第四十一駆
「よし!じゃあ自転車の乗り方から教えよう。」
「えっ!?どういう事ですか?
自転車には乗れてますよ?」
少年は驚いて聞き返した。私も彼が何を言ってるのだろうと考えていると、
「ああ、まぁそうだね。
たぶん君もそちらのトレナーの方も子供の頃に親だったり兄弟だったり大人や自分より先に自転車に乗れてる人に習ったり見て覚えたりしたと思う。
別にその方法が間違ってる訳じゃないけど、長く速く走りたいなら決定的に抜けてる大事な事があるんだ。
君は自転車に乗る時どう教わった?」
「えっ?小さい頃過ぎてあまり覚えてないです。」
「じゃあ、こけないようにするにはどうすれば良いって言われたかな?」
「ああ、それならペダルをこぎ続ければこけなくなるって言われた覚えがあります。」
「うん、間違ってないね。
そう、こけないためにはこぎ続ければ良いんだ。
でも、これはあくまで『こけないため』の対処法なんだ。だから、『長く速く』走るためのものではない。
そもそもの話が大人が自転車の乗り方を教える時に気を付けている事は勝手にどこでも行けるようにしない事なわけだよ。自分が追い付けないような速さでこがせない、自分の把握できない所まで行かせる手段を与えない。子供の安全を考えるなら大事な事だね。
更に言うなら教える側の大人もその親から危険な乗り方をしないようにと本当の乗り方を習わない。
となると、教える側も本当の乗り方を知らないとなってくるわけだよ。」
「なるほど、確かにそうなりますね。私も子供に乗り方を教えた時に自転車でどこまでも行けるようになるのが嬉しくもあり怖くもありましたね。
でも、そんなに違いがあるんですか?」
私の問いかけに彼は笑顔で
「ペダルをこぎ続けれるって、実は無駄が多いんですよ。ペダルを時計の針に見立てて、360°の一回転を全力で足に力を入れ続けたら疲れるのが当たり前です。
なので、力を入れる所を減らしていけば体力を最小限で前に進み続けられる訳です。」
「それだと止まってしまうのではないですか?」
「例えば100mを全力でダッシュして走り終わったも勢いで数m駆け抜けるよね。
急にピタッと止まれない。慣性の法則ってやつだね。
これを使って力を入れる部分と慣性で動く部分を作れば、少しの力でペダルをこぐ事ができる。
うーん、そうだな~平地なら12時から3時までの90°くらい、山道とかなら12時からら4時の120°くらいこげば良いかな。まぁ、人によるし立ちこぎする時もあるから必ずそれくらいって尺度がある訳じゃない。
それにタイミングをつかむのも練習がいるし、スピードを出すための瞬間的な力の入れ方とかも難しいね。
めちゃくちゃ練習が必要だけど確実に長く速く走れるようになるよ。」
「なるほど、確かに力の入れ方が変われば速さも距離も良くなりそうですね。」
私が感心して言うと少年が
「立ちこぎはどうしたら良いですか?」
「踏み込む方のペダルに体重を乗せてこぐやり方があるけど、これはじょうはんしわも結構揺れないとバランスが難しいし、消耗もするからね。
急な坂で一気に駆け上るなら良いけどこれもタイミングが難しいね。
まぁ、さっきも言ったけどかなり特訓が必要だよ。
乗り方自体を変えないといけないし自分なりのタイミングを1から探さないといけないからね。」
「はい。がんばります。」
少年は力強く答えた。そして大会当日に会えたら良いねとだけ言い残して彼は手を振って去って行った。




