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(下)

 日が暮れ瞬く一番星。

 見上げて頷き、双子の飴屋はようやく巨大な荷車止めた。今夜はここで夜を明かす。

 笠の紐を緩めつつ、小屋に入ったシラ玉は中を覗いて驚いた。

「おいハク墨、付いてきちまった」

「何がだい?」

 提灯灯したハク墨が小屋の中を照らしてみれば、汚い兎の子どもが一羽、隅で怯えてこちらを見てた。

「やァ、面倒事になっちまったな」

「どうする、今から戻ろうか」

「いンや、俺等のせいじゃない」

「そうさな、だったら放っておこう」

「明日の朝には追っ払おう」

 そう決め頷き双子の飴屋は、そのまま風呂の準備した。

 ごぅんごぅんとボイラー動き、外に降ろした樽向けてたっぷり熱い湯を落とす。水を入れつつかき混ぜて、熱めの樽風呂完成させると交互に入って汗流し。夜空の下で入る風呂は溜まった疲れがよく落ちる。

「いい湯だったな」

「ぬくまった」

 上がって並んで酒を呑み、

「どうれ、一曲」

 と中に入り、双子はようやく思い出す。

「ああ、そういや子どもがいたねェ」

「おい、お前出ておいで」

 しばらく経っておずおずと小さな子兎が顔を出す。ギザ耳ばかりが目立つのは、ぼろぼろの服と汚れのせい。ぷぅんと臭いが鼻につき、二匹の鼻がぎゅうっと縮む。

「仕方ないねェ、風呂に入んな」

「傍に寄るなら垢を落としな」

 子兎はシャボンと布を渡され、ぽかんと双子の顔を見る。

「入るのかい、入らないのかい」

 盃傾け尋ねるハク墨に子兎こっくり頷いた。

「何だいお前さん、喋れないのか」

 子兎ふるふる頭を振って、

「――ぃる」

 と小さく呟いた。

「ああ? 何だって?」

 カン、と煙管を角で打ち、すとんと中身を器に落とし、

「蚊の飛ぶような小さな声じゃあ、モノ言わない方がマシだと思いな」

 機嫌の良くない声をしてシラ玉そう言ったもんだから、

「は、入る」

 と慌てて子兎、言い直す。

「ようし、そんならすぐ入れ。ああ、残り湯は洗濯やら何やら使うから、まずは垢を落としてからだ」

 そうして子兎ゴシゴシ擦り、とぷんと樽風呂入った後に、ぽろん、と一粒涙が落ちた。

「――ぬくい」

「そりゃあ風呂さ」

「温いもんさ」

 言いつつ二人はごそごそと高台干してた色布を一枚しゃきしゃきハサミで分ける。ちくちく端を縫い合わせれば、子どもの反物出来上がり。

 上がった子兎ビックリ仰天、花模様の綺麗な布がちょこんと畳んで置いてある。

「臭い服は洗濯しときな」

 子兎顔を真っ赤にし、そっと反物あててみた。

 それをシラ玉くるくる巻いて、ハク墨ちょんちょん留め具を付けて、可愛い雌兎一匹あがり!

「ああ、似合うじゃないか」

「べっぴんさんだ」

 大げさに褒め前足叩き、やんややんやと持ち上げて、おまけに飴玉あげたなら子兎にこにこし始めた。

「さあて、そこで商談だ」

「こいつはタダじゃあ着せないよ」

 二匹と一匹ゴソゴソと、明日の商い打ち合わせ。

 明るく月が照らす中、練習延々続いてた。

 

 おひさま高く昇る頃、がんらがんらと荷車引いて大きな街にようやく到着。

 飴屋の旗と揺れる布、やっぱり目立ってわらわらと兎達が集まった。

 いつものように口上をかける前に飛び出るは、ちりりと鈴を両手足、飾って歌う雌兎の子。

 誰でも知ってる國唄を甘く優しく奏でる声を、皆がうっとり聞き惚れる。時折降るのは両手足、歌に合わせてしゃんしゃんと星屑のような音を出す。

「あい、飴やァ~、飴ェ~」

「うちの飴は品がいいよ、こんなに甘い声が出る」

 飴屋の双子は言いながら、ハッカ飴を一つずつ見ている皆に配ってやった。

「あら、あンまい」

「こりゃ美味い」

 目を丸くして顔見合わせ、

「一つもらおう」

「こっちは二つ」

「はいはい、待ってくださいよ。そちらは三ゼン、こちらは五ゼン」

 ちゃりんちゃりんと金が払われ、双子はほくほく喜んだ。

 そうしてこうして滞在中、子兎ずっと共にいて、毎日歌い、鈴鳴らす。

 飴屋の飴は美味しくて、おまけに綺麗な声が出る。

 買うのは子どもだけじゃなく若い女性も買ってった。


 やがて最後の日となって、さぁて片すかと話していると、

「あら、あなた!」

「おや、この子は!」

 通りかかった疲れた夫婦が目を丸くして驚いた。

「もしやこの子はその昔、さらい兎にさらわれた私の娘じゃないですか?」

「ああ、ああ、顔を見せとくれ!」

 ぽかんと見上げた子兎を夫婦は泣いて抱き締めた。

「――こんな事もあるんだねェ」

 シラ玉ふっと煙を吐き、

「店終いの頃合だ」

 と、じゃらん、と袋を持ち上げた。

「そいじゃあ達者でなァ、嬢ちゃん」

 餞別代わりにたくさんのべっこう飴を手渡して、

「いつか再びおめもじする時ァ、たんまり飴を買ってくれ」

 そそくさ閉店準備をし、これでお別れ、またいつか。



 がんらがんら、と引きずる車。

 見送る子兎、両親一緒。


 がんらがんら、と車は走る。

 どのみちいずれは別れてた。

 いい塩梅にいい別れ。

 やっぱり旅は、二匹が一番。


 がんらがんら がんららら


 飴屋はゆっくり街を去り、次の地目指して走っていった。



                 <了>

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