第18話 解体屋
僕たちは、時間がある時は必ず、チップ探しのため中央市場を見て回っている。ガバ曰く竜帝が持っていたような大物でない限りチップが放つ信号は微弱なので、足と目で探す必要があるらしい。
「金属片?聞いたこともない」
「魔物からとれるのか。それなら解体屋に行ってみたらどうだ?」
確かにその通りだった。
僕たちはギルドに併設された解体屋に行ってみることにした。
解体屋は石造りの重厚な建物であり、商店ではないが立ち入り禁止とも書いていない。
二重になっていたドアの内側に入ると、中からはなんともいえないもわっとした生臭さが鼻の奥をついた。
赤黒いエプロンを纏った巨漢がひとり、頑丈そうな金属補強された石の作業台の前で、斧のようにでかい牛刀を振り上げている。
ドゴン
何かの骨がまっぷたつになり、ピンク色をした骨髄の破片が飛び散った。
正直、すごく近寄りづらい。
「なんだ?小僧」
声をかけあぐねていると、背を向けたままの巨漢が低く唸った……ように聞こえるくらい低い声で話しかけられたらしい。
「お忙しいところすみません、冒険者のサツキといいます。魔物の首筋に埋められている金属片を探していて。ここで産出されることはありますか?」
「……そんなもの、なんに使う?」
巨漢の男性は顔もまた岩みたいで、太い眉弓がぐいと押し下げられると目が引っ込むくらい奥まって、めちゃ怖い。
ガボのパワーアップに使う……というと、正直とても怪しいだろう。下手するとお前魔族かって話になりかねない。
「防具屋に、アーマーの胸当てにすると、旅の魔物避けになるのだとか聞いたことがあって」
「……」
き、厳しいかな。
「……あれは魔物どものコアだ。殆どが討伐の際に破壊されるし、そうでない場合も不思議と解体する頃にはドロドロに溶けて形が残っていない。ワシがあれを形を保ったまま取り出したことは、一度もない」
な、なんだってぇ!
竜帝様、どうやって取り出したんだ。
「わかったらさっさと帰れ」
「は、はい。お邪魔しました!」
僕は脱兎の如くその場を後にした。
あー怖かった。
まるで恐怖の館だよ。出来れば二度と近寄りたくないもんだ。
そういえば名前を聞いていなかったな。
ドアの前のプレートに、『解体屋責任者 ドグラ・ウル・ストーンハマー』とある。
「ンー……、ストーンハマーといえば、ドワーフ一族の三大家系の一つ、だな。あんなでかいドワーフもいるのか」
「エルフと同じ、亜人の一種だっけ」
「そうだな。いかにも熟練の解体屋って感じだったが……取り出したことがない、か。しかしあの巨竜にそう器用なことができるとは思えん。バラバラにして殺した際に偶然取れたんだろう」
「そんなこと言ったら竜帝様に怒られるよ、ガボ」
「お前って結構ズバズバ言うくせに、竜帝にだけは及び腰だな」
「だって怖いんだもん」
「ただのチキンかよ」
何とでも言え。
強者に巻かれるのは生きてく上で大事でしょ。
さておき、今はサウス村にすぐに聞きに行ける距離でもない。僕たちはひとまず市場での聞き取りは続けることとして、受注した依頼現場へと向かうことにした。
今回の依頼主は、リヴァティエ南部に点在する牧村のうち、最大規模の牛と馬をもつサンダース一家からのものだった。
あの一帯はマンダレイ山地に囲まれた盆地で肥沃な土地が広がり、それでいて気温変化もそこまで強くはないので、農業も牧業も盛んである。
そんな中で今回の依頼は、牛を食べるために夜な夜なとある獣が山から降りてくるようになったために大きな被害が出ている事態の解決依頼だ。
討伐対象はバフォックスという、クレパスハイエナを小柄に、やや可愛らしくした動物だ。
「普段はあまり人里に降りてくることはない動物でね。見た目もまぁ可愛らしく、雑食ではあるものの、ここまで凶暴な習性はなかったんだが……」
牧場に足を運んだ僕らは、家長のマカナウワさんから話を聞いた。
困っているのと、困惑している、その両方があるようだ。
僕たちは今晩はマカナウワさんの家で夜を待ち、牧場でバフォックスの群れを待ち伏せすることにした。