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夢幻転生記  作者: 懐中時計
異世界 - 2nd life
7/9

第4話 成長

相変わらず説明臭い前半。

 アトカーシャ家は世界に四つある大陸の内の一つ、マルガナ大陸の東側に存在するメルフィア王国にて、貴族としてその名を連ねる。

 貴族と言ってもその地位はさほど高くなく、アトカーシャ家は数ある貴族の内の一子爵に過ぎなかった。

 まあ戦争で手柄を立てただけで、歴史の無い家が子爵になれるだけでも充分凄いが。


 さらに言えば、メルフィア王国は決して大国ではない。

 大国と呼ばれる国、またはある程度の国力を持つ二カ国以上と同時に戦端を開く事になれば、瞬く間に押し込まれるであろう程度の兵力と国力しかない。


 そもそもメルフィア王国は国土自体がさほど大きくなく、せいぜいが元の世界の日本の本州二つ分程度だった。


 その程度の国の貴族ならば、当然持てる領地も限られる。加えて言えば、メルフィア王国における領地持ちの貴族は伯爵以上がほとんど。

 子爵以下で領地を持つ貴族はアトカーシャ家以外には存在しない。



 何故そのように国力に余裕が無いのにも(かか)わらず、アトカーシャ家に領地が与えられたのか。


 それはダリウス・アトカーシャが先の戦争で、その類い希なる軍才で国難を退けた事と、この地域に頻発する魔物の脅威から“精霊の泉”を守る必要があったからである。


 “精霊の泉”は別名“癒しの霊泉”と呼ばれ、その名の通り病気や怪我を癒す力があった。

 ただしこの泉に住む精霊は酷く礼儀に拘る。

 そのため恩恵を受けるにはお供え物をし、泉の前で一時間の祈りを捧げる必要があった。


 もしも礼儀も何も知らぬ魔獣が無作法に泉を穢せば、精霊は怒り、(たちま)ち泉から立ち去ってしまうと言う。

 一度機嫌を損ねた精霊は、最低でも三年は泉に戻ってくる事は無いらしい。


 国力の小さいメルフィア王国にとって“精霊の泉”は、その効果もさることながら、治療目的に訪れる人達が(もたら)す経済効果は看過出来ないものがあった。

 そのため、その功績に見合う褒美を与える必要があり、かつ屈強な騎士団を育てる事が出来る才能のあったお爺様は、この領地にうってつけだった訳だ。



 これが最近6歳になったばかりである俺が、今までに知り得たアトカーシャ家の情報。



「……という訳で、このアトカーシャ家はメルフィア王国の貴族になられたのです。……聞いていますか?」

「はい、聞いています。ダリウスお爺様が戦争で功を立てられたのですよね?」

「その通りです。そもそもアトカーシャ家は……」


 そう言って説明を続ける家庭教師の男性。

 この世界に学校という物は少なく、このメルフィア王国には王都ぐらいにしか設置されていない。

 だから王都に住んでいない貴族の子息などは、その街に住む学者の人などを呼び寄せて勉強している訳だ。

 今はこのメルフィア王国の歴史や世界の出来事などを中心に習っている。



 メルフィア王国は日本の本州二つ分程度の国土しか持たないがその殆どは平地であり、加えて東端は海に面してもいるため、そこまで貧弱というわけでもなかった。

 しかし先にも述べたように、その国力は並程度でしかない。

 というのもこの国には名産と言うべきものが無く、“精霊の泉”が霊泉として崇められているのみだった。


 西は友好国である“ラズフォール王国”と隣接し、南は“アウラ都市連合”と“モントリス共和国”、北側の国境を“ローズランド帝国”と接している。


 ラズフォール王国はローズランド帝国に次ぐ大国だ。

 また人間の国でありながらこの世界に存在する多様な種族に寛容で、人間以外の種族を“亜人”として排斥する帝国とは相容れず、度々国境での戦闘を繰り返している。

 同様に人間以外の種族を受け入れているこのメルフィア王国とは数百年前から同盟関係にあり、決して国力の大きくないメルフィア王国が今まで存続出来たのは、このラズフォール王国の支援に依る所が大きい。


