第十駆
「住職…」
「どうした少年?」
筋トレを終えて休憩中に少年は暗めの声で話しかけてきた。
「僕は…僕がやってる事って間違ってるんでしょうか?」
「う~ん、難しいな。
少年が何か間違えているとして、それは『誰』にとってなのかというのがわからないからね。
例えば私は納豆を食べる時に梅干しとマヨネーズを混ぜて食べるんだが、私の妻からは『それは間違っている』と言われた事がある。もう言われなくなったけどね。
でも、私からするとその食べ方が正解で一番美味しく感じる。
いや、大丈夫だよ。
ちゃんとおかしな食べ方をしている自覚はあるからね。」
少年の少し軽蔑したような呆れたような表情を読み取って自分のためのフォローをいれる。気を取り直して
「私にとっての正解が必ずしも他の人の正解と同じになる事はないんだよ。確かに数学の勉強をしていれば答えは必ず決まっているけど、国語で感想文を書く時には的外れすぎなければ、それが正解になるだろ?
人によって価値観や経験が違うから抽象的な問題に正解を決めきれないんだよ。
もし、少年が今やってる事が自分の価値観で間違っていると思うのなら正解に辿り着く道筋を自分で模索しないといけない。私も自分が考えるトレーニングに絶対効果があるとは思いきれてないから色々と調べたりしてるしね。私は自転車のプロでもトレーナーでもないから間違っている可能性はある。
じゃあ、間違っている事をしてはいけないのかと言えばそんな事もないよ。どんな事であれ過程を真剣にすれば経験を積む事ができるんだよ。だから色々な挑戦をして失敗しながら成長すれば良いと思う。
今、やっている事が間違いならその過程で学んだ事を次に活かせばいい。トレーニングについては時間が大事になってくるから寄り道もしてられないけどね。」
「つまり、何を間違っているかを決めるのは自分自身って事ですか?」
「そうだね。自分で責任が負える範囲なら自分で考えて行動するべきなのかもしれない。
間違ってるかを疑う必要はあるけど決めつけて何もしないよりはがむしゃらにやってみる方がいいだろう。
と、言うことで、練習メニューについては私に任せてがむしゃらにメニューをこなしてくれたらいいよ。
修正はこっちでやるからね。」
「…わかりました。」
少年が悩んでいるのが練習の事なのか、それとも今回の挑戦についてなのかはわからない。しかし、少年の悩みに少しでも道を示せたなら私の職業柄としては上手くいったのだろうと思った。




