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trinity  作者: トウリン
11/13

「ようやく、お目見えすることが出来たな。いささか待ちくたびれてしまったよ」

 瑠衣るい抄樹あつきを前に、エールリッヒは穏やかな笑みと共にそう言った。二人の子供の後ろに佇むサラに片手を振って下がらせる。サラは一瞬何か言いたそうな素振りをしたが、結局無言で一礼して姿を消した。

「御託はどうでもいいからよ、さっさと親父とレイを返してもらおうか」

 片手を腰に当てて胸を張ったその様子は強気そのものに見える抄樹であるが、それは萎縮しかける心を押し隠した、殆ど空威張りのようなものだった。

「さて、その言葉をすんなり聞き入れるわけにはいかないということぐらいは、君の頭でも解るだろう?君たちは特別な存在なのだよ。何故、それを受け入れようとしないのだ?」

「特別……」

 瑠衣が小さくその単語を繰り返した──その意味を確かめるように。

「そう、『特別』だ」

 エールリッヒはルイの呟きを、彼女が自分たちの側へ傾きつつあるが故のものと取る。笑みを深くし、頷いた。だが、真っ直ぐに彼に向けられた瑠衣の顔に浮かんだ表情に、エールリッヒは触れてはならないものに触れてしまったような衝撃を受ける。

 それは、深い、あまりに深い、悲しみの眼差しだった。

「私は、特別であることなど望んでいません。ただ、父や抄樹やレイたちと、毎日を普通に暮らしていければそれで良いんです」

 静かなその台詞は、エールリッヒの穏やかな偽りの仮面を砕く。噛み締められた彼の奥歯が、鈍く音を立てた。

「普通……?普通、だと……?君の言うところの『普通』を手に入れることがどれほど困難なことか、君は知っているのか?君がすっかり平和ボケしている日本という国で味わっている『普通』の生活は、決して普通なのではないのだよ。あんなものは一瞬にして崩れ去ってしまう、幻のようなものだ。たまたま、今の時代に、あの国にいたからこそ、あんな生活に浴することが出来たに過ぎない。ほんの少し時と場所を違えたら、まったく別の日常が『普通』と呼ばれるようになるのだよ」

 エールリッヒの声は決して荒立てられてはいなかったが、それは静かに活動を続ける休火山のようなものだった。その底では、恐ろしいマグマがゆっくりと渦巻いている。

 その声に鞭打たれ、瑠衣は信彦の手紙に簡潔に書かれていたエールリッヒの過去を思い出していた。彼にとっての日常を。

 確かに、自分たちが過ごしてきたあの生活を普遍のものと考えてしまうのは、傲慢すぎるのかもしれない。

 頭の片隅ではエールリッヒの言い分に傾きつつある自分を、瑠衣は感じていた。だが、それでも、彼の全てを肯定することは出来なかった。

「でも、だからといって、私のような存在を持ち出すのは、間違っている……」

 力の無い反論は、根拠に欠けるものでしかなかった。それを放った彼女自身がそれを最も理解している。しかし、せずにはいられなかった。

「どこが間違っているというのだね?君の力は素晴らしい。それさえあれば、どんな争いだってたちどころに鎮めることが出来る。君にそれがわからないはずが無いだろう」

 じわじわと、真綿で締め付けるようなエールリッヒの言葉に、瑠衣は徐々に身動きが出来なくなっていく。

 否応無しに辛酸を口元に突き付けられて生きてこなければならなかったものと、与えられた平和の中で安穏と生きることが出来たもの。その二者のうち、どちらのほうが言葉に重みがあるのか、それは明らかだった。

 しかし、正論だと思いつつも完全にエールリッヒに傾倒し得ないのは、彼からは、何かが抜け落ちている、そんな気がしてならないからである。そしてまた、それが何なのか判れば、瑠衣は真正面からエールリッヒに対峙することが出来るに違いなかった。

 しかし、それはいったい何なのだろうか……?

 言葉を失った瑠衣を、抄樹が庇うように背中へ回す。

「あんたの言い分は解った。結局はあんたの言いたいことは、世の中を平和にしましょうってことなんだろ?確かにルナを使えば早いよな。だけど、そんな風にして創った平和な世界なんかに、意味あんのかよ。あっさり出来ちまったもんは、あっさり壊れるもんだろ?」

「壊れたらまた作ればいい。何度でも、な」

「瑠衣もいつかは死ぬんだぜ?」

「また新しいルナを作るさ」

「そんなに簡単に作れるなら、どうして瑠衣に拘るんだよ」

「今度は彼女自身を最初から作るわけではない。ルナのクローンを作るのだよ。ずっとね。まあ、新しいルナを作ることも、彼がいれば不可能ではないかもしれないが、な」

 そう言って、エールリッヒは、あたかもその先から鳩を出す奇術師であるかのような優雅な手つきで、腕を真っ直ぐに差し伸べた。釣られるように目をやって、瑠衣と抄樹は同時に安堵の息を吐く。

「レイ……」

「良かった──」

 無事だったのね。

 そう続けてレイの元へ近寄ろうとして踏み出した瑠衣の足が、止まる。

 いささか少女じみたレイの細い喉元には、彼自身の手で、小振りな、しかし鋭利な輝きを放つものが突きつけられていた。

「何で……!?」

「動かないほうがいいぞ、抄樹。レイには医学の知識もあるからな、お前が辿り着くまでにレイの息が絶えるのは必至だ」

 瑠衣と抄樹の頭の中に、ホテルで聞かされたサラの言葉が蘇えった。

「こんな方法で、レイ君を操って……!」

 常の彼女には見られないきつい光を宿した眼差しで、エールリッヒを振り返る。

「サラから聞かされたかな?レイをそのままで放っておくほど、私は抜けてはいないよ。ここには彼が得意とする『武器』がごまんとあるからな。三日もあれば、この研究所はレイの支配下に置かれてしまっただろうな。実際、危ないところだった」

 瑠衣から向けられる非難の眼差しをむしろ楽しんでいるかのように、エールリッヒは目を細め、続ける。両手を広げ、二人のほうへ差し伸べた。

「彼は我々に従ってくれているよ」

「レイを元に戻しなさい」

 低い、声。

 電撃が走ったような感覚を覚え、抄樹は思わず瑠衣を振り返った。そして、明らかに瑠衣ではないものの存在をそこに見る。果たして、今この場にいるのは瑠衣なのか──あるいは、ルナなのか。抄樹にさえ、判断が付かなかった。

「瑠衣──ルナ、止めろ。出てくるな」

 一つの身体に宿る、二人の存在。そのどちらに向けて発したのか──あるいは両方に対してなのか──は、言った本人にも判っていない。しかし、抄樹の声に、ハッとしたように、瑠衣=ルナが振り返る。

