第20話 平民宰相とサプライズ
恋愛要素メインじゃないのでジャンルをハイファンタジーに変更しました
後日。深く考えもせず大赦を出したが、学習能力はあるアナリーゼは、ヴェロニカに言われたことが気にかかっていた。
意を決したアナリーゼはハレーとラウラの二人を呼び出した。
「アナリーゼ様。急な呼び出しとはどうなされたのでしょう?」
「緊急にしては三成殿がおられませんけど」
重要な話をする場合、アナリーゼの側には常に三成がいた。二人が疑問に感じるのも当然のことだろう。
だが今回は三成を同席させるわけにはいかないのだ。
「実は王都で会ったヴェロニカに、三成さんは奉行っていう職はあっても爵位はないって言われて、引き抜かれそうになったのよ」
ああ、と二人が納得した顔をする。三成は奉行としてアガレス家の全てを取り仕切る権力を持っているが、その職をアナリーゼに解かれれば、ただの根無し草の平民に過ぎない。
その点、職を解かれても貴族としての爵位があるから、食うのに困らないハレーやラウラのほうが恵まれていると言えた。
「んまっ! 三成さんは爵位とかなんにもなくても、私の味方だって宣言してくれたし、裏切りとかそういうのまーったく警戒してないんだけどね! でもでも色々調べたんだけど、この国じゃ爵位がないと不便なんでしょ! だから三成さんにも爵位的なものをあげたいと思うの!」
「…………まあ悪くはないかと。当主代行の代行の奉行ともあろう人物が爵位なしでは恰好がつきませんし」
「前回の内乱未遂で大量の一門取り潰して土地も余ってますしね」
ハレーとラウラの二人は其々アナリーゼの提案に同意した。だが、とハレーが続けた。
「ベリアル王国が授爵の権限を大貴族に与えた結果、国がバラバラになってしまったことの反省もあり、バエル王国では授爵は国王のみが行えます。なので公爵家として国王陛下に授爵を推挙するという形になりますが」
「そこのところはハレーに任せるわ! あんなお父様でも王様の義弟なんだもの! コネはあるでしょう!」
「分かりました。では私のほうで働きかけてみましょう。授爵の理由は……」
「これまでの奉行としての働きぶりや、一揆と内乱鎮圧の功で十分じゃないですか?」
「それもそうだな」
三成が来る前からアガレス領の良心として働いていたハレーとラウラは、阿吽の呼吸で三成授爵の手続きを進めていった。
そんな二人を見てアナリーゼは満足気に微笑む。これで三成へのサプライズプレゼントは成功しそうだ。
それからハレーから王政府から色よい返事が貰えそうだという報告を受けたアナリーゼは、我慢しきれず正式決定前にサプライズ報告してしまうことにした。
「三成さん、サプライズ! これから三成男爵よ!」
「『さぷらいず』とは……なんぞや?」
「驚かせるってことよ! ともかく三成さんはアガレス一門の男爵になるの!」
「お嬢様。いきなり男爵だサプライズだと言われても三成様が混乱してしまいますよ」
呆れた様子のヘンリーが三成に、アナリーゼが三成へ男爵位を授爵させるために動いた経緯を説明した。
ヘンリーの話を聞き終えた三成は納得したように頷く。
「官位か。確かにそういうものが必要になる時もあるだろう。俺にも覚えがある」
秀吉によって朝廷から従五位下・治部少輔に叙任された時のことを思い出しながら三成が言った。
「でも直ぐには男爵になれませんよ。例え授爵されても王立学園を卒業するか、三十歳にならないと当主にはなれませんから。三十歳まで待つのは長すぎるので、これは三成様も入学ですかね」
アスールがそう言うと、三成が怪訝な顔になった。
「……? 俺は41歳だぞ」
「あははははははは、冗談が下手ですねぇ。その肌の瑞々しさで四十歳は無理がありますよ」
アスールの言葉に嫌な予感がした三成は、この世界にきて初めて鏡で自分の姿をまじまじと見つめる。
するとそこには本能寺の変が起きたばかりの頃の、若武者だった自分の姿があった。
三成が狐につままれた気分になっていると、アナリーゼから爆弾発言が飛び出す。
