幕間 ネタバレ糞レビューアーの原作ではこうだった
悪役令嬢アナリーゼ・アガレスにとっての終生の疵であり、死の原因の一つであったエカテリンブルク一揆は、転生したアナリーゼと三成の活躍で無事に収束した。
ヘンリーの幼馴染のユメリアは勿論、一揆の首謀者であったトレヴァー・アイアンモアも死なない極めて穏健的な解決は、後々の禍根を一切残さぬものであった。
ではアナリーゼ・アガレスの中身が転生者ではなかった――――本来の歴史では、どのような結果となっていたのか。
ネタバレ糞レビューアーのレビューの中から引用すると、
『一言で言えば胸糞、ですかね』
という一言に尽きるだろう。
悲劇の始まりは悪役令嬢アナリーゼが、珍しくやる気を見せたことから始まった。
「エカテリンブルク……とかいう場所で一揆が起きたようね! 私が一揆鎮圧の総指揮をとるわ! いいわね?」
我儘で知られる令嬢の鶴の一言で(父である公爵が無気力なことも相まって)一揆の対処は悪役令嬢アナリーゼがすることとなった。
無論これは急に悪役令嬢アナリーゼがノブレスオブリージュに目覚めたわけではない。悪役令嬢アナリーゼのやる気の原因は、アガレス家に匹敵する公爵家の令嬢である(つまりゲームの本来の主人公である)ヴェロニカ・ウァレフォルにあった。
というのも一揆が起きる一か月前に、ヴェロニカは兵士ですらない街の若者五十人を引き連れて、名のある五百人の山賊を殲滅し勇名を馳せていたのだ。
一方的にヴェロニカをライバル視するアナリーゼは、自分もまた武勲をあげてやろうと今回の一揆の対処を買って出たのである。
悪役令嬢アナリーゼは直ぐに数千の討伐軍を用意させると、自ら馬に乗って出陣した。
これが歴史上における悪役令嬢アナリーゼの初陣であった。
「さあ一揆を起こした連中を皆殺しになさい!!」
「はっ」
といってもヴェロニカと違い、軍の指揮は完全にド素人の悪役令嬢アナリーゼにできるのは開戦の号令をするだけであった。実際に兵を動かすのは、副将の仕事である。
この副将は特に有能ではなかったが、さりとて無能でもなかったので、やせ細った農民の集まりでしかない一揆勢を、練度と装備のごり押しで殲滅してみせた。
中身が転生者のアナリーゼと三成のやった無血開城とは正反対の皆殺しという凄惨な結果ではある。だがそれだけならば相手は公爵家に反旗を翻した反徒であり、やり過ぎと思われることはあったとしても、非難に値することではなかった。
悪役令嬢アナリーゼが悪役令嬢たる所以はここからである。
「少ないわ」
「今なんと?」
「少ないって言ってるの! ヴェロニカは500人殺したっていうのに、ここに転がってる死体はどう見ても200ぽっちじゃない!」
この戦いに従軍した兵士が残した手記によれば、正確には197名であったという。
「これじゃあ私がヴェロニカに負けたみたいだわ!」
兵士でもない50を率いて500を殲滅したヴェロニカと、数千の討伐軍を率いて200を皆殺しにした悪役令嬢アナリーゼ。これを比較対象とできるのは悪役令嬢アナリーゼくらいだろう。例え悪人であろうと、羞恥心が働いてそうはできない。
だがそんなことを指摘すれば皆殺しにされた一揆勢と同じ末路を辿ることは分かっているので、副将はそんなことを馬鹿正直に指摘することはなかった。
「そう言われましても、一揆参加者はこれで全員です。他には一揆に参加していない村人しかいません」
副将がそう言うと悪役令嬢アナリーゼはぱぁっと目を輝かせた。
後に激動の時代を生き抜いた副将は、この時の悪役令嬢アナリーゼのことを、小動物を無邪気に殺して笑う幼児のようであったと述懐している。
「そうだわ! 一揆を止めなかった村の連中も、一揆に参加したも同じよ! 村の奴らを500人を超えるだけ……いいえ、けち臭いこと言わないから皆殺しにしなさい!」
「なっ!?」
副将だけではなくそれを聞いていた誰もが絶句する。
だが反対する者は誰もいない。自分の死を覚悟して正義を行える者は数が少なく、この場には一人もいなかったのだ。
果たして悪役令嬢アナリーゼの命令は実行された。
エカテリンブルク村にいた一揆に参加していない1000人近い人間が、一方的に皆殺しにされたのである。その中にはヘンリーの幼馴染であるユメリアも含まれていた。
この後もヘンリー・バトラーはユメリアは一揆の参加者であったという発表を信じ、悪役令嬢アナリーゼに仕え続ける。
だがなんらかの切っ掛けがあって真実を知れば、彼は必ず主人の下から去りヴェロニカ・ウァレフォルの忠実なる剣にして、アナリーゼ・アガレスに対する復讐の刃となるのだ。
そして復讐の刃は彼自身のルートで見事に悪役令嬢アナリーゼへ届き、復讐の本懐を遂げ、亡き幼馴染の面影のあるヴェロニカと結ばれるのだった。
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