「抄樹……あーちゃん……」

 瑠衣は小さく身震いし、何かを振り払うように頭を軽く振る。

「私は、瑠衣……瑠衣、だわ」

 両手で胸を押さえ、そこに向けて囁きかける。

「大丈夫……大丈夫よ、ルナ。そこで見ていて」

 顔を上げ、瑠衣はこの一連の成り行きを面白そうに見ていたエールリッヒを真っ直ぐに見つめる。

「確かに、この世界が素晴らしいものだとは、私にも思えません。そう言うには、あまりに不幸が多すぎます」

「そう思うなら──」

 私と共に、そう言いかけたエールリッヒを遮るように、瑠衣が声を上げる。

「でも!……でも、あなたとは行けません。あなたの考える世界が幸せだとも、思えないのです」

 決然とそう言い放った瑠衣を、エールリッヒは揺らぐ瞳で見つめる。今、彼がその目に収めているのは、果たして瑠衣なのか、それとも……ただ彼の心の中にのみ存在する誰かなのか。

「何故だ?お前の言葉一つで、完全な平和が──全く争いの無い世界が、得られるのだぞ。お前はそれを望まないというのか?」

「人間は、群れに優秀なヤギを必要とする羊たちとは違います。自分で考えるということも知っていると、私は信じています──今は憎しみと恐怖で目が眩んでいる人たちも、きっと、いつか、隣の人が流す涙に気付くはずです」

「きっと……?いつか……?そんな曖昧なものはいらない。私は、今、それを手に入れたいのだ。今すぐ、その確証が欲しい。お前の一言で、それが現実となるというのに……」

 親子ほども年の離れた少女に向けて、エールリッヒが縋り付くように言う。瑠衣は無言で首を振ることだけで応えた。

 彼の目に浮かぶのは、理解できないという思い。それは次第に失望へ、そして裏切りに傷ついたものへと変じていく。

「お前は……貴女は、『ルナ』だろう?何故、私の手を拒む?何故、平和を拒むのだ?貴女が、望んだものが、手に入ろうというのに」

 途方に暮れた、子供の声。あれほど尊大だったものが、今は頼りなく見える。

「エールリッヒ……博士……?」

 呼び掛けた瑠衣の声に、エールリッヒがビクリと身体を震わせる。うたた寝から不意に起こされたかのように瞬きをし、瑠衣と抄樹を見直した。

「いや……いや、何でもない。しかし、君が嫌だと言うのでは仕方がないな」

 意外なほど穏やかなエールリッヒの呟き。だが、静かな言い方であるからこそ、一層、それを聞く者の中では不安がいや増した。

「父とレイ君を、返してください」

「いや、違う。君が、私の元へ還って来るんだよ」

 エールリッヒが、一歩、踏み出す。

「いや、駄目だよ、抄樹。お前が私に触れれば、その瞬間にレイが喉を突く。そこから動くな」

 その台詞の前半が心を、後半が身体を縛る鎖となって、瑠衣を背中に庇おうとした抄樹の動きを凍らせる。

 エールリッヒの手が白衣のポケットを探り、その中から無針注射器の入れられた小箱を取り出した。それに注入されている液体がどんなものであるかは、推して知るべしと言うところだった。

 慣れた手付きで針の先の空気を抜くと、エールリッヒはいかにも優しい医師然とした風情で手を差し伸べる。

「さあ、瑠衣、こちらに来るんだ」

 意志を持って告げられた言葉が、強烈な引力を放つ。幼い頃に植え付けられた暗示に逆らうには、精神力を総動員させなければならなかった。

 敢えて目を背けることはせず、瑠衣はしっかりと正面を──エールリッヒを見据えて、敢然と言い放つ。両の手の平を、関節が白くなるほどに強く、握り締めて。

「いいえ……行けません。私は、行きません」

「ふ……む。君は来ないと言う。それでは、レイ、お前の出番だな。来なさい」

 飼い犬を招くような無造作な呼びかけ。その言葉どおりに、レイがまるで意志の力を感じさせずに動き出す。

「レイ……」

 抄樹にはその光景が信じられなかった。あれほど自尊心の強かったレイが、何の抵抗もなく従っている。そしてまた、そのことが彼の心を決めさせた。

 大きく踏み出した抄樹を見て、エールリッヒが窘めるように首を振る。

「状況がまだ解っていないようだな。それとも、レイは見殺しにすることに決めたかな?まあ、私は別にどちらでも構わんよ。レイとお前はおまけのようなものだからな。いくらでも代わりは作れる」

 侮蔑に満ちたエールリッヒの台詞は、しかし、抄樹の心を傷つけることはない。たとえエールリッヒがどんなに言葉を尽くして抄樹たちの生まれを揶揄したとしても、すでに、それはわずかな濁りさえ、彼らにもたらすことは無かった。

「奴を見殺しにするわけじゃぁないさ。ただ、思い出したんだよ。あいつのために瑠衣を護りきれなかったとなったら、あの世でどんなことを言われるか判ったもんじゃないってことをな。きっと、ネチネチずっと言われ続けるんだぜ」

 この件に関してだけは、完璧なまでに理解しあっている抄樹とレイであった。だが、瑠衣には到底納得できる答弁ではない。

「ちょ……っと!あーちゃん!?」

 エールリッヒとの間に立ち塞がった抄樹の背中に抗議の声を上げる。

「お前が納得できないのも解るけど、レイの気持ちも解ってやってくれよ。あのプライドの塊のようなやつが、あんなクソじじいの言いなりになってるんだぞ?正気になったら、首を吊りかねないだろ」

 口汚い抄樹の物言いに、エールリッヒが眉を寄せる。

「本当に、お前は品の欠片も無いな。お前だけは完全な失敗作だよ」

 選んだ遺伝子が悪かったかと首を振るエールリッヒに、すっかり吹っ切れた抄樹が肩を竦めてみせる。

「あんたにそう言われると、嬉しいよ」

 そう言って不敵に笑いかけると、クルリと瑠衣に向き直った。彼女の耳元に口を寄せると、口早に囁きかける。

「『悪い者は命を持つ者に触れることができない』──瑠衣、言ってくれ」

「え……?」

 咄嗟に何のことか解らず、瑠衣は聞き返す。

「『悪いものは命を持つものに触れることが出来ない』だ」

「わるいものは、いのちをもつものにふれることが、できない……?」

 その意味を理解できてもいない、たどたどしい、鸚鵡返し。瑠衣にとっては何の意味も持たない、ただの単語の羅列だった。

 しかし、抄樹にとっては……。

 彼女の声で暗誦が成され、終了したその瞬間、抄樹の頭を激しい痛みが襲う。いや、痛みなどという表現では生温い。巨大な泡立て器を頭の中に突っ込まれ、脳味噌を思い切り掻き回されているような感覚だった。思わず頭を抱え、その場に膝を突く。

「あーちゃん!?どうしたの!?」

 出会って以来初めて見る、抄樹の苦しむ姿に、瑠衣は現在の状況すら忘れ去った。

「何が……どうして!?」

「大丈夫だ……瑠衣」

 取り乱す瑠衣にそれだけ言って、抄樹は痛みを堪えるべく歯を食いしばる。

「クソッ、あの馬鹿……こんなことは言ってなかったぞ」

 誰に対する罵倒なのかは、瑠衣にも大体予想が付いた。レイの計画したことなら間違いは無いことは解っていたが、それでも、抄樹のこの苦しみようには、いくら何でも不安になる。

