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悪役令嬢と石田三成  作者: 孔明
学園編
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第43話  先生と閣下

 首席とはいえ一生徒に過ぎないヴォーティガンによる授業が終わった。ヴォーティガンは本人が頭が良いだけではなく、教え方も上手だったので非常に分かりやすかったのは不幸中の幸いだろう。

 そして二限目は選択科目の魔法実技の授業である。

 魔法実技を選択していないヴィクトリスやディアーヌは別の教室へ移動した。

 さて、あんなことはあったがアナリーゼはご機嫌である。

 何故ならこの魔法実技の授業こそ、アナリーゼが一番楽しみにしている科目だったからだ。元々日本からの転生者であるアナリーゼは魔法に興味津々だった上に、万能の天才であるヴェロニカ以上の魔法の才能が好きに拍車をかけていた。

 二限目の授業、教室に入ってきたのは先ほどヴォーティガンに授業を代わりにやるようお願いしていた若い先生だった。魔女らしい帽子が実に可愛らしい。


「一限目は……大変でしたね。なんかごめんなさいでした」


 開口一番、魔女らしい先生はぺこりと頭を下げた。

 一応の謝罪も済んだところでこのまま授業開始というところで空気の読めない生徒の一人が口をはさんだ。


「まったくだ。教師の一人が初日に逮捕とは、最高学府が聞いて呆れる。せめて新年度が始まる前の長期休暇中の間に処分しておくことはできなかったのか?」


 その空気の読めない生徒は石田三成だった。


「ちょ、ちょっと三成さん! 言い過ぎよ!」


「いいんですよアガレスさん。完全に石田くんの言う通りですから。今日まで証拠を見つけられなかったこちら側の不手際です」


「ふーん」


 特に動じることなく三成の糾弾を受け容れたところを見て、ヴェロニカが少しだけ面白そうなものを見つけた目をした。


「さて! いつまでも我が校の恥について話してても時間の無駄なので自己紹介をば。私が『最年少!』で魔法実技の教師に就任したロウィーナです! 親しみをこめてロウィーナ先生、もしくはロウィーナ教授と呼んでください!」


(親しみを込めて……? その呼び方のどこあたりに親しみが?)


 普通親しみを込めてなら呼び捨てOKとか渾名で呼んでOKとかであろう。

 同じ疑問を持ったのか三成が挙手した。


「質問がある。貴女に対して親しみを覚えない生徒は、なんと呼べばいい?」


 訂正、アナリーゼより遥かに失礼な疑問を持っていたらしい三成は失礼な質問をした。


「そうですねぇ、じゃあ先生の次に閣下ってつけて下さい。他に質問はありますかー?」


「了解した先生閣下、もうない」


「え? 本当に呼んじゃうんです?」


 冗談を真に受けた三成の態度にロウィーナが初めて困惑する。

 瞬間教室にいる殆どの生徒が悪戯小僧の魂をインストールする。


「はいはいはーい! 次は私が質問! 先生閣下の好きな歴史上の偉人はなんですか!?」


「閣下って最年少っていうけど何歳なんですか?」


「彼氏はいるんですか、閣下!」


「早く授業始めて下さい先生閣下!」


「好きな食べ物はなんですか、閣下!」


「先生閣下! 好きなお魚は!? 私はマグロです!」


 次々とマシンガンのように生徒たちから質問が飛び、教室は一気に盛り上がる。

 アナリーゼもヴェロニカも率先して先生に対して質問を投げかけた。無論”閣下”をつけることは忘れない。


「現在このクラス内でイジメが起きています。イジメられてるのは先生です。イジメかっこわるい!」


 ロウィーナが若干涙目になって言うと、教室中が爆笑に包まれた。

 そんなロウィーナをフォローすべく新たに挙手したのはマルグリットである。


「え、えーとロウィーナ先生はどこ出身ですか?」


悪戯小僧をインストールしていない聖女マルグリットは、ちゃんと先生をつけて質問した。


「うぅ、ハルファスさん……貴女はいい子ねぇ。内申点は色つけちゃうわ。あ、私は王都シリウス出身です! 都会的でしょう?」


 ロウィーナが無い胸を張って答えると、生徒たちは「へぇ」と余り興味なさそうな声が漏れる。

 ド田舎の学校ならともかく、王侯貴族が集まる王都の王立学園で王都出身というのは別にステータスでもなんでもないのだ。


「はーい。他に先生に質問はありますかー?」


「先生ってベリアル王国の王立魔法学園に留学してました? あそこって魔法に関する最高学府って話ですし」


 アナリーゼがまだ顔も名前も知らない生徒が質問した。


「勧められはしたんですが、知らない国に行って一人暮らしでハードル高いし、ホームシックになるので、留学はしたことありません。国内の……国境近くの街でぎりぎり。国外は例え友好国でもアウトです。遠出しても地元のレストランへは行かず、持ってきた食材で自炊します」