「三成さんは召喚時に肉体のほうは全盛期の頃になってるから! これが今流行りのショタジジイってやつよ! 二十歳はショタじゃないし、41歳は爺というには無理があるけど!」
「…………聞いてない」
「え!?」
アナリーゼが「しまった」という顔をして、ヘンリーとアスールは召喚だの全盛期だのという意味不明な言葉に顔を見合わせる。
「アナリーゼ! 話があるッ! これからお前の部屋へ行く! 余人は不要、二人きりでだ!」
三成はキレ気味に叫ぶ。
アナリーゼに拒否権はなかった。
ヘンリーとアスールのいない自室でアナリーゼと三成の二人っきりで対面する。
兎にも角にもアナリーゼがしたのは三成に対する平謝りだった。
「だからごめんなさいって。コロッと忘れちゃってたのよ。だいたい三成さんだって鏡見たら気付かない? 若返ってるって」
「俺はそんなに鏡を見ない。だが最近、やけに体の調子がいいとは思っていたが謎が解けた。よもや若返りとは。始皇帝もあの世でひっくり返ってるだろう」
「で、でもでも若返って特に損するわけじゃないんだしいいじゃない! それに三成さんと合法的に一緒の学校に通えて私もハッピー! 三成さんもハッピー! オールハッピーじゃない!」
「ハッピー……確か嬉しいという意味だったか。どうして俺が一緒に学園に通えると嬉しいのだ? 俺には奉行としての仕事があるのだが」
「ダメダメダメ! この学園生活こそが本番なんだから! 三成さんの助けがここでこそ必要なの! バイタリティ!」
アナリーゼが思い返すのは毎度お馴染みネタバレ糞レビューアーのネタバレレビューだ。
ネタバレ糞レビューアーはレビューでこう語っていた。
『このゲームは大きく分けて三つのパートに分けられます。ヴェロニカが性格ゴミな父親と戦う立志編。王立学園を舞台に、攻略キャラにフラグをたてたりする一番乙女ゲーっぽい学園編』
学園入学前のプロローグ的なエピソードと、本番となる学園でのエピソード。
ここまでなら普通の乙女ゲーだ。問題は次にあった。
『そして学園編でフラグをたてたキャラの個別ルートでもある”動乱編”です』
動乱編。なんと乙女ゲームに似つかわしくない言葉だろうか。
立志編も立志編で乙女ゲームっぽくはなかったが、動乱編から発せられる血生臭さと物騒さはその比ではない。
『この動乱編では個別ルートに入らなかった他の攻略キャラ(バジル以外)とは敵対する運命にあるわけですが、学園編で好感度を稼いだ相手だと、自陣営に引き込めたり同盟をしやすくなったりします。だから普通の乙女ゲーみたく、攻略するキャラ以外は完全スルーとかやってると、動乱編で四面楚歌喰らって痛い目に合うので注意しろよぉ! 俺は一度それで詰んだ!』
なおネタバレ糞レビューアー曰く、このゲームでの最難関は学園編でひたすら『寝る』だけを選んだバジルルートらしい。
通称のび太君ルートと言われ、立志編までの仲間だけで好感度ゼロの敵だらけとの戦いを強いられるだとか。
「というわけだから、この学園生活には私の命がかかってるのよ! お願い三成さん、私と一緒に学校へ行って!」
そういう事情ならばと三成も頷いた。
「安心しろ。俺は八万の兵を集め、家康と天下を二分した男。学園生活などどうということはない。お前の味方を増やしてみせよう。三成号は大船だ」
「おおーっ! よ! 石田三成! 名奉行!」
なおその大船は六時間で沈没した。
その時だった。私室のドアが規則正しくノックされる。
「誰?」
「私です、ハレーです。重要な報告がありますので入っても宜しいでしょうか?」
「いいわ」
アイコンタクトで三成に同意をとってから許可を出す。すると手に書状を持ったハレーが入ってきた。
「アナリーゼ様。三成殿の授爵についての根回しは問題なく終わりました。ただもう一つ……これは朗報といっていいのか分かりかねますがご報告が」
「どうしたの?」
「王家より第三王子ヴィクトリス・バエル殿下との婚約話が内々に持ちかけられました」
ぎゅっと手を握り締める。それはアナリーゼにとって第二の死亡フラグそのものだった。
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