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第34話  悪役令嬢と悪役令嬢

 使者としてアガレス家へ派遣された男、ボルテックは欠伸をしたいのを我慢しながらアナリーゼ・アガレスが来るのを待っていた。

 ボルテックの主人である姫殿下は有能な人材を好む人材マニアとしての側面と、好き嫌いの激しい偏愛家としての側面を併せ持つ。そして新たに姫殿下の目に留まった優秀で気に入った人材が、アガレス家に仕える三成だったのだ。

 ボルテックの目的は探偵のノアの身柄を餌に、石田三成をアスモデウス王国に連れて帰ることである。連れ帰った後は姫殿下が三成をスカウトするためにどこまでやるか次第だろう。


(まあもっとも一介の探偵一人、切り捨てるということも考えられるが)


 姫殿下はその時は無理はしなくていいと言っていた。

 なのでボルテックとしては気楽なものだった。アガレス側が強硬手段に出てきた場合に、歯に仕込んだ毒薬を噛み砕くだけで良いのだから。


「待たせてしまったわね、アスモデウス王国の使者の……」


 暫く待っているとアナリーゼ・アガレスが三成を伴って現れる。

 自分の主君に負けず劣らずの美しさだと思った。


「はい。それで三成殿は……」


「私も行くことにしたわ」


「はい?」


 使者としてはあるまじきことだが、どう考えてもおかしいことを言われたので、きっと聞き間違えたのだろう。

 だが現実は非情だった。


「だから私も行くことにしたわ。ノアっちの雇い主をお呼びなのでしょう? それなら私も広義の意味での雇い主だわ」


「そういうことだご使者。帰ってその旨を伝えられるがいい」


「――――――っ!!」


 どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 気楽だったボルテックの脳内が、一気に蒸気をあげながら猛回転を始めた。


(一介の探偵のために王位継承権第五位が乗り込んでくるだって!? 海老で鯨が釣れたようなもんだぞ!! 不味い……ここまで大ごとになってしまうなんて……どうすれば……どうすれば……。

 非公式の来訪とはいえ、王位継承権を持つ公爵令嬢相手に下手なことをすれば、戦争再開になりかねない大問題になるぞ!)


 ボルテックはそれなりに主君の姫殿下に近い位置にいる。だから主君がアスモデウス王国とバエル王国の戦端が開くことを望んでいないことを知っていた。


(これはもう最高峰の歓待をもって迎えるしかない!)


 ボルテックは自分の主の策謀が、粉微塵となったことを認めざるを得なかった。




 アスモデウス王国において国王唯一の子供であるジゼル・アスモデウスは、王宮ではなくもっぱら自分の別邸に住んでいた。

 そしてジゼル王女の第一の家臣でありクロムウェルと友人でもある男、フェアファクスはボルテックから届けられた手紙を見て仰天した。


「ジゼル様。ボルテックからの報告によれば、三成だけではなく公爵令嬢アナリーゼ自らが乗り込んでくるとのことです!」


「へぇ。初手から必殺を繰り出すなんて不快じゃない」


 好悪が激しいとされるジゼル・アスモデウス。三成に対しては”好”と出た目は、アナリーゼ・アガレスに対しては”悪”と出た。

 それもフェアファクスには分かる。この”悪”は飛びっきりだ。なにが癇に障ったのか、自らの主君はまだ会ったことすらないアナリーゼ・アガレスが相当大嫌いらしい。


「三成をこの世で最も必要としているのはジゼルなのに、割って入る間女……浅ましい。だいたい最も命を大事にするべき主君が、家臣のために命を捨てかねない行為をするなんて愚かしいわ」


(色々ブーメランな上にどちらかといえば貴女の方が間女です)


 当然そんなことは口が裂けても発言できないので、ぐっと唾と一緒に呑み込んでおく。

 フェアファクスにとってジゼル王女は自分を取り立ててくれた大恩人であり、命を懸けて忠誠を誓い続ける所存ではあるが、この癖の強さは矯正されないものかと思い続ける毎日だった。



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― 新着の感想 ―
ボルテックさんの覚悟決まってるのかっこいいし、そんな人が前提条件崩されてパニクるのも好き。コンボが決まった。こういうので取れる栄養素がある。
光の悪役令嬢と闇の悪役令嬢のせめぎ合い!いや何言ってるんだ俺?
敵国への使者とか殺されても仕方ないからね。捕まって情報抜くために拷問されて殺されるぐらいなら毒飲んで死んだ方がマシなのだろう。
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