 おろおろとなす術も無い瑠衣が見守る中で、その苦痛が薄らいで行くに従って、抄樹の頭の奥に仕舞い込まれていた記憶が徐々に掘り起こされていく。通常なら覚えているはずの無い、物心付く前の記憶まではっきりと蘇えってきた。

「あー……たまんねぇな、こりゃ……」

 頭を振りながら、ゆっくりと立ち上がる。一瞬ふらついた抄樹を、瑠衣が慌てて支えた。

「大、丈夫……?」

 見上げた瑠衣が、心配そうに声を掛ける。

「だいじょーぶ、だいじょーぶ」

 抄樹は驚きのあまりか、微かに目を潤ませてさえいる瑠衣の頭に手を乗せ、クシャリと髪を掻き混ぜてやる。それに応えて瑠衣がホッと安堵の笑みを漏らしたとき、冷ややかな声が温まりかけた空気を凍り付かせた。

「騒ぎは収まったかね」

「おいおい……せっかくいい感じのとこに水を注すなよ」

 すっくと真っ直ぐに立った抄樹の中には、もうエールリッヒに対する恐れは無い。忌まわしい記憶の復活の代わりに、それはきれいさっぱり消え失せていた。

 エールリッヒを目の前にして瑠衣の声で先ほどのせりふを聞くことにより、幼い頃に着けられたエールリッヒへの服従という枷を壊す暗示を、レイによって掛けられていたのだ。

「さあ、仕切り直しってとこかな」

 言いながら抄樹は腰に挟んでおいた特殊警棒を取り出した。スチール製のそれは、一振りで空気を切り裂く鋭い音と共に、五十cmほどに伸ばされる。

 わずかに腰を落とし、今にもエールリッヒに飛び掛りそうな姿勢になった抄樹のジャケットの裾を、瑠衣が馬の手綱を引くように握り締めた。

「あーちゃん、駄目よ。レイ君が……」

「どっちにしろ、動かなきゃ何も起きないだろ」

「でも、駄目……駄目よ、そんなの。皆を助けなくちゃ、助かったことにはならない……そうでしょう?」

「それはそうだけど、それは──」

「理想、だろう?」

 抄樹には瑠衣に向けて言うことのできなかった最後の言葉を、エールリッヒが引き継ぐ。

「理想は美しい、が、その達成は困難なものだ。どこまでそれに近付けるかが、重要なのだよ。抄樹、それを捨てるんだ」

 その命令が実行されることを、エールリッヒは全く疑っていなかった。露ほども。

 しかし──

 微動だにしない抄樹を、心持ち眉を顰めてエールリッヒが見つめる。

「……?抄樹、その警棒を捨てろ」

「そんなこと聞けるわけが無いだろう」

 返ってきた、余裕に満ちた反抗に、エールリッヒは不快を露わに舌打ちする。

「暗示を解いたか──信行がやるはずが無いな。……レイの仕業か」

「お陰でスッキリだ。……えらい目にも会ったがな」

「しかし、ルナの方は解けていないようだな」

「まあ、な。時間無かったし、必要も無かったからな」

 肩を竦めた抄樹に、瑠衣が抗議の声を上げる。

「私だけお味噌なの?」

「……文句は後であいつに言ってくれ」

 責任は、この場に存在しないものに押し付けた。しかし、抄樹の台詞に含まれているものは、それだけではない。聞いた瑠衣の顔がパッと輝いた。

「じゃあ……!?」

「ああ。あいつのことも、何とかしてやらぁ」

 自信に満ちたその声は小さかったが、瑠衣は聞き逃さなかった。

「レイが何の手も打たずにあんな醜態を晒すわけが無いだろう?何か、あるはずなんだ」

「やっぱり、レイ君のことを一番解っているのはあーちゃんだと思う」

 こんなときなのに、何だか笑ってしまった。しかし、和んだ空気もただ一人の言葉で一瞬にして壊される。

「どうやら、抄樹、もうお前はただの邪魔者でしかないようだな」

 苛立ちに満ちたその呟きに、瑠衣と抄樹に緊張が走る。振り向いた二人の目には、何か歪んだ表情を浮かべたエールリッヒの顔が映る。

「お前は、もう要らん……レイ、抄樹を殺せ」

 命じたエールリッヒの言葉に従って、レイがゆっくりと抄樹に歩み寄る──メスの位置はそのままに。

「口では何と言おうとも、お前はレイに手が出せまい。そうするには、信行の育て方が悪すぎる」

「褒めてくれてありがとうよ。──チェッ、読まれてやがんの」

 ぼやいた抄樹は、手を振って瑠衣を下がらせる。レイの手にあるメスを奪うのは簡単なことだ。

 だが──

「先に言っておくが、抄樹、お前がレイに触れたら、奥歯に仕込んだ青酸カリを使うように指示してあるからな」

 正確に急所を狙って繰り出される刃物を避けざまにレイの腕を掴もうとした抄樹の機先を制して、エールリッヒが悠然と言い放った。

 それを聞いて一瞬凍りついた抄樹の隙を突いて、レイのメスが喉を狙う。間一髪で上体を反らしてそれを避け、そのままとんぼ返りをしてレイからできるだけ離れた。

「性格悪すぎるぞ、あんた!あれも駄目、これも駄目じゃあ、お手上げだ……」

 舌打ちをして再び突き出されたメスをかわす抄樹を、瑠衣の目が絶望的な思いで追いかける。その光景は、決してあってはならないもののはずであった。

 抄樹に比べてレイの動きは決して鋭敏とはいえなかったが、抄樹の次の行動をレイは正確に読み取り、着実に彼を部屋の隅へと追い詰めていく。

「く……そっ!」

 ついに退路を断たれ、背中を壁に押し付けた抄樹が低く呻いた。反撃さえ、あるいは腕を掴むことさえできればこんな状況に陥りはしなかったが、如何せん、指一本でも触れればレイの命が無いとなれば、どうしようもなかった。

 ゆっくりと歩み寄るレイに反射的に手を出してしまわないように、抄樹は背後で手を組んだ。

 手を伸ばせば届くところで、レイの足が止まる。

 感情の消え失せたその目を見据え、全ての想いを込めて、抄樹は静かに呼び掛ける。

「レイ……瑠衣を護れよ」

 ビクリと、一瞬レイの身体が固まった。メスを握るその手が小刻みに震える。

 瑠衣が息を呑む。

「レイ、君……!」

 その時。

 切望を込めて名を呼んだ瑠衣の声に、レイの空ろな眼差しに微かな光が走ったことを、抄樹は見逃さなかった。それは蜘蛛の紡ぐものよりも細い、不確かな糸口だった。抄樹は、その藁に縋る。

