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天才俺自らを省みる!!!

「やっぱり、『のたまいやがった』はおかしくないかな?普通に『言いやがった』じゃだめなの?」


今俺は小説投稿サイトに投稿した自作小説『俺の妹は日本人なのにも関わらずに日本の標準語が使えるんだ。驚いただろう?』の推敲を行っている。すでに五話ほど更新を行っているが、それの原文自体はメモ帳の中で一続きになっている。

その推敲を標準語が使える妹と一緒にしていた。仲良いだろ?日曜日だってのに妹と二人っきりで密室に籠ってるんだぜ?


「別に大丈夫だろ?そりゃあさ、日本語としてはおかしいかも知れないけどよ、現代語ってことを考えたら別におかしくは無いだろ?」

「まぁ、そうだけどね」


歯切れ悪く優真は答えた。優真は綺麗な、正しい日本語を使うことに執着と言っても良いほどに腐心している。俺の『のたまいやがった』に理解は示せるが納得の方がそうはいかないのだろう。


「それにこっちの方が悪感情を持ってはいない、ってのが伝わる気がする」

「かもね。のたまう自体は本来、地位とかで上の人が下の人に知らせる、宣告するって意味の言葉だけど。最近ではからかいを含む時に使う言葉、として認知されているし。でも、この小説って自分を主人公にしての実話系としての小説じゃないの?これじゃお兄ちゃんがまるで本当は厚顔無恥を知ってたように感じるけど?」


優真は覗き込むように俺の顔を見た。視界いっぱいに優真の顔が映るがその視界の端ではカントリースタイルのツインテールが揺れていた。


「知ってたし、ホントだし」


失礼なやつだ。兄の言葉を疑うとは。


「んー、半分嘘。だよね」


中学生にしては大きい胸を持ち上げる様に優真は腕を組み、人差し指の先で顎をノックするように考えてから優真は断言した。


「天才ぐらいになると感性で正解を見つけるのさ。自分の才能が怖い」


俺は最近切りすぎている切り札を切った。


「はいはい。それとちょっと戻るけど、この太陽のチラリズムもおかしくないかな。だって肝心の中身が見えないってあるのにその中身って太陽でしょ?雲の合間から見えてるならおかしくない」


執着?誰だよ、んなこと言ったの。むしろ言葉のストーカー、それが優真だ。下ネタもどきにもダメ出しをするとかどんだけ。しかし、受けて立とう!天才は逃げぬ、引かせたモン勝ちだ。


「いや、セーフだ。パンチラはむしろ見えずにそのギリギリを見てこそが真の王道だとは思っているが、俺はちゃんと太陽、八之上さんを見てるしな、人垣の合間から」


俺は未だに雲の合間からしか太陽を見ていなかったが、問題は無い。俺は夜行性の天才だからだ。月を見るだけで十分だ。


「モロ出しでは無いからチラリズムの範疇ってこと?」


引いた。そこ、普通切り返す?俺は辛酸をなめさせられた。優真が呟くように言葉を発した。

それにしても。

優真は短く言葉を切り、少し周り、俺の部屋の中を見渡した。ベッドの下を見られているわけでは無いので俺は羞恥心など持たなかったが。見られたら?泣くけどそれが何か?


「すごい光景だよね。妹にパンチラの魅力を語る兄って」


気付いてて切り返したの?


「誰も見てないし、小説にもお前は出てくるけどさすがにこの場面を文字にする気はねぇよ」

「あ、ここ八之上さんのままだよ。ちゃんと小説の名前の姫宮美姫にしないと」


優真が指差した先は確かに1、八之上美子1A498点と書かれていた。


「うぉ、あぶね!本名そのまま載せるところだったわ。まぁ、天才にもこういうことはあるわな」


頬を包み込むように優真の手が添えられ、いや掴まれ、パソコンに向けられていた顔は無理やり右に方向転換させられた。向けられた先には口をへの形にした優真のちょっと怒った顔があった。


「ちゃんと反省してるの?本当に危ないんだよ、実名で載せると」


お前ら俺を許してくれ、妹に対して少し可愛いと思ったことを。ダメ?


