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天才俺に梅雨来る!だが残念天才俺に梅雨は効かん!



誰だ、誰が言った。俺の学園生活が薔薇色に染まると。

言ってない?常世の春ならお前が言った?ああ、常世の春だったさ。あの日一日だけは、な。


次の日になったらもう梅雨が来てたよ!じゃじゃ降りだよ!太陽が雲の合間からチラリズムを見せてくれるだけだよ!絶対領域だよっ、肝心な中身は何一つ見えないから!


美少女が同じクラス?話すことすら出来なかったら意味ねぇからぁ!


高校に入学して一か月が経った。俺は未だに八之上美子と会話らしき会話を一つも出来ずにいた。彼女は人気者だ、彼女の周りには常に誰か、仲の良い女友達がいる。そんな状況もあり会話できず、そもそも彼女は俺のような天才でも、おいそれと気軽に声を掛けられるようなお方では無い。断言できる。


しかぁしっ!しかしだ。会話は無いが一度だけ声を掛けられた。その一幕を貴様たちにも教えてやろう!好きに計らうが良い!




「ジショーくんは面白いね」




以上だ!


一幕ですら無い?一文だ?

他の有象無象どもとの会話を書く必要性があるのか?いや、無い!

ちなみに、この後彼女は女友達に声を掛けられ、移動教室のため移動してしまった。俺?掛けられた声に対して返す事すら出来無かったよ。

まぁ、そんなこともあって俺の高校でのあだ名はジショーくんに決まった。個人的にはジショーくんよりもテンサイくんの方が良かったが彼女が名付けたのだ。ならばそれで良し!


そのため今となっては教師ですらジショーと呼ぶほどとなった。彼女の影響力の広さは計り知れないものがある。


ジショーくんはイジメ一環じゃないのかって?違ーよ!全然違ーよ!そもそもジショー自体が俺の中学のあだ名で、それを付けたのは緑山だ。彼女に悪意なんて一つも無いに決まってんだろ!緑山は多分に含んでいただろうがな。




「それで、未だに声一つ掛けられないんだ」


両親共に働きに出ており、妹の優真との二人っきりの食卓で話題に上ったのは俺の高校生活についてであった。そこで俺は八之上さんについて語っていた。


「まぁな、なんだか気後れしちまってよ」

「でも本当にそんな完璧な人がいるのね。私、完璧超人、なんて人は小説の中だけだと思っていたのに」


優真は心底驚いたように目を丸くした。


「だろ?俺もマジでビックリしたよ。現実にそんなやつもいるんだなぁ、って」

「一回会ってみたいな、その人に。正直な所、お兄ちゃんの話さ」


そこで優真はガラスコップに入ったミネラルウォーターを飲んだ。家で食卓に上る水分はミネラルウォーターだ。母曰く、何でも美容に効果があるとのことだ。優真は飲み切ったコップを食卓に置くと一息付いて言葉を続けた。


「ちょっと、嘘くさいもの」


優真は目をわずかに泳がせながら言った。


「俺が嘘付いてるってか」

「んー、嘘は付いていない、けど。嘘を見破れずにいる、そんな気がする」


優真は親指の腹を俺に見せて顎をはじくようにもてあそびながら答えた。この仕草をした時、優真が何かに対して引け目を感じている時だ。


「おいおい勘弁してくれよ。天才の俺だぜ?審美眼ぐらいは持っているし、その審美眼はかなりのモンだっての。その俺が言うんだ、間違いなく彼女は純粋で、演技は何一つしてねーよ」


おちゃらけた雰囲気を出しながら言った。


「審美眼って。お兄ちゃん、知ったばかりの言葉は安易に使わない方が良いよ。知ったかぶりの見栄っ張りの人に、他の人には見られちゃうよ」


優真も俺の意図に気付いたのか呆れた声と共に返した。


「いやいや、今回は合ってるて。審美眼ってアレだろ?本当の美を見出す目のことだろ。ほら、間違ってない。彼女はキレイだよ。世界中にある漂白剤をかき集めて洗濯したシャツよりもなお白く、キレイさ」

「んー。ま、いっかそれで」


優真はそう言い、食器を持ちながら立ち上がった。


「おーい、何か言いたいことがあるなら言っとけよ。楽になるぜ、故郷のお袋さんをこれ以上泣かしたくは無いだろ?」

「知らなかったのかなお兄ちゃん。ここ、私の帰る家でもあるのだよ」


そう言って優真は機嫌を持ち直したのか、鼻歌混じりに食べ終わった食器をキッチンの流し台に持って行った。


俺はまだ残っていた飯を書き込むように食べながら優真の言葉を反芻した。八之上さんが嘘を付いている?ありえない。自分自身でも審美眼なんてものを本当に持っているとは思わないが、彼女は嘘を付いていない。断言できる。そんな器用なことが出来る人間として俺の目には映らなかったからだ。


飯を食い終わった俺は自分の分の食器を持ってキッチンに向かった。

流し台では優真がすでに食器を洗っていた。母親がいない時の家事は妹の優真が担当している。今日食べた飯も優真が作ったものだ。優真はさっきしていた鼻歌を続けながら洗い物をしていたが、俺が隣に立っていることに気付いたのか、俺が食器を置くために横にズレた。


「ところでお兄ちゃん、もうすぐしたら中間考査でしょ?勉強はしたの?赤点なんて取っちゃうとお父さんが怒るよ」


優真が洗い物をしている手を止めて俺に向き直った。


「余裕のよっちゃんだっての。いざとなれば緑山にでもノートを渡すように交渉するからよ」

「あんまり緑山さんに迷惑をかけちゃダメだよ。中学じゃ緑山さん、『他称、自称の貧乏くじ』って言われてたんだし」


お前は俺の母親か。


「ダイジョーブ、あいつは喜んでやるさ。何故?あいつは俺のことが大好きだからな」

「うん、気持ち悪い。同性愛は他でやってよね」

「知らなかったのか?最近は少しぐらいホモっ気があることが、モテ男の必須条件なんだぜぃ」

「絶対嘘。早く勉強してきたら」


そう言って優真は洗い物に戻った。


「はいはい」


俺は生返事をするとゲームをするために自室に戻った。




その二週間後中間考査が終わり俺は見事に赤点にならないギリギリの点数を取り大いに安堵した。そのころには俺は八之上さんと大した話も出来ないことを受け入れて梅雨の時期を脱し、季節もまた、テレビが梅雨明け宣言を出した。


しかし、同時に俺も、天気も、梅雨から逃れたにも関わらず、梅雨入りした人間がいた。八之上美子だ。




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