の若りしころが写っていた。見た目は今のような灰色ではなく青色の方が良く似合うような年頃の神だ。
今は学年主任も務める神も、こんな若い時があったのか。俺は時代の流れを否応も無く感じた。いや、本当に感じたよ。嘘じゃないよ、カッコなんてつけてないよ。
「榊原先生、お父さんの担任やってたんだ」
八之上さんはアルバムを撫でるように手で触り、埃を払いのけ目をこらした。そして終焉の時を告げる鐘の音が響き渡る。五時限目の始まりを告げるベルチャイムだ。
「やべぇ、欠席はやべぇ。成績が……」
俺はチャイムを聞き、アルバムを閉じて丁寧に仕舞っている八之上さんを尻目に、尻目の尻が八之上さんのだったら良かったのに、落ちていた残りのプリントを回収した。
「ジショーくん」
八之上さんはアルバムを仕舞い終るとすでにドア付近に立っていた。俺は走った。五時限目に間に合うように。
まぁ、間に合う訳ないよね。五時限目のチャイムが鳴った時に教室に居ないんだからな。
「おーい、ジショーよーい。八之上さんと二人で何をしてたんだー」
「ジショーくん不潔ー。八之上さんを誘い込むなんて」
外野が俺に対してだけからかいの言葉を投げかける。面白がっている声音で。
「だまらっしゃい!何もしてねーよ、できなかったからね。別に俺がヘタレって訳じゃねーけどよ」
クラスに小さな笑いが起こる。ドイツもコイツも人のことをヘタレだと思いやがって。八之上さんは俺の後ろで顔を赤らめてうつむいている。
「で、理由は?」
神、いやもう榊原でいいや。何故に、天才俺が他の人間を崇めねばならないのだ。榊原はマイペースに遅刻理由を聞いてきた。
「プリントがばら撒かれてました。後、アルバムが俺の前に立ちふさがりました」
敬語は良いの?ですますは敬語じゃないから。
「アルバム?」
「卒業アルバムでーす。八之上さんのお父さんが写ったアルバムが立ちふさがりました。強敵でしたね、娘は渡さん!って感じで、はい」
「八之上、お前誠の娘だったのか?」
無視しやがった。これだから社会系はユーモアが分からないやつって言われるんだよ。理系も真っ青なモテない男くんのくせして。外野お前らもうるさい、何もハレンチなことをしようとしてねーよ。お尻は見たけど。
「はい」
八之上さんはまだ顔を赤らめたままだ。
「そうか、あいつ結婚してたのか。あいつがベンチャーを立ち上げたのは風の便りで知っていたが」
ベンチャー?便所で茶を啜るってことか?ずいぶんとマニアックな。
「まぁ、今回は二人とも遅刻は無かったことにする。早く席に着きなさい」
当たり前だ。これで遅刻扱いにされたら草葉の陰で泣くよ。
俺は自分の席に戻った。戻る最中も他の愚民共からからかいの言葉を掛けられ続けたが天才俺には効かん!
八之上さんの方は、大丈夫だった、と心配の言葉を掛けられていた。納得いかん。なぜ俺が不埒なことをしているのが前提なんだ。
五時限目はその後何の波乱も無く、つつがなく終わった。
そして、その日から八之上さんにもあだ名?二つ名が付いた。中二心をくすぐるものがある。八之上さんは陰でこう呼ばれるようになった。
八方美人の八之上さん、と。