「瑠衣、レイを呼べ」

 抄樹の台詞を瑠衣が理解し従ったのと、苛立ちを含んだエールリッヒの命令とは、ほぼ同時のことだった。

「レイ、殺れ!」

「レイ君、止めて!レイ君、レイ君、レイ君!」

 エールリッヒからほんの一瞬遅れて、瑠衣の声が追う。それが呪文であるかのように、何度も呼んだ。

 全ては、たった一回の瞬きも許されないわずかな時間の間に、終わった。

 果たして──

「あーちゃん、レイ君……」

 胸を両手で押さえて、瑠衣が喘ぐ。

「失神しないでくださいね」

 メスを持つ手を下ろして、レイが振り向いた。晴れやかな微笑みをそこに浮かべて。

「よ、かったぁ……」

 その場に座り込むことまでは何とか堪えたが、瑠衣は両膝に手を突き、床に向かって大きく息を吐く。彼女の顔を上げさせたのは、続いた抄樹の引き攣った声だった。

「良くないよ。あと一秒で、俺は死ぬとこだったぜ」

 ぼやいた抄樹の首には横一文字に細く赤い線が浮かび上がり、一同が見つめる中、見る見るうちにそれが滴り始める。

「あーちゃん、それ……」

 瑠衣はハンカチを手に抄樹に駆け寄った。

 それに対してレイが返した反応は、冷たいものである。どうやらその傷をつけたのが自分だという過去の出来事は、もう忘れたことにしたらしい。

「君は喧嘩だけは得意だったはずだろう?そんな怪我をするなんて……」

 『だけ』という部分を強調し、信じられないねぇ、と両手の平を天井に向け、肩を竦める。が、今回は抄樹もおとなしく引き下がることはしなかった。

「ほぉう……間抜けにもそこのおじさんの言うことを良い子で聞いちゃっていたのは、どこの天才殿でしょうかねぇ?飴でももらったんでちゅか?」

 瑠衣から受け取ったハンカチを傷に強く押し当て、頬が痙攣するのを堪えて抄樹は応える。最初に垂れた血の量が何かの間違いであったかのように、その傷はすでに塞がり始めていた。

 血でべた付く襟元を気持ち悪そうに引っ張りながら、返す言葉に詰まったレイを、抄樹はさぞ気分良さそうに眺める。

 状況を忘れ去っていた二人を現実に戻したのは、学会からも忘れ去られた科学者の声だった。

「そろそろ、良いかね。二人とも?」

 顔は冷静さを取り繕っていたが、その声は苛立ちを隠してはいなかった──いや、隠そうとしても隠し切れなかっただけかもしれない。

「これはどういうことかな?そう簡単に解ける暗示ではなかったはずだがね」

 レイを見据えて、エールリッヒが問う。

「大事な人に名を呼ばれて正気に返りました──」

「……」

「──と言えれば格好がいいのですが、本当のところは、予めそういう風に自己催眠を掛けておいたのですよ。瑠衣さんが……他の誰でもない瑠衣さんが僕の名前を呼んだとき、僕に掛けられている全ての暗示が解けるように、ね」

 抄樹はそれを聞きながら、レイが消えた日の夜のことを思い出していた。

 あの夜、レイは何度抄樹が呼んでも応えなかった──レイらしくも無い、ぼんやりとした眼差し……そして絶え間なく何かを呟いていた口元。抄樹は一人納得する。

 その顔を見て、瑠衣が抄樹の服を引っ張る。

「ねえ、あーちゃんは知ってたの?」

「いや……知らなかった。何で教えといてくれなかったんだ?」

 そうすれば、こんなに梃子摺らなかったのに、と愚痴る抄樹に、レイは肩を竦めて答える。

「敵を欺くにはまず味方から、と言うだろう?僕だったらともかく、脳味噌筋肉男の抄樹に、アカデミー賞ものの演技はできないからね」

 抄樹と瑠衣は顔を見合わせる。確かにそのとおりかもしれない。抄樹にしろ、瑠衣にしろ、知っていたらあんなに切羽詰った声は出せなかっただろうし、そうすればエールリッヒに感付かれて何らかの手を打たれてしまっていただろう。しかし、そうは思っていても内心複雑な二人だった。

「ふ……ん、先手を打たれていたということか」

 自らの迂闊さを悔やむ色を滲ませること無く呟いたエールリッヒのその声は、今、むしろ楽しげでさえあった。当然推測される彼の心境を鑑みれば、不気味としか言いようのない、口調。

 しかし、下手な恫喝よりも空恐ろしいものを感じさせるそのにこやかさに対して怯んだ様子は全く見せず、レイは同様の陽気さを浮かべて答える。

「僕にこんな立派な脳味噌をくれたくせに、僕があなたの行動を読むだろう、ぐらいのことも判らなかったのですか?」

「そのとおりだな。私は自分の作品にもっと自信を持つべきだった」

 場に似合わぬ和やかさが、何とも言いがたい不安感を誘う。子供たち三人にとって何とも居心地の悪いものであるが、エールリッヒのほうも、同様の感覚を少なからず覚えているようだった。心の内を隠しきれないかのように、細い人差し指が神経質に机を叩いている。

「では……僕の実力を認めていただいた御礼と言ってはなんですが、もう一つ手品をお見せしましょうか」

 言うと、レイは近くにセットされているキーボードに手を伸ばし、スペースキーを一度叩いた。いくつかの文字を入力すると、スリープ状態を解除されたにも拘らず暗いままでいるスクリーン上に、星印が、入れた文字数に応じて現れる。

「いつの間にキーワードを……いや、愚問だな」

「あなたの部下に──」

「部下ではなく、同志だ」

「──『同志』に、僕のことをよく説明しておかなかったことが、敗因其の二でしたね。ここの端末を使用して良いと言われたときには、正直言って、僕も驚きましたけど……無知とは怖いものです」

「ああ、そうだな。あれは私の耳に入る前に許可が出されてしまった。君を手に入れたことで、どうやら気が緩んだらしい。くれぐれも気を抜くなとは、言っておいたのだがな」

「母たちのいた頃とは、大分質が落ちているのではないですか?」

「仕方がない。あの頃とは、何もかもが違ってしまった」

「変な人たちをバックに付けたりするからですよ。当初のとおり、利益など考えず、ただ『世界の平和』のためだけに研究に燃えていた人たちのみを集めていれば、そんなことにはならなかったのではないですか?」

「当初のとおり、我々の特許からの収入で研究が続けられていれば、そうしたさ」

 レイの揶揄に、エールリッヒは肩を竦めた。

 会話を続けながらも、レイの手は素早く、瑠衣や抄樹には理解のできない文字の羅列を 次々に打ち込んでいる。その意味を取れる単語を強いて挙げるとするならば、yes、no、そしてOKぐらいのものだろうか。

 瑠衣と抄樹の感心の眼差しが見守る中、レイは最後のリターンキーを押す。と、同時に、けたたましい非常ベルが鳴り始めた。合成音声が速やかな非難を促す。

「さあ、どうします?自爆装置をセットしました。こんなものを用意しておくなんて、余程後ろ暗いことをやっていたんですね。ちなみに、ご推察済みだとは思いますが、電子機器の記録は全て消去しましたから、身一つで逃げ出すのが一番の得策というものですよ」

