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天才俺念願達成?




「ジショー、俺お前のこと天才じゃねーよって前から思ってたけどよ。すげー器用なやつだったんだな」

「何言ってる俺は天才だ。だが今更気付いたのか、どうだ、天才的なまでの器用さだろ?」

「かもな。赤点は三十点未満でなるってのに、全部の教科が赤点ラインジャストかその一点上だもんな」


そう言い、笑いながら緑山は俺の肩をバンバンと叩いてきた。

そう俺は中間考査を三十点満点のテストを全てのテストで満点以上で乗り切った。緑山は運が良かったのか、もう十点も取れば全てのテストで三ケタの大台に乗る点数で乗り切ったが。


「いやぁ、でも、お前の話は置いといて。八之上さんは、流石は入代って感じだよな。見ろよアレ」


そう言って緑山が親指で指したのは、主要科目五教科の総合点数で二十番目以上の点数を取った者の名前が張り出される張り紙だ。俺の通っている高校、南希望ヶ丘高等学校は公立の高校ではあるが、今となってはほとんどの学校で廃れてしまっている成績優良者の張り出しを行っている。そしてこの張り紙だが、俺に関しては別枠扱いなのか何故か俺の名前は載らないように出来ている。

張り紙は三枚あった。それぞれが学年別に張り出されている。俺が一番左端の張り紙を上から見て行くと、一番上には第一学年中間考査成績優良者と題打たれ、そのすぐ下から順位と名前、クラス、五教科の総合点数が書かれている。ちなみに言っておくと俺以外の人間の満点は何故か百点だ。その一番目と三番目に見覚えのある名前を見つけた。




 一 八之上 美子 1A 498点

 二 間宮 藍子  1E 489点

 三 緑山 繁樹  1A 486点




その名前を見て、俺は恐れおののいた。


「嘘だろ」

「たしかに。嘘みたいな点数だよな、たった一問か二問しか間違えて無いなんて」


緑山が相槌を打つ。しかし違う、違うのだ緑山。俺が言いたいのは。


「何で、お前が入ってんだよ!おかしいだろ!」

「そっち!?実力だから、本当に実力だからっ!」


俺は激しく羞恥心を覚えた。昔からの馴染みではあるが、まさかこんな不正を働くようなやつだったとは。そして俺は心を鬼へと、心優しき鬼へと変貌させた。


「今なら、まだ、そう、罪が軽いぞ。白状したらどうだ?」


鬼では無かった。気分はさながらサスペンスドラマに出てくる人情刑事の気分だ。俺の情ある言葉にほだされたのだろう。緑山は軽く俯くと、手を目元にやり、唇を震わせ、ゆっくり言葉を紡ぎ始めた。


「すいません、でした。つい出来心で……、ってなんでやねん!」

「おまっ、最後までやれよっ!せっかく俺が珍しくボケてやったってのに!」

「お前は普段からボケ通しだろうがっ!珍しいのはツッコミの方だよっ!」

「少なくとも、テメーのケツ穴にツッコんだことはねぇけどな」

「ある方が嫌だよ!」


緑山と下ネタ混じりのへたくそな漫才をやっているとすぐ後ろからカラカラとした笑い声が聞こえた。後ろを振り向いた先で俺は本日二度目になるが恐れおののいた。振り向いた先にはちんまりデカい女子生徒がいたのだ。矛盾?してねーよ。背が小さくてデカいんだよ。何がデカいって?それは俺の口からはとてもじゃねぇが言えねぇな。少なくともおっぱいって単語は俺の口からは絶対に出ねぇ。


「ごめんね。気、悪くした?」


笑ったことに対してだろう、顔の前で手を合わせて謝ってくる。手の向こうにある顔?ご期待通り、幼さが残る美少女だよ。ついにこの小説でもバーゲンセール始めたよ。当然大安売り中だよ、安いよー安いよー。


そんな驚異の激安プライスに声が出ない俺に、ロリ巨乳ちゃんは再び声を掛けてきた。


「ジショーくん、だよね。うちのクラスの話題に上る有名人さんじゃないですか」


彼女は緩やかに波打つショートカットの髪を弾ませながら話した。笑顔が輝いている、美少女は何かしら輝くものがあるのが美少女の必須条件なのだろうか。


「話題?やっぱりな、俺ほどの天才になると知らないところでも人々の口唇が俺の話題で震える。で、どんな話題?」


美少女は笑顔のまま、とんでもないことをのたまいやがった。


「コウガンムチの天才だって」


目が完全に飛び出たのが自分でも分かったような気がした。


バカな。

なんてハレンチな。さっき緑山に下ネタを言っていた俺の言葉ではないかも知れないが、なんてハレンチな。

そろそろ語彙が少ないなとか、その表現気に入ってんのか?などという声がどこからか聞こえてきそうだ。が、あえて言おう。俺は恐れおののいた。


睾丸鞭、だと。

この女はタマタマに鞭を打つと言うのか。そして、俺はタマタマに鞭を打たれる天才、とでも言いたいのか!死者ではなくタマタマ?なんと残酷非情なことを。というか、タマタマだけを狙って鞭を振るえるものなのか、どれだけ人のタマタマを打ちなれているんだこの女は!それともタマタマだけにタマタマ当たるのか?寒いぜ、お前さん。


