第三駆
「じゃあ、30秒全力こぎ3セット行こうか。」
私は少年の学校が終わってからの時間でトレーニングを続けていた。珍しがって見物に来る人も現れるようになった。少年に話しかける人もいたが誰一人として頑なに大会への参加理由を聞き出せた人はいなかった。
少年の必死な様子から皆も段々と聞いてはいけない事として聞かなくなっていったが、応援は続けてくれていた。そんな中で一人の檀家の山本さんが
「ペダルをこぐ練習するのも良いけど長い距離を走れるように外を走る練習もした方が良いんじゃないか?
湖岸道路は平坦な道もあるが登りや下りもあるだろ。
曲がった道とかデコボコになったとこもあるだろうからそういう経験を積むのも必要じゃないか?」
「出られた事あるんですか?」
私が聞くと山本さんは笑いながら
「そんなわけないだろ。ただ、ちょっと見たぐらいはあるよ。9月の始めにあるからまだまだ暑くて見物だけでも大変だったよ。ドリンクホルダーとかの装備や服装も大事かも知れないよ。」
別の檀家の鈴木さんが
「うちの息子が昔自転車にはまっててね。
もう着れなくなったようなのならうちに置きっぱなしになってるから使うかい?」
「良いんですか?」
私が驚いて聞くと鈴木さんは少し首を傾けて
「いや、一回聞いてからにするか。何か思い出とかあるかもしれないからな。でも、もう何年も使ってないから見た目には期待しないでくれよ。」
「じ…住職?まだですか?」
少年が辛そうに言ったのを聞いて私はストップウォッチを見た。もう既に1分は過ぎていた。
「ああ、すまない。こっちの話に夢中で止めるの忘れてた。終わって終わって。」
全力でペダルをこぎ続けていた少年は、自転車から降りて地面に倒れこんだ。息は荒いが力尽きたというより疲労で立っているのが辛かったようだ。
「ごめんな住職。俺らが話しかけたから」
「いえ、貴重な意見をいただけて嬉しいです。
確かに装備とか服装とかどんな物を使ったら良いのかわからないと損しそうですね。
こちらでも調べてみますし、何か息子さんから助言とかあればお願いしたいです。」
「ああ、服とかについて聞くついでに聞いとくよ。」
少年はまだ息を切らしながら寝転んでいたが小さく「ありがとうございます。」と言った。
そして、そのあとも筋トレメニューをして外を走る練習のためのコース取りとかを確認してその日はトレーニングを終えた。