「君も科学者の卵だろう。この研究所の成し得たことを消し去るなど、惜しいとは思わないのか?」

「そうですねぇ、あまり好ましくない出生の秘密は抹殺すべきではないかと思いましたので」

「素晴らしいものだと思うがね」

 理解されないことを惜しむ口調のエールリッヒに、レイは悲しく首を振る。

「止めましょう。これは出口のない迷路でしかありません」

「仕方ない、か……。結局は、あの時すぐにお前たちを取り戻さなかったことが全ての間違いの元だったということかな」

 そこにあるのは、諦め。その目は、手の中からすり抜けていく夢だけを、ただ見守っていた。

 エールリッヒは三人に背を向ける。

「行きなさい……レイには信行のいるところが判っているだろう」

 背中を向けることで歩み寄りをも拒んだエールリッヒに、瑠衣が一歩踏み出した──それ以上近寄ることは、抄樹が腕を掴むことで阻止する。

「エールリッヒ博士……あなたも、早くここを出ましょう」

 瑠衣の声にエールリッヒは一瞬振り返りそうな気配を見せたが、結局それは成されず、返事を与えられることもなかった。

「エールリッヒ博士……!」

 抄樹の手を振り払って走り寄ろうとした瑠衣を拒否するエールリッヒの思いを代弁したかのように、二人の間を突然噴き出した炎が隔てる。

「瑠衣、もう駄目だ。行くぞ!」

 爆風に煽られた瑠衣を抱え上げ、抄樹は入り口へと向かう。

「ちょっと待って、あーちゃん!博士を連れて行かなくちゃ!」

 抗う瑠衣に怪我をさせないように、だが、決して彼女を放してしまうことのないようにその腕に力を込めて、抄樹は先に部屋を出たレイの後を追った。

 廊下を曲がった金髪に追いつくのは、それほど時間のかかることではなかった。

「レイ、親父のいるところは?」

 体重四十五㎏の瑠衣を抱えながらも息一つ乱さない抄樹に対して、レイには彼の問いに答える余裕は無いようだった。荒い息で腕を上げ、いくつか先にある扉を指差した。と、実にタイミング良くその扉が開き、そこから信彦がよろめきながら出てくる。

「凄ぇな、レイ。超能力か?」

 抄樹は瑠衣を降ろしながら、あながち冗談でもなさそうに目を丸くしてそう言った。

「まさか──たぶん、エールリッヒ博士だろう。行き違いになってしまうことのないように、今までロックしておいたのだと思うけど……」

 壁に両手を突き、息を切らせたレイが答える。その間にも、抄樹は信彦の下へと走り寄っていた。

「大丈夫か、親父」

 近所のオバ様方に人気だった九条信彦の姿は、今はその面影も残っていない。が、その外見からは思いもよらず、意外なほどその声は落ち着いていた。

「何故、来たんだ……」

「おいおい、俺たちがそんなに薄情だと思っていたのかよ」

 その後のぼやきには取り合わず、薬と運動不足のためか十五㎏は太った義父を背負い、レイのところまで戻った抄樹だったが、そこに足りないものに気付いて脂汗を浮かべる。

「おい、ちょっと待てよ。……瑠衣はどうした?」

「え……?瑠衣さんなら、そこに……いない!?」

「さっきの部屋だ」

 舌打ちと同時に、抄樹は走り始めていた。

「さっきの……って、コントロールルームのことか!?──冗談、あそこから爆発が始まるんだ!」

「第一発はここに来る前に見たぜ」

 背負った信彦を下ろした抄樹は、短い言葉だけで義父のことをレイに任せ、走り出す。残された二人は遠くで響く爆発音に耳を澄ませながら、出口に向かって歩き出した。

 時折よろめく信彦を支えながら、レイは廊下を急ぐ。

「すまないな、とんだ足手まといで」

 ただ歩くということすらままならない信彦が、もどかしそうに謝るのへ、レイが薄い微笑みを返す。

「僕こそ、すみません。抄樹のようにおじさんを抱えて走って行ければいいのですが……」

 言っている傍から転びかけた信彦を支え損なってたたらを踏んだレイは、内心、唇を噛む。

 こんなとき、レイは肉体的に優れるところの与えられなかった自分の身体を、少しばかり恨むのだった。

   *

 一方、抄樹に降ろされると同時にその場を駆け出した瑠衣は、俊足とは言えないまでも精一杯のスピードでエールリッヒのいる部屋へと向かった。

「エールリッヒ博士!」

 飛び込んで、はっとする。すでにその部屋はあちらこちらから炎が噴き出し、到底足を踏み込むのは不可能な状態となっていた。

 そして、その向こうに……

「何故、戻ってきた。早くここを出ることだな。ここまで来た甲斐が無くなるぞ」

 穏やかな声は、あまりに場違いなものだった。エールリッヒの姿は炎と熱気に隠され、もう確かめることはできない。瑠衣には、今、彼がどんな表情をしているのか見ることはできなかった。

「あなたも逃げなければ……」

 熱気に顔を炙られながらも、瑠衣は懸命にエールリッヒの元へ近づこうとする。が、そんな彼女を、不思議に優しいエールリッヒの声が押し留めた。

「来るな、ルシアナ……」

 耳慣れない名前に、瑠衣はそれが自分に向けられたということを理解するのにしばしの時間を必要とした。

「私は、瑠衣です。ルシアナって……?」

「ああ……そうだったな……だが、名前などどうでもいいことだ。そうだろう?ルナでも、瑠衣でも、ルシアナでも……同じことだ」

「ええ、今は何でも構いません。早く、そこから出てきてください。逃げましょう」

「ルシアナ……逃げろ……」

 酸欠のせいなのか、それとも暑さのためか、エールリッヒの声は次第に不明瞭になっていく。それを繋ぎとめようと、瑠衣は必死に言い募った。

「お願いです。あなたの目指すものが間違っているとは、私にも思えません。手段を変えれば、きっと、素晴らしいものになるはずです。お願い、こっちへ来て!」

 返事はなかった。

 直後、大きな音を立てて何かが崩れ落ちる。

 意志を持っているかのように渦巻く炎に怯んだのは、ほんの一瞬のことだった。瑠衣は大きく息を吸い、勢いを付けて火の中に飛び込んだ。

「エールリッヒ博士!」

 ガラスの砕けたひときわ大きなスクリーンの前に、彼は倒れていた。その腰から足に掛けては、巨大なコンクリート塊がのしかかっている。瑠衣の力でそれを動かすことができないのは、明らか過ぎることであった。

「博士、しっかりしてください!」

 鉄材の下から引きずり出そうとエールリッヒの腕を掴むと、彼の目がうっすらと開いた。

「ルシ……アナ?」

「まだ、寝ないでくださいね!」

 瑠衣が渾身の力を込めて引っ張ってみても、エールリッヒの身体はわずかにずれたぐらいのものだった。

「もうっ、動いてっ……!」

 懸命に色々な方向から力を加えてみるが、殆ど動くことはなかった。悔しくて、涙が視界を揺らめかす。しかし、どんなに絶望的な状態でも諦めることなどできなくて、乱暴に目を擦って、再度試みようとエールリッヒの腕を掴もうと手を伸ばした。が、そうしようとして、瑠衣は彼が何かを呟いていることに気付く。