 アウラ都市連合は近隣に存在する都市国家が寄り集まって出来た連合国家で、メルフィア王国は輸入品の大部分をアウラ都市連合に頼っている。


 モントリス共和国はその名の通り国民主権の国で、君主が存在しない。

 国民によって大統領が選出され、その大統領によって国が統治される。

 マルガナ大陸で四番目の国力を持ちながらも、その体制故か争いは好まず、近隣の戦争の調停役として知られている。


 最後にローズランド帝国。この国はメルフィア王国の頭痛の種で、北側の国境は全て帝国と接している。接する国境の90%は山脈に遮られており、それは東の海岸線まで続いている。

 しかし残りの10%が曲者で、ローズランド帝国は度々この10%の隣接地からメルフィア王国に侵入を繰り返していた。



 そして15年前、“サンクラムの侵攻”と呼ばれるローズランド帝国の大侵攻があった。


 それまでローズランド帝国から侵略を受ける度に、ラズフォール王国から援軍を受けてその圧力を撥ね退けていたメルフィア王国だが、この時だけはその援助を受ける事が出来なかった。

 ラズフォール王国で王が急死したのだ。加えて、帝国傘下の国々がラズフォール領内に侵攻を開始した。

 王の急死も含めて、これらは全て帝国の策だとも言われているが、真相は不明。

 兎にも角にも、メルフィア王国はこの時絶体絶命の危機だったのだ。


 メルフィアとローズランドの10%の平地の隣接地。そこはサンクラム地方と呼ばれ、メルフィア王国の絶対防衛線だった。

 しかし形勢は圧倒的に不利。今までラズフォール王国の支援があって五分五分だったのだから当然とも言える。


 そして、誰もが降伏を考えていた時に現れたのがダリウス・アトカーシャ。

 その時は王国の一騎士団の副団長だったらしいが、騎士団長は戦死。崩れかけたその騎士団を纏め直し、すぐ近くの山へ入り、そこに住む獣人族に協力を頼んだ。

 獣人族は元々メルフィア王国とは仲が良かった上、ここでメルフィア王国が敗北すると自身達も危機に陥る事になる為、難なく了解。


 その獣人族は主に夜襲で敵を撹乱し、その間にお爺様は山を越え、後方から帝国軍を奇襲。そして浮足立った帝国軍と、それを見て士気を取り戻した王国軍が再度衝突している間に、獣人族の協力を得た別動隊が、王国軍の背後に堀と柵を五重に備えた簡易砦を建設。


 そうして半年の戦いの末に王国軍は引き分けに持ちこんだ、と。


 言葉にするだけなら簡単だが、それがどれほど難しい事なのか。

 ともあれ、国難を救った英雄として、お爺様は貴族の位に就いた訳だ。

 物語の主人公になれそうなヒーローぶりである。


 因みにそれだけでなく、他の分野も習ってはいる。

 ただ、数学なんかは元の世界の中学生レベルの物がせいぜいで、元々の知識の範疇だった。語学なんかは最初の一年間で殆ど終わらせた。歴史も聞き流すだけで頭に入ってくるし、どうやらこの身体の頭脳は相当に優秀らしかった。


「さて、今日はこのぐらいにしておきましょう。お疲れ様でした」

「はい。ありがとうございました」


 席を立って先生に一礼する。

 先生も同様に一礼して、部屋から出て行った。



「さてと、魔法のおさらいでもしとこうかな」


 本棚に並べてある中級魔法書を一冊手に取って椅子に座る。

 パラリと一つページを捲る毎に、一つ魔法が載っている。

 今見ているページには『噴炎(フレイムピラァ)』の一般的な詠唱文とそのイメージ方法、魔力の練り方、座標指定方法が載っていた。


「円柱状に魔力を放出……タイムラグがあり……主に牽制に使用……」


 読んでみるとどうやら『噴炎(フレイムピラァ)』には発動から発生までにタイムラグがあり、発生地点の魔力の高まりから人や一定の知能を持つ魔獣には感づかれてしまい、命中させるのは難しいようだ。

