第八駆
「なぁ、住職。」
「どうかしましたか?」
檀家の田中さんと話していた時に、それまでの会話と声のトーンを落として田中さんが呼びかけたのに答えた。
何か深刻な感じがしたので返事を待つ。
「この間、痔がひどくてさ。市立病院に行ったんだよ。」
「食生活の乱れやストレスが原因とも言われますからね。ご自愛ください。」
「い、いや。違うんだよ。
住職に痔の相談するわけないだろ。
病院に行った時に少年を見たんだよ。
彼はどこか怪我でもしたのかなって思ってね。」
「えっ!そうなんですか?
足を挫いたりはしてないので、オーバーワークで筋繊維を痛めたなんて事もありますね。
でも、特に痛がってたりもなかったですけどね。」
「本人が悪いかどうかもわからないけどさ。
例えば、お父さんとかお母さんが病気で治療代を手に入れるために優勝賞金が欲しいとかじゃかいかなと思ったりさ。」
「それなら、学校に許可を得てバイトした方が確実なんじゃないですか?優勝できるかわからない大会より現実的ですよ。」
「確かにそうだな。
まぁ、ロビーの所で見かけただけだからどこに行ったのかもわからないしな。ただの風邪って事もあるよな。
いや~怪我してないならそれで良かったよ。」
田中さんはそう言って笑った。
夕方になって少年が来たので、念のために怪我をしていないかは確認しておこうと思う。
ただ、田中さんが病院で見た事は隠しておこう。
何か気にしている事があるかもしれないから。
「少年、身体に痛いところとかないかな?」
「何でですか?」
「いや、ハードな練習をしていたら怪我をしたりもあるからね。怪我をしてしまうと治すのに時間が必要だったり鍛え方を変えないといけなかったりするからね。」
「ああ、なるほど。
筋肉痛はありますけど、特に怪我とかはないです。」
「そ、そうか?少しでも違和感があったりしたらすぐに言うんだよ。」
「え、あっ、はい。」
少年は私の態度がおかしかったのを感じたのか少し戸惑った感じで答えた。
その後の練習でも特に動きなどに問題は無さそうだった。息切れが早いとかもないので風邪とかの病気ではなさそうだ。少年が病院にいた理由はわからないが、それも私が知る必要のあることなのかわからなかったので、心の奥にしまう事にした。




