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02 Guideline

能力者同士の戦い――レイジー・ゲームは否応なしに続く。他者からの注目を避けるため、巾名井樹はヴェルクローネを伴って家を飛び出した。一方、大会に別の決意を持ち込んでいる天空全殺(キリングハザード)の前に、暗闇に潜む刺客である狙撃酒(マッド・スナイパー)が立ちふさがり……?

02 "Guideline"


 昔、資料室で一世紀ほど前のこの国の写真を見せて貰ったことがある。だけど、僕はその時突拍子もない質問をしてしまったことがある。

『これ、本物ですか?』

 保存状態が良いために、綺麗な写真が昔のまま残っているのは技術の進歩だとしても――それに映っている映像は、あまりにも今僕達が暮らしているこの国と代わり映えしていないように見えた。

 よく言えば、景観保全に尽くされていると言える。

 悪く言えば、時が止まっているかのようだ。

 僕はその後、自分が生まれる前の出来事について詳しく知ることになる。

 ある時、『ローディアンの反乱』という事件が起こった。これにより世界中で多くの人が死に、政府の指導力は低下、よって警察の能力も皆無に等しくなり、治安は悪化した。

 僕も詳しくは知らないんだけど、ローディアンというのは僕達の様な超能力者を逮捕、処罰するために考え出された人型ロボのようなものだったらしい。それが暴走し、全自動殺戮兵器と化したというのだから恐ろしいものである。

 この反乱は、多数の超能力者の活躍と犠牲の上で、血みどろの解決を見たという。その為、今の世界にローディアンもしくはそれに準ずる存在は一体も居ない。製造も国際公約で禁じられている。

 ともかくも、ローディアンの反乱からは既に五十年近くが経過していて、昔ほどアウトローな手口が通じる事もなくなった。そして何より、昔ほど超能力者というものが忌避されなくなったという。

 だけど同時に、この世界を終わった世界と呼ぶ奴も多い。だけどそれは、この世を既に諦めた奴の世迷い言でしかない。

 僕は先ほどの戦いがあったマンション付近から逃げ去り、電車に乗って人通りの多い街中に向かうことにした。電車の中は土日の昼時だからか、いやに混雑していた。その時、隣のヴェルクローネから一枚のカードを渡された。

「イツキ。――これ、武闘家(バトルマスター)の」

 まるでトランプやタロットカードのような、奇妙な幾何学模様の描かれた白黒のカードが一枚。

「うん」

 これで、手元にはカードが五枚。(キング)騎士(ナイト)精霊(エレメント)必中の理(アンパーフェクト)武闘家(バトルマスター)。僕はこのカードを彼女に渡すことで、そのカードに見合った能力を得ることが出来る。前も言ったように、僕自身は元々超能力者ではない。

 寧ろ、超能力者は憎むべき敵だった。僕の両親を殺し、おおよそ普通であるはずだった僕の人生をここまで叩きのめした存在を、許せるはずもなかった。

 僕等は電車を降り、駅を出る。

「大丈夫――貴方が超能力を使って超能力者に報いることは、何も矛盾していない」

 それは彼女と出会ってまがい物(レイヴン)になってからの、僕の中の永遠の課題だった。

 僕が許すはずのない超能力を用いて、超能力者に復讐している――これは、本当に正しいことなのだろうか? 簡単には答えの出そうにない二律背反(ダブスタ)を抱えたまま、僕はこのゲームに身を投じてしまっていた。

 悩むなら悩め。抱え込むな。抱えちまったなら、吹っ切れるまで走りまくれ。――誰かが、そんな事を言ってくれた。吹っ切れるのは、一体いつの話なのだろうか?

「青年――君は、悩んでいるみたいだね」

 ドキッとして、一瞬僕は歩みを止めて周りを見渡す。僕の周囲に居るのは、スーツ姿のいかにもなサラリーマンやOLばかりで、青年とかろうじて呼べるのは僕ぐらいのモノだった。

 いや、ちょっと待て。今の声の主もまた、今の光景の中に潜んでいた、という事か?

「いいね、その焦った顔。私の好みだ。その表情を、永遠(とわ)に刻み込んであげる――!」

「――イツキ。来る!」

 僕はカードを構える――。





 場所は同時刻、街中の放置された工事現場。そこでは天空全殺(キリングハザード)が、乾いた笑い声を上げていた。

「おいおい、俺を一発で撃ち殺すんじゃ無かったのかよ、狙撃酒(マッド・スナイパー)!」

 周りをビルに囲まれているため、日中にも関わらずここはどこも真っ暗だった。

「大口を叩いたことは素直に訂正、謝罪しよう。だが――貴様を殺すという目的は、外していない」

「どうだか? 現場(ココ)は真っ暗でテメェにガン有利、おまけに俺は生憎と飛び道具の持ち合わせが無くてよぉ。これで既に銃声三発ってのは、一体どういう事だ?」

 その瞬間、空気を破裂させたような乾いた音が響いた。同時に、天空全殺の右頬からは疼痛。彼が思わずぬぐってみると、それは紛れもない血だった。

「当ててやったぜ、クソ能力者……! ヒャハハハ、どうだ! 俺だって酒が入ればこんなモンよ!」

 狙撃酒は、掌サイズの酒瓶を開け、相変わらず彼から見えない箇所から天空全殺の事を狙っていた。

「酒が入らないと殺しに情熱が注げないたぁな。哀れだな」

「黙れ! 俺がどうしようもない飲んだくれで甲斐性無しの父親を撃ち殺したあの日から――酒は、俺のかけがえのない相棒だったんだ!」

「あぁ、酒に酔ってて心神喪失状態だったからって、無罪にでもなったのか」

「そうだ! そして俺は今、そんな俺を支えてくれた病気の母親を治すための金が欲しい! 貴様はその為の礎となれ!」

 狙撃酒がそう脅しても尚、天空全殺はその場を一ミリたりとも動こうとはしなかった。

 その代わりに、彼に聞こえるかどうかの音量で呟く。

「だったら――尚更お前はここに居るべきじゃ無かったな」

 ドン! という轟音が起こり、ビル全体が大きく揺れた。ひとしきり揺れてから、彼の左側にあったはずのビル壁が、先ほどの音と同じぐらいの揺れと音を巻き上げながら、ガラガラと崩れ始めた。

 何もなくなったはずの空間に向かって、天空全殺は言葉を投げかける。

「どうだ。明るくなっただろう?」

 すると、上部の鉄骨から人間の上半身が堕ちてきた。彼と同じぐらいの歳の、青年のように見える。

「貴様……最初からまともに勝負する気など無かったのだな……」

 下半身は、先ほどの崩壊に巻き込まれてしまったようだった。

「無いね。誰が好きこのんで敵の術中(アウェー)でプレイしなきゃなんねーんだ」

 彼はそう言って、腰から上の存在となった男に手を差し伸べることもせず、踵を返して何処かへ向かおうとする。その途中くるりと振り向いて、まるで血まみれの人間を見ているとは思えない程の笑顔でこう言った。

「来世じゃ、酒は二十歳からにしとけ」

狙撃酒(マッド・スナイパー):(水・貫) 射撃精度が上がる。血中アルコール濃度が高いほど、効果が上がる。

武闘家(バトルマスター):(火・撃) 体力が上昇する。利き手の一撃の威力が高まる。

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