01 Restricted rules and Double sights
WORNING!! この作品には酷い読み方があります。
01 "Restricted rules and Double sight"
珍しく朝早くに目が覚めたと思ったら、新聞を取っていないはずの僕が、自然と郵便受けに手を伸ばしていた。
そこには、一通の封筒。差出人は書かれていない。ただし、宛名の部分には印刷したかのようにフォーマルで綺麗な字で、
『レイジー・ゲーム参加者 様』
と書かれていた。僕は反射的に封を切り、中の手紙を取り出す。
『巾名井樹 様
此度は優勝賞金5億円、第11回レイジー・ゲームへの参加のご承諾、誠にありがとうございます。
さて、大きな節目となった第10回を大盛況のまま終わらせ、早くも第11回目を開く事が出来たのは、普段の皆々様方からのご厚意の賜物である事に他なりません。
その為今回からは第9回までの賞金2億円を更に増やし、賞金5億円へと増額いたしました事をご報告させて頂きます。どうか皆様、意欲的に参加して頂けることを楽しみにしております』
レイジー・ゲームには当然心当たりがあった。特定箇所に十数人の人間を集め、互いに殺し合いをするという簡単なものだ。
ただしこれには色々なルールがある。僕は手紙の二枚目を読む。
『参加心得
レイジー・ゲームは厳かに執り行われなければなりません。円滑なゲーム進行のため、ゲーム参加者の方々は以下の規約に従って頂きます。
一、能力を持たぬ一般人への攻撃禁止
二、判定人への攻撃禁止
三、ゲーム開始前の参加者情報開示、共有の一切を禁止
四、長期間に渡ってゲーム開催地から離脱する行為は禁止
五、ゲーム参加承諾後のドロップアウト行為の禁止
以下の規約が守れない場合は、強制失格になる場合もありますのでご注意ください。』
ふぅ、と僕は溜息をつく。ここまで見れば体の良いボードゲームか何かだと思われがちだが、先ほども言ったとおり、これはルールに則った殺し合いなのである。
負ければ死。ちなみに、失格でも死。
いやはや、実に軽い。
「樹、目が楽しそう」
その時部屋の奥から聞こえてきた声に、僕は見向きもせずにただ頷く。
「ヴェル。今日は待機って言ってたけど、予定変更だ」
ヴェルクローネ、通称ヴェル。数年前まで一般人であった僕をまがい物に仕立て上げた張本人だ。その容姿は肩まで伸びた金髪に妖しく光る赤い瞳は、まるで海外によくある人形のようだった。
「そう」
彼女は表情を一切変えずにそう言うと、既に片付けられた流し台の皿へと視線を向けた。
「……朝ご飯」
「あー……、それで、朝ご飯の件なんだけどさ。二、三十分待ってくんないかな?」
その時、家のインターフォンが鳴った。来客のようだ。僕は玄関に赴き、靴を履いてドアノブに手を掛ける。その寸前で、彼女の方を振り向く。
「これからちょっと、忙しくなりそうだからさ」
そして少し扉を開くと、強い勢いでドアが引っ張られ、僕を呼びつけた主が姿を現す。
身長二メートルはありそうな筋肉質の男が、僕を見下ろしていた。
「『勝負師』、残念だが貴様にはここで死んで貰う――『掌撃』」
一瞬、何が起こったか分からなかった。
気がついたときには、僕の身体は玄関とは逆方向の空中へ投げ出されていた。どうやら、先ほどの一撃で僕の身体は部屋を縦断し、そのまま窓を突き破って外まですっ飛んでいったらしい。
何故か、視線の先ではヴェルクローネも、僕を追って空中に身を投げ出していた。
だが、それは返って好都合だ。
「ヴェル! 精霊のカードだ!」
僕は懐から一枚のカードを出し、ヴェルの方へ投げる。彼女がそれを受け取ると、彼女が微かに青い光を放つ。それを見越してから、僕は全身に力を込める。その瞬間僕の身体はバラバラに分解され、白色の電気の粒子の塊と化す。
こんなのは、僕の能力の内のほんの一部に過ぎない。
「中々面白い事をするじゃないか。だが――その程度では生き延びれんぞ!」
さっきまで僕の居たところに、男の拳が突き立った。轟音と共に地面が二メートルほど抉れ、まるで蟻地獄のようになる。そしてようやくそこに、割れた硝子の破片の雨が降り注いだ。
「武闘家、ってのは随分と手荒な仕事をするもんだね」
硝子で切れた頬から流れる血を手で擦りながら、そう言う。武闘家は武闘家で、硝子の雨をまともに受けたのにも関わらず傷一つついていない。
