第42話 初授業と初逮捕
翌日。いよいよシリウス王立学園の初登校である。
途中、ヴェロニカの後姿を発見したアナリーゼはテンションを上げながら小走りで追いついた。
「Hey! ヴェロニカ! 今日から授業スタートね! 一緒に教室へ行きましょう!」
「朝っぱらからテンション高いわね。徹夜でもしたの?」
「だって学園生活の初めての授業よ! テンションくらい高くなるってもんよ!」
「……確かに初陣ってのは緊張して変なテンションになるな」
と、今日もヴェロニカと一緒にいるバジルが同意した。
「ところでヴェロニカ。この学園には20以上の部活動があるらしいけど、入りたい部活とかある?」
「部活? そうねぇ、まだ特にこれっていうのはないけど、アンタは?」
「私は……えーと、カシム先輩に生徒会を見に来ないかって誘われてるくらいかしら。ヴィクトリス殿下は騎士部と狩猟部、マルグリットは漫画の執筆に専念したいから特定の部活に入らないって言ってたけど」
「生徒会ね……他に気になる部活もないし、一緒に行ってもいいかしら?」
「勿論いいわよ!」
「!」
驚いた三成がアナリーゼを小突く。何事かとアナリーゼが振り向くと、三成は非難の目を向けていた。そしてヴェロニカに聞こえないよう小声で囁いてくる。
「(おい、生徒会に入らせてカシムと接触させるのも、それはそれで不味いだろう)」
「(あ。で、でも今更やっぱ一緒に来ないでなんて言えないし)」
そうしていると先ほどアナリーゼがしたように小走りで追いついてくる女生徒がいた。今年一番のVIPであるディアーヌである。
「おやおや。朝から仲が良さそうですね。私からヴェロニカをとっちゃう気ですか、アナ?」
「とっちゃうって、友達同士一緒に登校してただけよ」
「そもそも私はディアのもんじゃないわよ」
「誰のものでもない、つまりフリーってことですね!」
「変なところでお花畑ね、相変わらず」
(咲いてる花はきっと百合ね! キマシタワー!)
もしかしたら前世では今頃ヴェロニカ×ディアーヌが東京ビッグサイトで売られているのかもしれないな、と少しだけ戻れない現代日本に思いを馳せた。
「ところでディア。貴女は部活動に入る予定はあるの?」
「私はまだ決めてないですねぇ」
ヴェロニカの問いにそう答えるディアーヌ。ヴェロニカはならばと、
「彼女と三成とで生徒会に顔を出す予定なんだけど、一緒にどう?」
「うーん、ヴェロニカが行くなら行ってみるのもいいですね!」
生徒会そのものに興味はなさそうなディアーヌであったが、友達と部活動巡りすることには興味があったのだろう。ディアーヌがOKを出した。
「決まりね。じゃあ四人で行きましょう。それでいい?」
「え、ええ」
ヴェロニカに加えてディアーヌも一緒に生徒会に押し掛けることになってしまったが、ヴェロニカだけと一緒に行くよりはいいだろう。
そうこうしていると王立学園の校門が見えてきた。
アナリーゼは不安と期待を胸に、校門をくぐった。
それから学園最初の授業。
教壇に立つのは一限目の魔法薬の先生だ。アナリーゼとしては魔法薬の先生といえば、気に入らない生徒にアカデミックハラスメントをしまくる育ちすぎた蝙蝠のような男の先生なのだが、この世界の魔法薬の先生は女性だった。それも教師でありながら、どこか妖艶な雰囲気を醸し出している人だった。
「初めまして皆々様。魔法薬教師のメリルと言います。どうか三年間、よろしくお願いいたしますね」
『よろしくお願いします!』
生徒たち(特に男子生徒)から返事が返ってくると、メリルは楚々とした仕草で微笑む。一挙手一投足が一々艶めかしい。
果たして一体どんな授業をするのかと興味津々でいると、いきなり教室の扉が勢いよく開かれてヴォーティガン・リドルが現れた。
「お巡りさん! こいつです!」
「???」
アナリーゼだけではなく、あのヴェロニカすらが突然の事態に全員がクエスチョンマークを浮かべる。だが事態は待ってくれず、今度は小太りの憲兵が教室に入ってきた。
「やぁやぁ。初めましてメリル先生。未成年者淫行の容疑で貴女に逮捕状が出ています。一緒に来てもらいますよ」
「淫行だなんて酷い。あれは純愛です!」
「貴女の脳内ではどうだか知りませんが、世間一般では未成年の男子生徒を何人も囲って乱痴気騒ぎをするのは、淫行と表現するんですよ。というわけで、行きますよ。学生さんには存在がもう、毒ですから」
「いやぁあああああ! 美味しそうな生徒が沢山入ったのにぃぃいいい!」
最低の断末魔をあげながらメリルは教室から引きずられていった。
ぽかんとするのは入学して最初の授業にこんな事態を見せられたアナリーゼを含む生徒たちである。
そうしていると魔女らしい帽子を被った見た目の年齢はアナリーゼとそう変わらなそうな先生が現れた。
「え~というわけでメリル先生は豚箱へ異動となったので、今日のこの授業は二年生首席のヴォーティガンくん! 君に決めた!」
「先生、俺も学生ですよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! ぶっちぎり首席のヴォーティガンくんなら一年生の授業くらい余裕でこなせちゃいますから! じゃあ任せましたよ!」
「はぁ、やれやれ今回だけですよ」
こうして、ヴォーティガンの活躍により、初回の授業が自習という最悪の事態は免れた。




