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峠を越えた世界  作者: Making Connection


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第四十三駆

「こんにちは……あれ?田中さん?」

「よう、少年。」

「住職はおられないんですか?」

「ちょっと病院にね。」

「お怪我ですか、何か病気ですか?」

「いやいや、大丈夫だよ。

ただ、大人にはしっかりと検査を受けないといけない人間ドックって言われる日があるんだよ。

まぁ、住職が毎年まじめに受けてたかは別の話だけどね。」

「そうなんですね、じゃあ今日は帰った方が良いですか?」

「それだと私が今日ここにいる意味がないでしょう。

練習メニューとかは預かってるよ。」

「あっよろしくお願いします。」

「うん、その前に……」

「どうしました?」

「いや~、こういうのあまり得意じゃないんだけどね。

私も子供の頃は野球をしていてね。

上手だった訳でもないけど、プロ野球選手になりたいなんて夢を持ってた事もあったなぁ。

今みたいに独立リーグもなかったし、社会人からドラフトでプロになったりトライアウトがあったりもなかったような昔でプロになれるのが今より更に狭き門だった頃だった。日本人が大リーグにいって活躍するとかもなかったな。

夢のきっかけなんて色々あるけど、やっぱり『憧れ』が一番だと思うんだよ。

『自分もああいう風になりたい』とか『プレーしたい』とかそういう所から始まるわけだよ。

昔はテレビで野球中継があったりして、憧れるタイミングが今より多かったと思うんだ。

う~ん、難しいな。

まぁ、簡単にまとめるなら『夢を見る人がいなくなったら未来がなくなる』って事だよ。

野球は最低で9人いないとできないしサッカーも11人いないとできない。相手にも同数以上いないと試合すらできない。競技で言うなら競技者がいなくなると競技自体がなくなるわけだよ。

少子化とかの影響もあるだろうけど野球人口は減ってるんだって。色々なスポーツが注目されるようになったり、さっき言ったようなテレビ中継が少なくなったりと理由は色々あるけどやっぱり『憧れる瞬間』が減った事で『やりたい』と思うタイミングも減ってるんじゃないかと思うんだ。

夢や目標を諦めるのは本人次第だけど、夢や目標を持たせてあげられないのは大人の私達の責任だと思う。

もっと色んな世界や情報を正しく伝えられていたらとか挑戦できる社会にしてあげられてたらとか、色々考えちゃうんだよね。

でも、大人が全部知ってる訳でもないから伝えられる事が最初から少ないって事もあるわけだよ。

その中で一生懸命に頑張ってる人もいるって事だけはわかっておいてあげて欲しい。」

「はい、わかりました?」

「ああ、やっぱり苦手だなこういうの。

もう、スパッと言うと住職も頑張ってるんだからねって事だよ。」

「ああ、そういう事ですか。

大丈夫です、住職にはしっかり感謝してますから。」

「まぁ、それなら良かったよ。

こめんね、時間をとらせてしまって。

じゃあ、自転車をこぐ練習10分間からやろうか。」

「はい。」

少年は返事をして着替えに行った。

人にものを伝えるというのは難しいなと思うのと同時に住職はすごいなあと田中は思った。

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