第三十五駆
「ごめんね、住職。
今年はお盆が忙しくてね。先にお願いしようってなったのよ。」
「いえいえ、最近は暑さもあって早めから分散して行かせて貰ってる事もあるので大丈夫です。」
「あの服で動き回るのもしんどいよね。
特に住職は自転車移動だしね。」
「まぁ確かにそうですね。」
少年とのビワイチを終えたあと、壇家さんからお盆のお参りの前倒しのお願いがきた。
特に断る理由もなかったので引き受けた。
少年と一緒に何㎞かは走ったけど、さすがに足の筋肉痛とかは感じていた。少年の比ではないだろうとは思いながらも年を感じる瞬間と言うものを実感していた。
お経も終わり、少し雑談をしていた。
「すこし日焼けしてるけどもう何軒か回ったんですか?」
「ああ、自転車で琵琶湖一周するって言うのをしてて。
まぁ、私がした訳じゃないんですけどね。」
「そうなの?ああ、そういえば高校生くらいの子の自転車のコーチしてるみたいなお話を聞いたことあったわ。」
「そうです。電動自転車で何㎞か一緒に走ったりもしたんですけど全部走るのは絶対に無理でしたね。
今日も筋肉痛とかなってますよ。」
「高校生の子は走りきれたの?」
「二日に分けたので走りきれました。
たぶん一日でも走りきれたとは思うんですけど、やっぱり峠道を行くのが大変だったのはありましたね。」
「坂道だけでもえらいもんね。
山道とかはもっとえらいでしょうね。」
「課題がたくさん見つかったので、あと一ヶ月くらいで色々と対策していかないといけないんですよ。」
「ああ、あの琵琶湖一周する大会に出るの?」
「そうなんですよ。しかも少年は優勝をめざしてるのでさらにハードルが高いんですよ。」
「へえ、何で優勝したいの?」
「それは私も知らないんですよ。
本人があまり話したがらないので。ただ、優勝したいだけとか賞金目当てとかではないと思うんですよ。
ただ、無理に聞く事でもないと思ってるんですよ。」
「難しいのね。」
「ああ、そういえばこの前来た時に言ってた病気の子はどうなりました?」
「ああ、住職も協力してくれてありがとうね。
まだまだ足りないけどとりあえずは大丈夫そうよ。
高校生になったばかりで白血病になるとか大変ね。」
「その子ともお知り合いなんですか?」
「小さい頃から知ってるの。
野球を頑張ってね。エースで四番バッターだったの。
勉強も頑張って良い高校に行けたのに………。
住職にこんな事言うのもダメなんだけど神様も仏様もいないんじゃないかって思うくらい、その子が可哀想でね。」
「それは……」
私も話を聞く限り、否定する言葉がまったくでなかった。一生懸命に生きている人に不幸が訪れる話をよく聞いてしまうからか表だって肯定はできないが心の中では『神も仏もない』とはよく言ったものだと思ってしまった。