「何……?」

 聞き取ろうと、瑠衣はエールリッヒの口元に耳を寄せる。

「私は、貴女を護ることができれば、それで良かった……」

 口の中だけで呟いたようなその台詞を、瑠衣は確かに聞き取った。エールリッヒをここまで突き動かした原動力を、ぼんやりと理解する。と、同時に、自らの非力さが悔しくて、視界が滲んだ。

 この男をこのまま一人で死なせることは、できなかった。

 腕を握ったまま、無意識のうちに、どんなときでも彼女を裏切ることのなかった者の名が、口を突いて出る。

「あーちゃん、お願い、助けて……」

 それは囁き程度のものでしかなかったはずだ。だが、瑠衣のその声に応えたように、抄樹の声が届く。

「瑠衣、こんなとこで何してる!?さっさと出るぞ!」

「あーちゃん……?」

「呆けてるな、状況解ってんのか?」

 抄樹は彼らしくもなく乱暴と言えそうなほどに強く腕を掴み、瑠衣を立たせた。

「ちょっと待って、博士を助けて!」

「あぁ……?エールリッヒ?」

 瑠衣に言われて足元を見下ろした抄樹は、瓦礫の下敷きになっているエールリッヒに初めて気が付いたようにその名前を呼んだ。実際、瑠衣以外は、周囲に渦巻く炎すら目に入っていなかったのだが。

「お願い、私じゃ全然動かせない……」

 躊躇は一瞬だった。

 自分のパーカーを脱ぐと、髪の毛の先がかなり焦げ始めている瑠衣に、頭からすっぽりと被せた。

「駄目だよ、あーちゃんが火傷しちゃう」

 慌ててそれを返そうと脱ぎかけた瑠衣の手を止めさせた。

「邪魔だから着てろ」

 言って、抄樹は瓦礫に手を掛ける。

「せっ!」

 全身の力を腕と腰に総動員する。抄樹の力を持ってしても、それは軽々とは動かなかった。

「くそぉっ!」

 奥歯が砕けるかと思えるほどに歯を食いしばり、更に力を込める。抄樹の額には、暑さのためだけではない汗がふつふつと浮かぶ。

 瑠衣には数時間にも思えたが、実際には三分と経ってはいなかっただろう。

 息を呑んだ瑠衣の見守る中で、鈍い音を立てて瓦礫が十㎝ほど持ち上がる。

「瑠衣、今だ!」

 頷き返す間もおかず、瑠衣はエールリッヒの身体を思い切り引っ張った。大柄なエールリッヒの身体は、抄樹の持ち上げた瓦礫には程遠いとはいえ、瑠衣にとってはかなりの重さであるといえるはずだ。まさに火事場の莫迦力というやつであったのであろう。

 エールリッヒの爪先が完全に瓦礫の外に出たのを確認して、抄樹は腕の力を抜く。

「うぁー、これ以上力んでいたら、痔になってたとこだぜ」

 腕をすりすり、半ば冗談、半ば本気でそう言った。にやりと瑠衣に笑いかけ、息を吐く間もなく、ぐったりとしたエールリッヒの身体を担ぎ上げる。その扱いがかなり乱暴なのは、場が急を要しているからだけではないだろう。

「行くぞ。せっかくハッピーエンドがもう間近だってぇのに、こんなところで丸焼けはご免だぜ?」

 右手でエールリッヒの身体を支え、空いている左手で瑠衣の身体をしっかりと掴んだ。

 コントロールルームを駆け出し、すでにあちらこちらから炎を吹いている廊下を走る。

「レイ君とお父さんは?お父さんは無事だよね?」

 息を切らせながら、瑠衣が二人の安否を確かめた。それを疑ったことはない──抄樹とレイが失敗するなんて、微塵も思っていなかった。

「ああ、親父はレイに任せて、先に外に連れて行かせた。二人とも、首を長くして待ってるぜ」

 レイが開けていった防火扉に従って、二人──抄樹に担がれたエールリッヒを入れるならば、三人──は迷うことなく出口に向かう。

 時折起こる爆発が床を揺らし、瑠衣の足元をおぼつかなくさせる。近場で生じるひときわ大きな衝撃で転びかけた瑠衣の腕を抄樹が支え、半ば持ち上げるようにして体勢を持ち直させたのも、一回や二回ではなかった。

 いくつ目の角を曲がったときであろうか。

「瑠衣、あれ……出口だ!もうすぐだぞ」

 数十メートル前方に見えた、開け放しの扉。そこから差し込んでいるのは、赤い炎の光ではなく、白い太陽の輝きに間違いなかった。

 二人の全身に、微かな安堵の空気が充ちる。が、それもつかの間のことであった。

 後方で起きた轟音に思わず振り返った二人の目に、次々と噴き出してくる爆炎が飛び込んでくる。それが追いかけてくるスピードは、明らかに二人のそれまでの移動速度よりも勝っていた。

「やべぇ……」

 このとき初めて、抄樹の背中を焦りが伝う。

 有無を言わせず瑠衣の腰に腕を回すと横抱きに抱え上げ、出せる限りのスピードで脚を回転させ始めた。抄樹の全身をアドレナリンが駆け巡り、驚異的な力が信じがたいほどの速度を生む。

 渾身の一蹴りで外へと転がり出て、岩陰へと、瑠衣、そしてエールリッヒを放り込み、その上へ抄樹が覆いかぶさったのと、最後の爆発が盛大に壁を吹き飛ばしたのとは、ほぼ同時のことだった。

 強い風が三人を嬲る。抄樹が押さえていなければ、一番軽い瑠衣などは木の葉のように飛ばされていたかもしれない。

 雹のように降り注いだ大小さまざまな瓦礫がやむのを待って、抄樹がゆっくりと身を起こす。

「大丈夫か……?瑠衣」

 そう訊いた抄樹の背中に、瑠衣がそっと手を伸ばす。

「あーちゃんこそ、背中が傷だらけ……ごめんね、いつも」

「俺に取っちゃぁ、お前に傷が付いたほうがよっぽど痛いよ」

 そう言って、抄樹は瑠衣の手を引いて立ち上がらせた。

 抄樹が慰めのつもりではなく、本心からそう言ったことは、瑠衣には手に取るように判る──彼はいつもそうだった。幼い頃の言葉のとおり、抄樹はどんなときでも、瑠衣のことを護ってきてくれた。

「ありがとう」

 その一言に全てを込めて、瑠衣は笑みを向ける。それこそが、抄樹が何よりも大事に思っているものだった。この笑顔を壊さないためなら、自分はどんなことでもできる。

 瑠衣の身体をそっと引き寄せ、包み込む。何時ぞやのように堪えきれない想いからではなく、今はただ、心の奥から湧き上がってくるもっと穏やかで温かいものに突き動かされてその腕は動いていた。

