週二回の恐怖(ショートショート)
ほーっ。
”その日”が過ぎて、彼はいつものように胸をなでおろした。今回も”それ”を免れたからだ。
乗り切った。今回も乗り切った。だが、三日後にはまた……。
この寿命が縮む思いのする日は、一週間に二度やって来る。その日は朝から生きた心地がしない。彼に出来る事は何もなく、ただひたすら神へと願う事ぐらいしか術がないのだ。
それでも厄災をやり過ごせば、少しは気も大きくなる。
大丈夫だ。あと三日は普通に暮らせる。さて、何をしようかな。
などと、彼は束の間の安堵の時を楽しむ算段を始めた。
しかし容赦なく時は巡り、再び恐怖の日がやって来る。基本的に日付けが変わってしまえば、それは試練を乗り越えた事になるのだが……。
彼は柱に掛かった電波時計を淡々と見つめ、二つの針が真上で重なるのをひたすら待った。
やった。今回も、無事に乗り切った。
彼は、またもや喜び安堵した。祝杯でもあげようかと思ったが、これまで積み重なった緊張感もあってか、彼は心地よい眠気にいざなわれ、そのまま布団へと潜り込み寝入ってしまう。
彼は夢の中で、誰かの話し声を聞いたような気がした。その声はすすり泣く声にも、それをなだめる声にも聞こえた。だが、更なる睡魔に襲われた彼の意識は、より果てしのない暗闇の淵へと導かれていく。
深夜、彼の部屋にたたずむ二つの影。
「仕方ないさ。ウチも限界だ」
「そうかも知れないけれど、あと少しくらい、せめてお正月を迎えて、もう一度おせち料理を食べてもらってからでも……」
彼の四十を過ぎた息子とその妻が、寄り添いすすり泣いている。夫のポケットの中には、政府から支給された強力な睡眠薬が、まだ一錠分のこっていた。
数時間後、深い深い眠りの中で二度と目覚める事のない彼が、カプセルに入れられベルトコンベアーの上を運ばれて行く。周りには同様の器が幾つもあった。
「やりきれんな。こんな仕事、早く辞めたいよ」
施設の職員が、同僚にぼやく。
「そうだろうけどさ。誰かがやらなければいけない仕事だ。それに俺たちだって、いつかは……」
同僚はそう言いかけて、口をつぐんだ。
彼らは今、どんな夢を見ているのだろうか――。
職員は、数十年後の自分の身の上を思いつつ、なんとはなしにそう思った。
ここは「老人 焼却炉」。
文字通り、増えすぎた老人を燃やす場所である。黄泉へのカプセルに入れられた老人たちは、心地よい眠りについたまま、旅立ちの炎へと向かい進んでいく。
20××年。七十才以上の老人は、扶養する家族の意志により、週二回の「燃えるゴミの日」に出してもよいという法律が制定された。
もちろん、そうする義務はないし、老人ホームなどへ入る事も可能だが、資産などの問題から、実行できる者は殆どいない。多くの家庭では、面倒を見ている家族の経済的な負担が限界を迎えた時、親を「捨てざるを」得ないのだ。
え? 老人たちから、文句が出ないのかって?
それはない。
なぜならば、自分もかつては親を「捨てた」経験があるからである。
当然ながら、好きで親を捨てる者は稀だ。しかし世界人口が二百億人を超えたこの星において”老人福祉”などという言葉はとうの昔に死語であり、それは致し方のない話となっている。
「あれ? おじいちゃんは?」
朝食のテーブルに祖父がいないと気がついた彼の孫が無邪気に尋ねた。
「急な話なんだがね。おじいちゃんは、お友達と一緒に、楽しい所へ行ったんだ」
彼の息子は、以前より考えていた言葉をおずおずと言った。
もちろん、幼い子供は事実を知らない。分別がつく年齢になって、初めて教えられる仕組みである。
”ふう……”
彼の息子はテーブルの向こう側に座る自分の子を見つめながら深いため息をつく。
そして、
”あぁ、自分もいつかはこの子に捨てられるんだろうな”
と心の中で呟き、父の好物だった卵焼きを一気にほおばった。
【終わり】
※ 今度の衆院選で各党の政策を見ると、殆どの政党が現役世代の事ばかりを言いたてているように感じます。まるで年金世代など存在しないかのように振る舞っていると感じたので、いつかはこういう世界が来るのかもなと思いつつ書きました。