「残念ながら、俺には金が必要なのでな。その為にはまず小さな芽から摘んでいくのが定石よ」
小さな芽、ねぇ。
「ヴェル。僕の側から離れるなよ」
「言われなくても」
僕は二枚目のカードをヴェルに手渡す。すると、身体を帯びていた電気が失せ消え、手元には一丁の拳銃が握られていた。
『精霊』とは違うカード、『必中の理』の力である。僕は狙いを定めずに、発砲する。
「ぐっ」
弾は彼の肩をかすめた。僕は構わず二発、三発と発砲する。しかし弾は彼の身体を掠めるばかりで、その中心には届きもしない。
「小賢しいぞ青年! 先ほどの能力をもう一度見せてみろ!」
一歩引いた途端、そこに電柱をぶっ刺したかのような一撃が叩き込まれた。
いちいち技が豪快だな。そう思っていると、一緒に逃げているヴェルが淡々と状況を伝えてくる。
「イツキ、探られてる。早く終わらせないと、ゲーム自体に不利になる」
チッ、と思わず舌打ちしてしまう。
まぁ、最初から全力で潰しておいても損はなかったんだが。超能力の発現は互いに居場所を感知させる事になりかねないから、ど派手に相手を潰すと逆に自分の身を滅ぼすことになりかねない。特に今回のゲームのルールを考えれば、得策ではないのだが――。
僕は踵を返し、懐からまた別のカードを取り出す。
「分かったよ。だったら――最大出力でぶっ飛ばす」
ヴェルはそれを受け取り、握りしめる。その瞬間、ふわりと身体に高揚感が訪れる。
「諦めたか小僧! ならば一息に死ねい!」
眼前に、武闘家の一撃が迫る――。
「――少なくとも」
「!?」
武闘家が驚くのも無理はない。眼前に居たはずの僕が、一瞬で彼の頭よりも高い位置に居るのだから。
「能力の危険度を見た目で判断しようというのが荒唐無稽だね」
僕はそのままかかと落としを彼の頭に叩き込み、縺れたところを地面に押さえ込む。
「――白き終焉」
その瞬間、春先には相応しくない、真冬の風が辺りに吹き付ける。その寒さは次第に僕の足下に霜を張り、次第に先ほどまで戦っていた場所を透明な白色に包んでいく。
「本当なら、僕みたいな人間こそ危険視されて当然だと思うけどね」
「イツキ。早くこの場を離れた方が良い」
「分かってる。家に帰るのは、明日以降にしておこう」
その時、既に僕は予感していた。そして、その予感はメールによって現実となった。
「レイジー・ゲーム参加者 様
本日14時41分、参加者同士の交戦が確認されました。この交戦に不正は一切無い事が証明されましたので、ゲームのルールに基づき、今を以てレイジー・ゲームの正式な開催と致します」
†
「へぇ。つまりは、メンバーが黙りを決め込んでいれば開催は無しって事にも出来たってワケ?」
黒髪の青年――天空全殺は、そう言って乾いた笑い声を上げた。
「どうだろうな。超能力者同士は相見えればすぐに喧嘩が始まるような、低俗な輩ばっかりである事も否定できまい」
体育会系のような見た目の青年――接近禁止もまた、このゲームの参加者の一人であった。
「つまり、開催は必然であると?」
「もちろんだ。そしてこの殺し合いもすぐに終わる」
「それは――つまらないね。その程度のゲームなら、5億も賭けずに無料でやるべきだ」
「ではどうするのだ、至高の頭脳――天空全殺は?」
「ゲームに……介入する」
天空全殺の視線は、この部屋に唯一太陽光が入る、天窓に向けられていた。
「本気か」
「やれない事は言わない主義だ。だが、俺一人では無理だな。勿論お前程度の能力でも足りない」
「それで――さっきの能力者を追いたいと言ったのか」
超能力が使われる際には、互いに何となくでこそあれ『誰かが能力を使ったな』という勘のようなものが働く。どこで、どれほどのものかは不明だが、分かるのだ。
「だがさっきの雑音は危険だった。言うなればマイクのハウリング、狂気の悲鳴にも似た――聞いた奴に、それ以外の恐怖を、畏怖を植え付けかねないレベルだ」
天空全殺は扉を開け、外に出る。
「早速行くのか」
「いや――ひとまずは経過観察と、邪魔するクズ共の排除だ」
「そうか。――死ぬほどじゃないなら、付き合うぜ」
そう言い、接近禁止は彼に追従する。
そして主が二度と戻ってこないであろう部屋の中には、一枚のメモが残されていた。
「レイジー・ゲーム参加者一覧
勝負師
武闘家
嘶く媼
死配者
神術の名探偵
狙撃酒
天性の財
歪んだ冠
閃
接近禁止
天空全殺」
飽きたらごめんなさい。