天才俺現る!!!
「お兄ちゃん、もう少し推敲しようよ。何、天才の俺降臨って?中二病は現在進行形で中学二年生をする私の特権だと思うのだけれど」
「うぉいやっふっ!」
いきなり後ろから声を掛けられ奇声を上げてしまった。後ろを振り返るといつも笑顔を絶やさない妹の優真の顔があった。優真は俺の背中から俺に覆いかぶさるようにマウスに手を伸ばした。
「妹は日本語が使える、ねぇ。普通だと思うけど?」
優真はマウスを操作して小説投稿サイトを開いたままのパソコンの画面。俺が自分で書いた投稿済み小説を自画自賛の念で読み直していたからだ。ポインタをタイトルである『俺の妹は日本人なのにも関わらずに日本の標準語が使えるんだ。驚いただろう?』の上でグルグル歪な円を描くように何度も回した。
「なんだ、知らないのか優真?タイトルや始めの方の話は大袈裟に書くのが良いんだぜ。ほら、四字熟語であるだろ。龍頭龍尾ってよ」
「竜頭蛇尾ね。でも書くのは良いけど四か所。あぁでも、この場合は二か所かな?間違いがあるけど」
妹のアップサイドに結われたツインテールが頬をくすぐった。
「日本入り娘のこと言ってんのか?それはユーモアだよ、ユーモア。ユーモアが分からないやつだな」
「それは分かっているけどね。降臨もまぁ、タイトルだからよしとして。おつむと八方美人の意味間違っているよ」
「は?おつむは頭だろ。八方美人は書いてある通りだろ」
「ちょっと使い方とかに不自然さがあるかな。おつむはおつむりの略語で女・子供言葉。高校生になるお兄ちゃんが使うのはおかしいかな。八方美人はそもそも顔のことだけを指していないよ。八方美人が指しているのは人間関係や立ち振る舞いに対して。おつむは知らない人はそれなりにいるけど、八方美人は偏ってはいても知っている人は多いと思うのだけれど、ね」
そう言うと優真は引っ付いていた背中から離れ、踵を返してドアに足を向けた。優真はドアまで行くと首だけ振り返った。
「お母さんがお昼ごはんだって、早く降りてきてね」
「あいよ」
「それと、明日から入学式を迎えて高校生になるのだから、中二病は見てて痛々しいよ」
「中二病じゃねぇし」
「どうだか」
優真は短く答えると俺の視界からフェードアウトし、ほどなくして階下に降りるパタパタとした軽い音が聞こえてきた。
俺は舌打ちを一つ小さく打ちパソコンの電源を切ると、妹の後を追った。
この時、俺は八方美人の意味とそれの持つ魔力とでも呼ぶべき力を聞かなかった事を強く後悔する事になるが、未来予知などという超能力を持たない俺には知るよしも無かった。