第十二駆
「ふっ、ふっ、ふぅうー」
少年が摺針峠の急な坂を一度も足をつかずに登りきるトレーニングをしているのを私は峠の登った所から眺めていた。この峠の難しいところはカーブもあり、坂の傾斜も一定ではないところである。
車でもかなりアクセルを踏み込まないと登れないような所もある。少年は短い息を吐きながら傾斜の具合にあわせて立ちこぎをしたり座ったりしながら調節して坂を登ってくる。始めた頃に比べると足をつかずに登れる距離も伸びてきている。普段から見慣れているというか徐々に変化してきたからなのか気づいていなかったが、少年の太腿はかなり太くなってきている。高校の制服のスボンがパンパンになっているような気はしていたがかなり見た目でわかるくらいの変化が見られるようになってきた。あと、300mという所まで来て少年は力尽きたのか足をついてしまった。
見ているだけの私は『もうちょっとだったのに』と思うが実際にやってみるとこの距離もまだまだ遠く感じるのだろう。なので、私は登れた距離に関係なく何も言わないことにしていた。登りきれたら褒めてあげようと思うが、それ以外の時の言葉が少年にどう届くかの予想ができなかったからだ。
言葉とはとても難しい。
私が善意で言った言葉を受けとり手が悪意の言葉と受けとる事もある。ことわざ等を使って話してもそのことわざを知らない人からすれば何を伝えたいのか理解できないとなってしまう。だからと言って、思っている事をすべて丁寧に話していては会話が延びて要点が曖昧になってしまう。そんな事を考えていると少年が自転車を押して登ってきた。
「お疲れ様。少し休憩しようか。」
少年は疲れているからなのか元気がない。
「大丈夫かい?」
「住職…。僕のこのトレーニングは意味ありますか?」
質問の意図が読みとれなかったので
「どういう事かな?」
「あっ、違うんです。住職の考えてくれたメニューがいけないとかじゃなくて自分に達成できるのかとかそんな事を考えてたら不安になったっていうか…」
「なるほど。少年はアホウ鳥と呼ばれる鳥を知ってるかい?」
「いえ、鳥には詳しくないので。」
「アホウ鳥はね、他の鳥のように羽を羽ばたかせればすぐに飛べる鳥と違って助走がないと飛べない鳥なんだ。
じゃあ、この種の鳥の元祖となった鳥は試行錯誤をして空に飛び立つために必要な助走距離を知ったんじゃないかと私は思うんだよ。
少年が達成できるかどうかは本番が終わった後にしかわからない事じゃないかな?
アホウ鳥の元祖が必要な助走距離を知るために何度も飛び立つ練習をしたり走ったりしたからこそ現代のアホウ鳥は空に羽ばたけるんだ。
きっと空を飛べる事を信じていたからこそ、走れたし飛び立てたんだよ。
だから、大事なのはできるかどうかを疑う事じゃなくてできると信じ続ける事何だと私は思うな。」
「でも…」
「う~ん、少し昔話をしようかな。」
私は少年に言った。




