第四十五駆
昼間、私が寺の境内の掃除をしているとポロシャツにチノパンをはいた男が境内に入ってきた。
掃除をしている私が言うのもなんだが35℃近い気温の中でわざわざ寺に来ようと思ったのはめちゃくちゃお寺が好きか予定の組み方をミスったとしか思えなかった。
檀家さんでも無さそうだ。
男は私に気づいて近寄ってきた。
「すみません、こちらの住職の方ですか?」
「はい、そうですが何かご用ですか?」
「ああ、申し遅れました。
彦根カルチャーストーリー情報部の正木と申します。」
正木と名乗った男は名刺を渡してきた。丁重に受け取り名刺を少し見た。確か何でも屋をを名乗って清掃業や情報誌の作成、愚痴聞き屋から探偵業まで色んな事をしている会社だ。
「はぁ、情報部の方という事は情報誌に何か載せて貰えるとかですか?」
私の問いに正木は腕で額の汗を拭った。何か都合の悪い事でも聞いたかと一瞬思ったが、35℃の直射日光を受けている人がただ汗をかいているだけだと気づき、
「ああ、暑いですね。
日陰に行きましょうか。」
「ありがとうございます。外回りばかりで本当に暑くて。」
「お茶ても出しましょうか?」
「頂けると嬉しいですがお構いなく。
実はもう一ヶ月ないくらいで開催される琵琶湖一周タイムトライアル大会に参加する人の中から、何かしらの宣伝をしたいと大会実行委員会に届け出をされた方の中から……あれなんかおかしいな。
まぁ、いいか。
届け出をされた方の中から特に熱い気持ちで参加する人達の特集を情報誌に毎年掲載してまして。
住職が届け出られた内容は、より多くの方に広まって欲しいなと我々も思いましたので、取材の方をさせていただけないかと思い来させて頂きました。
いかがでしょうか?」
確かに正木の言うことも一理ある。普段は彦根市内のイベントやお店の情報を載せている情報誌だが、特集記事が載ってる場合は近隣の町にも配布したりしているみたいな話は聞いたことがある。特に大会に関することだから当日にも配られるだろう。
たくさんの人に知って貰うには都合が良い。しかし、
「申し訳ありませんが、大会に参加するのは高校生の子なんです。確かに注目を集めてより拡散される事が望ましいですが、彼も彼の友人で病気と戦ってる子も注目されたがために傷つく事もあるのではないかと思うんです。おたくの会社の記事がどうとかではなく、結局は受け取りてが100%善意のみで受け取らず、誹謗中傷に繋がったり、少年達の未来に陰を落とすかも知れない。病気と戦ってる少年もこの暑さの中で必死に自転車をこぎ続けてる少年もただ一生懸命なんです。
それを外野が勝手に盛り上げて足を引っ張る様なことにはしたくない。ですから、今回のお話はたいへんありがたいのですがお断りさせて頂きます。
「なるほど、確かにおっしゃる通りですね。
う~ん、じゃあ特集まではいかない形で骨髄バンクへの登録者を増やす活動をしている人もいるくらいの紹介はどうでしょうか?」
「あまり個人の特定に繋がらない形であれば大丈夫です。」
「そうですか、良かったです。
しっかりと配慮して掲載します。」
「よろしくお願いします。」
正木さんが帰って行った後、境内の掃除に戻り考えた。
何かを伝える事の難しさもそうだが、受け取る側の心持ち一つで情報の善悪が替わってしまう事も難しいなと私は思った。