「聞いてるの!そもそもこの小説自体、八之上さんや間宮さんに許可取ってないんだから!」

「分かってる分かってる。大丈夫だって、この小説特定ユーザー以外には見られないようにしてるから」


その通り、天才俺に死角は無い。ミスっても問題無いのだ。特定ユーザー以外には見られないのだから。特定ユーザー、イコール緑山だけだしな。


「そう言う問題じゃない、危機感の問題を言ってるの」


優真は可愛さが百馬身ぐらい差をつけて先行する怒り顔をそのままに顔を近づけた。


「次からはこんなことが無いようにするから」

「本当に?」


念押すかのように優真はさらに顔を近づけてきた。


「ホントウデス、ハイ」


お前ら、勘違いするなよ。俺はドキドキなどというチープな言葉は使わん。

ため息を一つ付いて優真は俺の顔から離れていった。同時に俺の持病も収まった。持病だぞ、間違えるなよ。


「今回だけ。分かった」

「肝どころか心臓にも命じさせていただきます」


下手したて?何とでも言え。今日の晩飯は休日出勤の母親に代わって優真が作るのだからな。飯抜きは辛いとです。


「最近物騒なんだよ。インターネットなんて誰が見ているかも分からないのに。こういうのだって見ようと思えば運営の人やハッカーみたいな人たちも勝手に見れるんだから」


俺はその言葉を聞いて決め手を放った。


「ごめんなさい」


飯抜き回避!




数時間後俺たちは推敲を終わり、第六話を上げ終わった後、優真が章題はどうするかと聞いてきた。俺はその言葉を聞き、とっさに八之上さんのことを思いだした。それに伴って優真に聞きたいことも頭に浮かんだ。


「なぁ優真、一昨日のことなんだけどよ。八之上さんはこれからが大変になる、ってどういう意味?」


その言葉はさほど大きな声で発したわけでは無い。しかし、優真はその言葉を聞いてわずかに身体を跳ねさせた。優真は目を泳がし、優真特有の誰かに引け目を感じている時の動作を行った。


「あー、えっと、その。うまくは言えないかもしれないけれど」


優真はそこで不自然に言葉を切った。何かを探すように目が右へ、左へと動く。


「あのね。私が言いたかったのは八之上さんのこともそうだけど、お兄ちゃんのこと。お兄ちゃんは多分傷付くよ。色んな意味で」

「ハッキリ言えないことなのか?」


俺はさらに尋ねた。


「言わない方が良いかな。そっちの方がうまく行くと思う」


優真はカーペットが敷かれた床に目を落とした。


「そっか」


俺は短く答え、言葉を続けた。


「ならば問題は無い、所詮凡人の思い過ごしだろうよ。天才俺は感性で答えを見つけるからな。何一つ問題なんて存在しない」


優真がうつむくのと対照的に俺は声を張り上げ、天井を仰ぎ見た。天井では、蛍光灯が明かりとしての役目を、暗い空気に関係無く果たしていた。


「ありがとう、お兄ちゃん」


優真はうつむき加減の中、廊下に出た。その背中に名前で呼び掛ける。


「私晩御飯の準備してくるね、お兄ちゃんもパソコンの電源切って降りてきてね」


背中を向けたままそう言うと優真は小走りで階段へと向かった。聞こえてくる階段を降りる音は、リズムの速さだけが印象に残った。


俺は一つため息を付くと、こんなことになったパソコンの中、章題の編集画面をにらみ付けた。




その日結局章題は決まらず、晩飯になって一階に降りると、優真はすっかりいつも通りの笑顔を取り戻していた。


そして、優真の傷付くの意味が分かったのは週明けの月曜日だ。

その日俺は初めて八之上美子と言葉を交わした。





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