「そんな様でバエル王国最高学府の教師が務まるんですかねぇ」


 ミランダが訝しげな視線を送る。


「ラウムさん。大事なのはどこで学んだかではなく、なにを学んだかですよ!」


 するとロウィーナがキリッという表情を作り、三回転半の捻りを加えつつビシッとラウムを指さし、力強く言い放った。

 格好をつけたつもりだったのかもしれないが、年齢が同年代ということもあって微笑ましいだけだった。


「………………」


 まだアナリーゼはロウィーナとは出会って一時間も経っていないが、中々面白そうな先生なことは分かった。三成も前のメリルのせいで上がっていた教師に対する警戒感を、ロウィーナ相手には下げることにしたようだった。

 質問が粗方終わるとロウィーナはわざとらしくこほんと咳払いをする。


「じゃあ実技に入る前に基礎をおさらいです。魔法は大きく分けて属性魔法と初歩となる無属性魔法の二つに分別され、属性魔法は火、水、土、風、黒、白の六属性に分類されます。

 そしてどんな才能があろうと生まれもった属性は一つで、属性外の魔法も努力すれば使えるようになりますが、自分の属性外の魔法は効果が落ちます」


「例外として、白と黒の属性の持ち主は、他の属性魔法を一切使えない……ですよね」


 マルグリットが補足するとロウィーナは頷いた。


「その通り! ちなみに私の属性は水です。ですが知っての通り最年少で教師になった天才なので土属性と風属性の魔法だって使えます! 反対属性の火は流石に無理ですが」


「閣下だけあって凄いです閣下!」


「……閣下はもういいですってば」


 この僅かな間にすっかり定着してしまった閣下という渾名に、ロウィーナはげんなりしていた。そんなロウィーナを見ながらアナリーゼはふと気になったので、隣にいるヴェロニカに話しかけてみた。


「…………ちなみにヴェロニカってなに属性?」


「私は水よ。アンタは……確か土よね」


「ええ。いろんなものをその場で錬成できたり便利だわ」


「便利! 中々いい着眼点ですね!」


「わ!?」


 アナリーゼたちの会話を聞いていたロウィーナが体を乗り出して割って入ってくる。


「アガレスさんの言う通り土属性は四属性で一番潰しが利く属性と言われています。素材があれば製作の工程を省略できる錬成を始め、日々の生活で役に立つ魔法が沢山ですから」


「はっ! 土属性がなんだっていうんだ! 最強は私の火の属性だよ!」


 アナリーゼに対抗意識を持ったのか、ミランダが自分の属性こそが最強であると高らかに宣言した。ロウィーナはにっこりと微笑むと、


「ええ、ラウムさんの言うように火力は火属性が最高ですね。なので武官希望者は火属性と、対人戦に秀でた風属性が多いです。水属性は白魔法以外で唯一回復を使えたりと、バランスに秀でた傾向があります。

 黒魔法は呪詛などの相手の弱体化に特化していて、白魔法は回復魔法を中心に支援に特化してます。ちなみに白魔法は希少で白魔法使いは医者として引く手数多な一方、一切の攻撃魔法を持たないという弱点があったりしますね」


 生徒の雑談すら授業に取り入れて、ロウィーナは魔法について分かりやすく説明していった。天才には天才肌が故に人に教えるのが下手な人がいるが、ロウィーナはそれには当て嵌まらないようだった。一限目の授業を代行したヴォーティガンと同じで教えるのも上手な天才だったらしい。最年少で教師として採用されるのも納得だ。


「じゃあ基礎のおさらいはここまでにして、早速実技タイムといきましょうか。細々とした質問は、魔法座学で聞いてくださいね」


「ようし、魔法は得意科目! 頑張るわよ!」


 アナリーゼは気合を入れる。学業はまだまだのアナリーゼが、唯一トップクラスの成績を残せるのが魔法実技だ。熱が入るというものである。


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― 新着の感想 ―
この先生可愛いですな ギャルゲーじゃないのが残念っすわ
ヲタ気質の現代人ならば魔法の授業は楽しくなるよね。アナリーゼも密猟者や信奉者を樽爆弾にしたり、服従の呪文で同士討ちさせるようになると心が浮き立つ思いです。
先生閣下面白い。年齢近いからみんな気楽に接しちゃうんだよね
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