第六駆
「住職、あの少年の挑戦なんだけどね・・・」
檀家の鈴木さんが服や用具を持ってきてくれた時に不安そうな顔で話しかけてきた。
「どうしたんですか?」
「うちの息子が自転車にはまってたって話はしただろ。
その時の友人が例の大会に出たことがあったらしくてね。その人の話ではだいたい一般の部でも500人くらい出場するらしいんだよ。まぁ、そのうちの半分くらいは記念参加みたいなもんで、最初の休憩所で脱落するらしい。残りの半分も自己ベスト更新を狙う人達がほとんどで本気で優勝しに行ってるのは10人くらいなんだって。」
「自己ベストの更新ですか?」
「そう!出てみたけど完走できなかった事が悔しかった人達が前回よりも長い距離を走ろうってトレーニング積んで出てるんだって。」
「なるほど。つまり、少年が今年のチャレンジで優勝するのは難しいんじゃないかって事ですね。」
「あの子が一生懸命やってるのはわかるけど、今までに初出場で初優勝した人はいないらしい。それだけ厳しい大会なんだよ。だから今回は・・・・・」
鈴木さんが言いかけたところで、
「今年じゃないとダメなんです。絶対に!」
いつの間にか少年が来ていて叫んだ。鈴木さんが慌てて
「いや、君の頑張りを馬鹿にしてるわけじゃないんだよ。でも経験者でも走りきれないような距離なんだ。
たった四・五ヵ月トレーニングしただけでは厳しいんじゃないかって言いたかっただけなんだよ。」
少年は少し落ち着いたようで
「すみません。色々してくださってるのに生意気な事を言ってしまって。でも・・・時間がないかも知れないんです。」
「う~ん、優勝したいって事は狙いは賞金かい?
何かお金に困ってるなら別の方法を考えても良いんじゃないかな?」
「それは・・・・」
少年が言いよどんだのを見た私が
「まあまあ鈴木さん。少年にも事情があるんでしょう。
それに前例がないからって絶対できないって事もないじゃないですか。私は思うんですけどね、前例って一方通行の道じゃなくていくつも分岐する道のただの道しるべなんじゃないですかね。上手く到着できた成功例ってだけでもっと早く上手く到着できる道があるかもしれない。まぁ、何が言いたいかというとですね、最初から否定しないで色々やってみたらいいんです。
ほら、失敗は成功のもとって言うでしょう?」
「確かにそうですね。いや、少年。
悪かったね、応援してるからこれ着て頑張って!」
鈴木さんは少年に服と用具の入った箱を手渡した。
少年は箱を受け取って「ありがとうございます」とお礼を言って頭を下げた。