 それだけに命中させれば相当なダメージが期待できるが、主に牽制用として使われる事が殆どだと魔法書には書いてあった。


 なるほどと思い、さらに次のページへと進む。




 魔法は基本的に火・水・土・風・雷・光・闇の七属性に分けられる。

 どの属性にも分類されない身体強化の様な魔法や、複数の属性を合わせた合成魔法なんかが存在するが、普通はこの七属性が魔法の基本になる。


 先ほどの『噴炎(フレイムピラァ)』は火属性に分類される中級魔法。

 厳密には初級・中級なんていう分類は存在しないが、世間一般では便宜的にそう呼ばれている。




 そうして三十分ほど経っただろうか。

 不意に扉をノックする音が部屋に入ってくる。


「失礼します」


 そう言ってガチャリと扉を扉を開けて入ってくる使用人の女性。


 彼女はカタリナ・ラムールさん。アトカーシャ家の使用人を纏めるメイド長でもある。

 ブラウンの髪を肩の辺りで切り揃えた彼女は今年35歳になるらしい。

 茶色がかった琥珀色の瞳の周りには小皺一つなく、その鋭い眼光には自身の仕事への誇りが見て取れた。

 事実彼女は優秀で、多忙な時期には使用人の仕事の他に父さんの事務処理の手伝いなんかも頼まれている。


 彼女には10歳の娘がいるらしく、夫は8年前に他界。

 そのため自分が稼ぎ手になるしかなく、加えて一日の奉公が終われば家に帰って娘の世話もしなくてはならない。


 それは相当な負担だろうが、彼女はそれをおくびにも出さない。

 公私を切り分け、自分の仕事を確実にこなすプロ精神には本当に感嘆する。




「もう中級魔法書を読んでいるのですか……。まあエレン様ならそれほど不思議でもないですかねぇ」


 呆れたように溜め息を吐くカタリナさん。


 そう、彼女には既に秘密がバレている。

 勿論前世の記憶があるなんて事は話してはいないが、4歳の時に『光玉(ライト)』を使っているのを見られたのだ。


 魔法は一般的に6歳の頃に魔力を感じ取る練習、魔力を練る練習。8歳の頃にようやく最も簡単な魔法を教えて貰うらしい。

 何でも幼い頃は魔力を制御するのが精神的に難しく、暴発する可能性があって危険なのだとか。



 それだけに4歳の少年が10個もの『光玉(ライト)』を部屋中を自在に走らせていた光景は衝撃的だっただろう。


 カタリナさんは直ぐに父さんに報告しに行きかけたのだが、瞬時に飛び付いて他の人には黙ってくれるよう頼み込んだ。

 恐らく彼女が父さんに報告していれば、俺の将来は僅かな選択肢しか残されていなかっただろう。自分の足で世界を見て回ると言う夢も消える。


 彼女が優秀なおかげだろう、それらしいことを仄めかして頼んでいたら直ぐに察してくれた。


 まあ、彼女に相当奇特な目で見られる様になったのはどうしようもない。

 そこに面白がっている風な視線も混じっているのは気のせいだ。



「兎も角、ダリウス様が修練場にてお待ちです。お急ぎ下さい」

「……あ、しまった。分かりました、直ぐに向かいます!」



 直ぐさま椅子から立ち上がり、中級魔法書を棚に戻す。

 カタリナさんに礼を言って庭先の修練場に駆け足で向かう。


 そうだ、今日は剣術の練習の約束をしてたんだった。お祖父様をあまり待たせると大変な事になる。

 その時に振り落とされる鉄拳の痛みを想像すると、思わず身震いしてしまう。

 一週間前に食らった拳骨のたんこぶは、昨日治ったばかりだ。



「ああ、神様なんとかしておいて下さい……」


 そんな投げやりな願いを呟きながら、徐々に走る速度を速めていった。

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