第四十二駆
摺針峠で自転車の乗り方について教えてもらってから数日が経った。
少年は寺の境内の中で自転車のこぎ方の見直しをしていた。
「ふー」
少年が一息入れたタイミングで私は声をかけた。
「どうだい調子は?」
「なかなか難しいです。こぎ始めから数回はタイミングもつかめるようになってきたんですけど、こぎ続けるうちにズレが出てしまって。」
「疲れとかスピードの方はどうだい?」
「ずっとこぎ続けるよりはましですね。
全力でこぐ練習をしていた時はかなり疲れがありましたけど、今やってる方法のこぎ方の方が長く乗れそうです。スピードの方はさすがに走ってないので何とも言えないです。
でも、手ごたえはしっかりありますね。勢いのつき方が違う気がします。」
少年は汗をぬぐって言った。
「なるほど、効果はありそうだね。
やっぱりプロに教えて貰うと違うね。
プロにはプロの自転車のこぎ方があるという事だね。」
「住職にもたくさんお世話になってます。感謝してます。」
「少年にそういって貰えると気が楽になるよ。
結局私は素人だからね。できる事をこれからもがんばらせて貰うよ。」
その後も少年は自転車をこぎ続けた。
私は少し離れた所からその姿を見ていた。そこに田中さんが来て
「住職、調子はどうだい?」
「いい感じらしいですよ。」
「少年はそうでも住職はそうじゃなさそうだね。」
「指導者ぶっていても所詮は素人だって事を突き付けられたなと思いましたね。」
「うーん、でも住職はもともとが住職であって指導者じゃないよね。
しかもちょっと自転車で速く走れるだけの素人なわけだから当たり前なんじゃない。
そんなこと気にしなくていいよね。」
「えっ?ああそうですね。
確かにそうですね。少年と一緒にいる時間が楽しすぎて自分が何者なのかを見失っていたのかもしれません。そうですによね、私は私のやり方で素人ながらできる事を一生懸命やるだけですよね。」
「まあ、そういう事だよ。近所のおっさんなだけの俺が少年の大会優勝を夢見てるんだから最も側にいる住職がのめりこみすぎてても仕方ないよ。
ていうか、そこまで真剣になれる住職を俺は心から尊敬するよ。
あと一か月ちょっとで本番なんだ悔いのないように少年を支えてあげよう。」
「そうですね。そう言えば今日はどうしたんですか?
用もないのにここには来ないですよね?」
「ああ、今日はこれを住職に渡しに来たんだよ。」
田中さんはそう言って一枚の紙を差し出した。私はそれを受け取って目を通した。
「これは・・・・」