俺は目の前に立つ美少女の顔をもう一度しっかりと見た。彼女は俺が押し黙ったことに疑問がわいたのだろう、軽く首を横に倒した。俺は彼女から角と羽、尻尾、ついでに足まで生えてきたように感じて仕方が無かった。さっきまで輝いて見えていた笑顔は嗜虐性を伴い、輝きは暗黒色に淀んで見えた。


「嘘だろ」


俺は一歩後ずさった。さらに後ずさろうとした時、俺の肩に手が置かれた。緑山の手だ。その手はまるで俺を勇気付けるかのように置かれていた。


「待て、俺はお前が何を考えているのか分かるぞ。違うからな、漢字が」


そう言って緑山は俺の肩から手を離し、(俺は不覚にも手が離れる時か細い声を上げてしまった)胸ポケットから生徒手帳を取り出すと白紙の部分に何かを書き、書き終わるとその手帳を俺に突き出した。

そこにはこう四つの漢字が書かれていた。

厚顔無恥、と。俺は自らの過ちに気が付いた。が、天才俺に付けこむ隙など与えはしない。


「いや漢字ぐらい知ってるし、勘違いなんかしてないし」

「嘘付け」


一瞬でばれた。




「へぇー、そんなことがあったんだ」


また晩飯時、俺は優真に今日の出来事を話していた。両親は今回も帰りが遅い。最もいたとしても描写など存在しないかも知れないが、お前らも興味無いだろ中年のオジサンオバサンなんて。


「その後どうしたの?」

「ふっ、天才に死角など存在しない。俺のカリスマで無かったことにしたさ」

「気を使われたんだね」


優真は呆れる様に言った。


「まぁ、一応その後、その美少女さんとは名前を交換したぐらいだな」

「結局八之上さんとは今日も話せなかったんだ」

「構わん、俺は美少女と会話ができた。念願達成だ」

「移り気だね。ところでお兄ちゃん、今まで緑山さんとか、八之上さんは名前が出てきてるのに、その二人目の美少女って人は名前が出てきていないけど。何か意味でもあるの」


俺は静かに笑った。何時如何なるどんな時でも優真は笑顔を絶やさない、曇らせない、今も今日の気分に合わせてリボンで結んだポニーテールを揺らせながら、軽く微笑みながら飯を食っている。しかし、その笑顔も今日で終わりを告げる、こいつは今からほぞを噛みながら俺を上目づかいで睨み付け、俺に乞うだろう。それのなんと気持ち良さそうなことか。


「なぁ、ユマさんよぉ」

「何?」


優真は今から己の身体に降りかかろうとしている災難に気付いたのかわずかに声が固くなった。


「これ、読めるか」


俺が差し出した一枚のメモ帳の切れ端には一つの名前が書かれていた。中間考査二番目の間宮藍子の名前だ。俺から切れ端を受け取った。優真は軽く俯いて考えた。その心境は読めなくて地団駄を踏んでいることだろう、俺は心の中でほくそ笑んだ。


「んー、苗字はマミヤで。お兄ちゃんがわざわざ聞いてくるんだから、ランコ、さんかな」


俺に衝撃が走った、イナズマが落ちたのだ。その衝撃は優真が寝巻用に身に着けているピンクのイナズマだ。分かるとは露程も思っていなかった。


「合ってる?」


優真が上目づかいで確認をしてくる。ほぞは噛んでいない。噛ませたい、むしろ噛まれたい。俺は切り札を切ることにした。


「さ、さーどーだったかなー?ボク分かんない」

「合ってるんだ」


切り札『とぼける』は、またもや一瞬でばれた。



「二人目の美少女は間宮藍子さんって言うんだね。すごいね美少女が二人とも頭が良いなんて」


優真は少し考え込むようにゆっくりと喋った。


「天は二物を与えず、とは言うけどよ。与えちゃってる感あるよな。そういえば優真も中間考査あったんだろ?どうだった?」

「まぁまぁかな」


優真は歯切れ悪く答えた。


「所詮凡人なんてその程度よ。精々、日々精進するがよい」

「そうだね。天才のお兄ちゃんと違って、私は凡人なんだから」


心底嬉しそうに、今日一番の笑顔を見せながら優真は答えた。だが一転して優真は不安そうに表情を曇らせた。俺がどうしたのか聞く前に優真は部屋を出た。一言妙に耳に残る言葉を置き去りにして。



「八之上さんはこれからが大変かもね」




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