第02話 低性能
「俺の名は……そうだな、ガボとでも呼んでくれ」
空飛ぶ白い球体は、僕にそう自己紹介をした。
「あ、どうも、サツキです。あの、君は僕の召喚獣……ってことでいいんだよね?」
僕は少し気恥ずかしい気持ちで恐る恐る尋ねた。
「召喚獣……?あぁ、そういう立ち位置になるのか。まぁそうだな間違ってはいない。だが俺は通常の召喚獣とやらと違って、出したり引っ込めたりはできないぞ」
「そうなんだ」
それはたしかに、感覚で理解できる。
先ほどは無意識でガボを召喚するスペルが頭に浮かんだが、引っ込める方法は浮かんでこないからだ。
じゃあガボは通常の召喚獣じゃないってことなの――と聞きたかったが、ガボはどんどん話を続けていく。
「さて、いいかサツキ、俺たちにはやることがある」
「ええと、まずは食事の確保だよね。ああいや、仕事を探すほうが先か、それと寝床も……」
「違う!そんなことはどうとでもなる。今後の大目標の話だ」
「大目標……?でも僕、お腹がすいてもうフラフラなんだよ……」
「ムム、それはよくないな。よしいいだろう。今から野生の動物を狩りにいくとしよう」
「え、僕に狩りなんて無理だよ」
「いいから聞け。なんのために俺がいると思ってる」
そこから、ガボのレクチャーが始まった。
「俺は装着型の強化外骨格だ。さっきの風魔法で無傷だったように、まずはとても頑丈だ。更に、お前が望む通りの形態に変化し、お前の四肢や体幹の筋力、五感を強化することができる。ここまでは分かるか?」
「……君は僕の強力な装備品ってこと?」
「悪くない理解だ」
褒められた。うれしい。
「ただし制限がある。俺は、俺の体積を増やしたり縮めたりすることはできない」
「え、じゃぁ君小さいから……」
「んー、そうだな。現状ではお前の片手もしくは片足を強化するのが限度だな」
「……それじゃ、残りの90%くらいは弱い僕のままじゃないか。クマとかイノシシに遭遇したらすぐ殺されちゃうよ」
「慎重なのは悪くないが、考え方がもったいないな。10%は誰にも負けないくらい超強力に生まれ変わるんだぞ」
「うーん、まぁそうとも言えるの……か?」
「ものは試し、言うより慣れろだ。まずは簡単な、腕からいくか。サツキ、俺をお前の利き腕に装備してみろ」
「わ、わかった」
いろいろ不安はあるが、お腹が減っていて反論する元気もない。
僕は頭に浮かんだスペルを唱えた。
「装着」
すると、先ほどまでふよふよ漂っていた球体が、突然弾けた。
「……!」
ガボの内部は、全く生き物のソレではなかった。
僕だって動物の解体くらいは何度も見たことがあるが、それとは似ても似つかない。ガボの中身には、おおよそ内臓と呼べるものは見当たらなかった。
精巧に加工された金属片のようなものが複雑に組み合わさったように見えた。
だがそれも一瞬のことで、気が付いた時にはガボはガントレットのような形となり、僕の右肩から拳までにかけてをまるで違和感なく覆っていた。
「これ、ガボ……君なんだよね?」
僕はまた恐る恐る尋ねた。
「そうだぞ」
目の位置が光る球体ならまだしも、ガントレットが喋る姿には違和感しかない。
「君って、生き物なの?」
「あー、まぁこういう生き物もいるさ。魔法があるくらいだからな」
そんなものか。
魔法はありふれているけど、喋る金属は初めて見たから。
「そんなことより、性能を確かめてみろ。今のお前なら、大きな石を握り潰すことだって出来るはずだ」
手甲に覆われた手のひらを開閉してみる。
確かに、まるで自分の手じゃないみたいな力強さを感じる。
僕は落ちている石を手に取って、ぐっと握りしめてみた。
パキキ
手を開いてみると、粉々とまではいかないが、石は無数のひび割れができていた。
「すごいや、ガボ!」
「う、うーん。出力、そんなものじゃない筈なんだが……全力で握りしめてみろ!ほら、あの憎たらしいガキを思い浮かべてやってみろ!」
「う、うん」
一応今のも全力のつもりだったんだけどな。
ようし、僕の内なる怒りを解放するんだ。エリオットめ、目に物見せてやるんだからな!
「そりゃぁ!」
パキキ
石はひび割れが増えていた。
「なるほど分かった。お前がヒョロすぎるんだな。なるほど、肉をつける。まずはそこからか」
「えっとあの、ごめんね?ヒョロくて」
「いいんだよ、お前は恵まれない境遇からのスタートだったんだから。じゃあ気合い入れて獲物を取らないとな。今日から俺たちは、山籠りだ」
こうして僕たちは、村のはずれの裏山でサバイバル生活を始めることとなった。