第十六章 祖国
パリ南側。
そこを受け持つ傭兵団は、先陣をウィルガンドが率いる、人狼や一騎当千の猛者が担当し、次陣の、ヴァレンシュタインを指揮官とした竜兵・重衛士部隊が地域を制圧していく手筈となっていた。
「お前ら! はしゃぐ用意は出来てるか!」
大きく叫んだウィルガンドの声に、髭やら胸毛やらで毛深い部下達が野太い矯声をあげる。
「構えやがれ! 遅れた奴はケツにファイヤーボールぶちかますぞ!」
その目の前に聳え立つのは、十何メートルあろうかという城壁。防衛の最前線となるべきそこは、寂しく無人となっていた。
それが示すのは?
「――敵さんも、死ぬ気で戦おうとしてんだ! 誇りをもって殺してやれ!」
もう、敵に生きようという気持ちはない。如何に戦い、如何に散るかだった。
ウィルガンドは城門に向き直り、静かに笑う。
「さあ、殺し合おうぜ」
城内、王宮前広場には、出陣の時はまだかと待つ兵士達がいた。
相手が夜襲を掛けてくるなら、こちらが油断している可能性のある今夜が一番であろうという予想は早くからついていた。偵察の話では既に革命軍が諸所に展開しているとのことだ。
集まった兵士たち。その誰も彼もが、そう若くはない年齢。下でも三十代後半、上は退役間近だ。
その中でも、最高齢であったのは、
「グラスト殿ではありませんか」
クィルドリフは、兵士達の中、老兵と会話しているグラストを見つけた。
「クィルドリフか。宮廷魔術師も再編成を?」
「ええまあ。少年兵は家に帰らせました」
グラストは、話していた老兵に断りをいれ、クィルドリフに向き直る。
それに対する魔術師は、
「どうしてここに?」
場所の話ではない。何故、城門のこちら側にいるのか。
「女王の秘密組織…………復国同盟でしたか。それの一員ではなかったのですか?」
問うたクィルドリフに、グラストは薄く笑う。
「私はいつとてフランスの味方だ。フランス人でありフランスの一部だ」
それ以外に何か言わなければならないのか、とグラストは締める。
「では、」
魔術師は小さく微笑み、
「祖国――」
「――万歳」
呟いた言葉に、老雄が続けた。そしてそれが人の間に広がるように、周りの兵士達の口から静かに漏れ出る。
「祖国万歳」
その音は、あきらめと信念を同時に感じさせ、
「革命万歳」
そして次の世代へと託す何かが込められていた。
「では」
もう一度クィルドリフが呟き、何事もないように二人は離れていく。
「――祖国万歳」
最後にもう一度だけ、その言葉が聞こえた。
これにて前章、完!
完成済みのものをあげるため、すごいスピードで恐ろしい文量を投稿中……サーバーとか大丈夫かな?
前後章はだいたい同じ量なので、もう少しをばご自愛を…