「あーちゃん、お父さんとレイ君だ」

 抄樹の身体の陰から二人を認め、瑠衣は声を弾ませる。その方向に背を向けていた抄樹にも、下草を踏む音で二人が近づいてくるのは判っていた。

 抄樹が首だけで振り返ると、レイと肩越しに目が合った。

「いい加減、その手を離せば?」

 死地を潜り抜けてきた功労者に対して、いかにも面白くなさそうにレイが言う。

「俺たちは今の今まで、死ぬ目に会ってきたんだぜ?」

 少しぐらいは寛がせてくれよ、と、口を尖らせながらも抄樹が腕を解いたのは、何もレイの言葉に従ったからではない。

 開放された瑠衣が、一散に信彦の元へ駆け出していく。

 もう二度と会うことはないと思っていた娘を抱き止めた信彦の胸の中には、何よりも、信じられないという思いが強かった。もしかしたら、また、薬が見せている夢なのではないか。そんな恐怖と、子供たちに会えたという喜びが、代わる代わる波状攻撃を繰り返す。容易には信じられなかった。

「お父さん……?」

 覗きこんでくる瑠衣の頬を両手で包み込む。その温もりは、夢では有り得なかった。

「瑠衣……本物なんだな?」

「もちろん。帰ろう、迎えに来たのよ」

 少し肉付きの良くなった信彦の胸に頬を押し付ける。手首に巻かれた包帯は胸を苦しくさせたけれど、今はもう、そんなことはどうでも良かった。

 一頻り信彦との再会を実感した瑠衣は、少し離れたところに立つ一人の女性に気が付く。

「サラさん」

 信彦から身を離した瑠衣がその名を呼ぶと、サラは放心した眼差しを向けた。十数人はいたはずの研究所の人間は、彼女以外、もう残ってはいないようだった。

「博士は……エールリッヒ博士は、どうなったのですか……?」

 不安そうに組み合わせたサラの手が、細かく震える。もしかしたら、を考えると恐ろしくて、地面に力なく横たわるエールリッヒの元に近寄ることもできないようだった。

 跪いたレイがエールリッヒの脈を取り、その正常であることを確かめた上でサラに振り返った。

「意識がないだけです。早々と意識を失ったお陰で、煙もそれほど多くは吸っていないようですし。問題は、この怪我のほうだな。もしかしたら、脊髄のほうもやられているかもしれない。悪くすると、下半身不随……」

「でも、生きているのね……?」

 サラの声は、もう、それまで瑠衣たちに聞かせてきた偽りの冷徹さを含んだものではなくなっている。不安を浮かべたその目は、むしろ、気弱そうといってもいいほどのものだった。

 膝を突いたサラに代わり、レイが立ち上がる。一歩後ずさると抄樹の横に立ち、小声ではあるがきつい口調で囁いた。

「何故、彼を助けたんだ?まさか、命を助けられれば感謝して瑠衣さんを狙うのを止めるんじゃないか、何て甘いことを考えているわけではないだろう?」

 レイの冷ややかな眼差しを受け流し、抄樹は肩を竦めた。サラの隣にしゃがみこんだ瑠衣を肩越しに示し、何でもないことのように答える。

「仕方ないだろ。瑠衣が助けろって言うんだから」

「瑠衣さんがぁ?」

 いささか間の抜けた顔を、レイは抄樹の親指が指すほうへむけてしまう。相手が瑠衣では、『何故』を投げかけることなど到底できはしなかった──あまりに容易にその答えが予想できてしまうので。

「symple is the best だな」

 大きな溜め息と共に、レイは思い切り脱力する。なんだか、一人でキリキリしている自分が馬鹿のように思えてきた。

 へたり込みたくなるのを堪えて、レイは瑠衣に肩を抱かれたさらに近づく。取り敢えずはどこか民家があるところへ行かなければ、人知れず野垂れ死ぬことになりかねない。

「サラさん、何か乗り物はないのですか?エールリッヒ博士も早いところ医者に見せなければなりませんし」

 しかし、サラはそれに対して首を振ることで答える。

「いいえ。脱出のために用意されていた自動車は、全て乗っていかれてしまいました。ここにはもう何も……残っていません」

「では、やはりここは体力勝負といくしかないようですね。抄樹、頼んだ」

「何をしろって?」

 呼ばれて、体力が衰えていたところへの急激な運動のためかうとうとし始めていた信彦に付き添っていた抄樹がやってくる。先ほどの脱出劇の疲れは、殆ど回復していた──身軽い動きがそれを物語っている。

「ここからひたすら東に進むと、251号線に出る。そこでヒッチハイクでもして、近場の町に行き、自動車を手に入れて戻ってきて欲しい」

「なんかそれ、無茶苦茶簡単そうに聞こえるけど……?」

「まあ、251号線に出るまで──直線距離で35㎞、そこから町まで50㎞ってところかな」

「う……わ。すげぇらくしょーな道程」

「他に手もないし、君の両肩にここの五人の命が懸かっているんだ。頑張ってくれ」

 肩を叩かれて全てを任された抄樹に瑠衣が同伴を申し出るが、それは当然のことながら即座に却下される。抄樹一人なら一日で可能なことが、彼女が付いてきたのでは下手をすると数日を要することになりかねない。

 それ以上グズついて瑠衣が再び付いてくることを主張することを恐れたのか、抄樹は皆に手を振り、その場を後にする。先の安全を祈る瑠衣の、心ならずも頼る思いが滲んでしまったレイの、そして、血の繋がらぬ息子に対する信頼を浮かべた信彦の、各々の眼差しを背に受け、抄樹は身軽く走り去っていった。

 残された五人は、それぞれの物思いに耽る。

 その所在のない閑寂を破ったのは、脱出して以降初めて発せられたエールリッヒの呻き声だった。

 サラが弾かれたように顔を上げる。

「博士……!?気付かれたのですか!?」

 エールリッヒの視線は縋り付かんばかりのサラを素通りし、宙をさ迷った。

「ここは……?何故、私はここに?何故、私は生きているのだ?」

 彼の声は、心底、その現実を疑うものだった。

   *

 丸められたサラの白衣を頭の下にあてがわれたエールリッヒは、首と目だけで周囲を見回した。それが意識してなのか、それとも無意識でなのかは、傍で見ているものには判断しがたかった──とにかく、その時彼は、首から下を動かすことがほんのわずかもなかったのだ。

「博士、具合はどうでしょうか?……ここは、何か感じますか?」

 言いながら右足に触れたレイには答えずに、エールリッヒは、サラ、信彦、レイ、そして瑠衣の顔を順繰りに視界に収めて呟いた。

「他のものはどうした?」

 それは独り言のようにも取れたし、サラに対する問い掛けのようにも取れた。後者だと解釈したサラは、心持ち目を伏せて答える。

「皆、逃げました。爆発が所外の人間を呼ぶことになるのを恐れたのではないかと思われます」

「自分たちが行っていたことを誇ることもできないというのか……所詮、烏合の衆だな」

「彼らには信念などありませんでしたから。ただ、自分たちのしたい研究ができたからここにいた、それだけだったのだと、私には見えました」

 その口調が、他の研究員が研究所に留まっていた動機と自分のそれとを隔てているという自覚は、サラ自身にはなかった。

 無言で瞑目したエールリッヒの心中を考え、サラはそっと唇を噛む。

 沈没する船を見捨てる鼠さながらに去っていった彼らを責めることはできないと解ってはいても、自分の創ったものが当初の理想とはかけ離れてしまったことを突き付けられたエールリッヒを前にしては、声に含まれた苦いものを払拭することはサラには難しかった。

「博士、僕の訊いた事に答えてください」

 かつての仲間の行動について慨嘆を隠し切れない二人の間に、レイが再び割り込む。そこに多少の苛立ちが含まれているのは、彼にもなかなか整理の付け難い複雑な感情ゆえだっただろう。もしも炎に包まれたコントロールルームにいたのが自分だったとして、足元にエールリッヒが倒れている場面に遭遇したとしても、この男を助けようなどとは決して思わなかったに違いない。

 軽く目の前で手を振ってエールリッヒの注意を引き、更に問う。

「足を動かすことはできますか?」

「足、だと……?動くに──」

 決まっているではないか、と、続けることはできなかった。エールリッヒは目を見開き、サラの手を借りて上体を起こすと自らの足へと手を伸ばした。その指先にあるのは他人の肉体に触れたときと同じ感覚。手には暖かいものを触っているという感触があるというのに、その足が自分の手によって触れられているという応答を返さないが故に、自分の身体に触っているとは到底思えなかった。

「やはり、やられていましたね。一時的なものなら幸いですが、そうはいかないでしょう」

「もう少し柔らかい言い方はできないのですか」

 明らかにどうでも良いという声音のレイに対してサラが咎める色を滲ませたが、対する彼のほうは一向に意に介した様子もなく肩を竦めて返す。

「そうする義理がどこにありますか。確かに自爆装置を操作したのは僕でしたが、そもそもの原因はそちらにあると思いますよ」

 口調は穏やかであったが、内容は決してそうとは言えないその台詞に、サラが面を伏せて口を噤む。その頬にかかった一筋の毛を見て、流石に、自分たちのことについては殆ど知らないと言って良い彼女に対しての今の言葉は不適切だと気付いたレイは、気まずく黙り込んだ。

 むっつりとした沈黙が支配した三人の頭上に、新しい一石が投じられる。それが居心地の悪さを一掃した。

「ねぇ、ちょっと、いいかな。ルナが……博士と話をしたいって」

 彼女の言葉に一同が返事を考える暇はなかった。一瞬後、そこに存在したのは、ルナだったのだから。

「ル……ナ」

 名を呼んだエールリッヒを、ルナは膝を折ることもなく、高い位置から見下ろしていた。その唇は固く結ばれたままである。

 わずかな揺らぎも無い、ルナの眼差し。

 張り詰めた空気は爪で弾けば涼やかな音を立てることさえしそうだった。

 誰もがその沈黙に耐え切れなくなった頃、ようやくルナの口が開かれた。まるで実体が存在しないかのように、コソリとも音を立てず、腰を下ろす。両手を土に突き、わずかに上体を傾けた。

「あなたにとって、私は何だったのですか?」

 それは、ルナが答えを求めた、唯一の問いだった。そして、その答えを得ることを恐れた、唯一の問い。

 研究所で過ごした記憶のない瑠衣と異なり、ルナにとってのエールリッヒは、まさに父親のような存在だった。彼の笑顔を見たくて、言われるままに実験を繰り返した。

 エールリッヒを慕うルナの気持ちは、信彦に対する瑠衣と同じもの──いや、それ以上だったかもしれない。瑠衣には信彦の他に、抄樹やレイがいた。しかし、ルナにはエールリッヒしかいなかった。瑠衣では三人に分散していたものが、ルナではエールリッヒただ一人に向けられていた。

 だが、自分の能力がどんな意味を持つかということに気付いたときから、彼女と彼との関係は音を立てて崩れ去ってしまったのだ。彼がどんなに優しい言葉を掛けてくれたとしても、それはあくまでも『役に立つ道具』に対するものでしかないという考えは、どんなに否定してみても、後から後からルナの心に吹き出てしまう。

 拭いきれないその疑惑に耐え切れなくて、自分は信彦と行動を共にしたのだったのではなかろうか。

 もしも、気付かずにいられたら、エールリッヒと信彦のどちらを選んでいただろうか。 

 それでも信彦を取ったに違いないという確信は、砂の城よりも脆かった。

 現に、今このときも、ルナの心のどこかは、エールリッヒの口から出るただ一つの答えを切望しているのだ。

「エールリッヒ博士、答えてください」

 お願いだから、と泣きじゃくる子供を能面の表情ですっぽりと隠し、ルナは促す。そのルナの冷ややかな眼差しを、エールリッヒは真正面から静かに受け止めた。その瞳には、一片の揺らぎもない。

 ピクリと、一瞬チックのように動いたエールリッヒの下唇に、ルナの目が吸いつけられる。だが、結局それは開かれず、再びきつく結ばれたきりだった。

「博士……?」

 気遣わしげに呼び掛けたサラの声に反応したのか、あるいは彼の中で何らかの動きがあったのか、エールリッヒの目がわずかに宙をさ迷った。

 そして、下された宣告。

「お前は、ただの道具だよ」

 サラの視線が瞬時にエールリッヒに、そしてルナに飛び、レイの肩が微かに揺れる。

 ルナは──身動ぎ一つしなかった。

「お前は、私が神と崇めたひとの姿を映した人形に、お前を真の神たらしめんとする能力を吹き込んだものだ」

 静かにエールリッヒは目を閉じる。

「──ただの、道具だったよ」

 ルナが震えるような息を吐く。頬を一筋だけ伝った涙は、すぐに乾いて消え失せた。

 迷いの消えた双眸で、ルナは明確な意志を持って告げる。

「目を開けて私を見なさい、エールリッヒ」

 最大限の力を、ルナは言葉の一つ一つに込める──それに逆らえる人間は、おそらく、地上のどこにも存在することはできないであろう。どこか焦点がずれたエールリッヒの視線と、今はそこにある力を否定することは誰にもできないルナの視線とが絡まりあう。

「あなたの自我に命じます。あなたの『神』のことは忘れなさい──私のことも。あなたは、『神』を創ることはできなかった。そして、あなたが舐めた辛酸を全て忘れることを、私は、エールリッヒ、あなたに命じます」

 ふっと、ルナの肩から力が抜ける。心からの微笑みが、彼女の白い頬に浮かんだ。

「おやすみなさい──お父さん」

 ルナのその言葉と同時に、エールリッヒの瞼が閉ざされる。そして訪れた、安らかな眠り──それは、彼が再びその手に入れることを望んだものだった。

 今、彼の顔に浮かぶのは、これからは決して失われることのない安堵の表情。

「おやすみなさい」

 繰り返したルナの言葉は、誰に向けたものだったのか。

 それが唯一の支えであるかのように、彼女は自らの身体を両腕で抱きしめる。

「ル……ナさん?本当は、博士……」

「大丈夫だよ、レイ君。ルナは解ってる」

「瑠衣さん?」

「ルナは眠ったよ。今度こそ、本当に。……おやすみ……ルナ」

 瑠衣はルナを抱きしめる。

 彼女の眠りは、もう決して妨げられることはない。

「私も、あなたを愛してる」

 瑠衣がそっと囁いた。自分自身の奥底に向けて。

 ルナが現れることは、もう二度とないだろうことが、少し寂しかった。

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