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第12話 冒険者

 朝、僕は皮の服に着替えて外の冷たい井戸水で顔を洗い、食卓に着いた。

 まだ早朝だからか、昨夕と違って人の姿はまばらだ。


「おはよう、サツキ。早いね、今日からギルドかい?」

「女将さん、おはようございます。そうです」


 女将さんは早速親し気に話かけながら朝食をテーブルに運んでくれた。

 ホットドッグとミルクだった。とても美味しい。朝からスタミナが必要な冒険者にはウケがよさそうだ。


「よぉ坊主、今日からギルドなんだってな」


 ホットドッグをむしゃむしゃと頬張っていると、隣のテーブルの中年冒険者が声をかけてきた。


「あ、はい」

「じゃあひとつ、万年D級冒険者の俺からアドバイスだ。冒険者ランクを上げるには依頼の達成が必要で、仲間と共に攻略したほうが圧倒的に効率はいい。だが、E級から始まってすぐに仲間を探すのは辞めておけ」

「はぁ……なぜでしょうか」


 仲間を探す気はないしランクなんて気にもしていなかったが、ひとまず生返事をしておいた。


「地に足がつかないからだ。まずは自分ひとりで一通り出来るようになってからでないと、逆に途中から何をやっても上手くいかなくなる……。そんな風になりたくなければ、ソロスタートにしておけ……」

「は、はい、ご忠告ありがとうございます」


 悲しそうな背中の中年冒険者は、いろいろあったのだろう。多分。


 僕はホットドッグを食べ終わると名前も知らないおじさんに挨拶をして、月代亭を後にした。

 冒険者ギルドはこの宿屋と同じ西区にあるのでとてもアクセスが良い。

 西区は冒険者向けの宿屋や酒場が密集している、どちらかというと大人の街だ。

 だから余計になのか、まだ横丁は寝静まっていて、朝の涼しい空気を楽しみながら、僕はギルドへと歩を進めた。


「ねぇガボ、さっきの話、どう思う?」

「あぁ……。まぁあのオジサンの悲哀はどうでもいいとして、どのみち俺達は素性がやや特別だからな、信頼のおける相手が見つかるまでは、パーティはなしだろうな」

「そっか。まぁ素性が特別だとしたら、僕じゃなくて君の方だろうけどね」

「ふん、どうだろうな」


 じゃないと、どこの世に魔王を倒そうなんて主に進言する召喚獣がいるっていうんだ。


 冒険者ギルド・リヴァティエ支部は、月代亭の何倍も大きな建物だった。

 両開きのやや重たいドアを開くと、中から籠ったような熱気があふれ出した気がした。

 正面奥に大きな掲示板があり、多数の依頼書がランク別に貼りつけられている。

 右横にはカウンターがあり、向こうで受付嬢はまだ暇そうにしている。あそこで色々と手続きを申請できるのだろう。左横にもまた無人のカウンターがあるが、酒瓶が多数置かれているので、夜にはバーに変わるのかもしれない。

 手前には幾つもの机とテーブルがあり、冒険者が作戦を立案するためのものか、大きな地図がおかれたテーブルもあった。

 受付カウンターの横にあるドアは離れの建物に通じているようで、『素材買取り場』と書かれていた。


 僕はまっすぐにカウンターに向かい、受付嬢に声をかけた。


「すみません、冒険者登録をしたいのですが」

「祝福済だね。じゃ、名前と加護と出身地を書いて」

「はい」


 サツキ・ノーマン、召喚術士、サウス村、と。


「簡単に説明するよ。あんたは今日からE級冒険者だ。D、C、B、A、S級と昇格するにつれて依頼報酬と別にギルドからの手当が追加されていき、身分証としての価値も上がる。依頼の達成期限を過ぎると等級降格も有り得るから注意して。――――――――。他に、なにか質問は?」

「いえ」

「じゃこれ。がんばんな」


 僕は受付嬢からE級冒険者の鉛色のドッグタグを受け取った。無くさないように首にかけておく。

 通常依頼には大きく分けて『討伐』、『採集』、『護衛』、『その他』と分かれている。

 通常でない依頼は緊急依頼だ。一番多いのは魔物の大量発生や、魔族の出現などらしい。

 冒険者の身分が保証される所以は、この緊急依頼への等級に準じた参加義務が生じることだ。今の僕なら、物資の運搬とか負傷者の搬送・手当とかになるんだろう。


 さて、今は依頼、何があるかな……。

 あー、これとかいいんじゃないかな。


「ねぇガボ、これなんてどう?」


 僕は小声で相談した。


「ややぱっとしない気もするが、お前の初仕事だ。好きにしな。それより今日は先ず防具を買いにいくぞ」

「うん。ありがと」


 僕は受付嬢の元へと依頼受注希望を伝えに行った。


「依頼E-5、『紅影草の採取』を受注します」

「あぁ、誘いの森っていうと、西部への途中の森だね。黒い花をつける赤い魔寿草らしいけど、そんなの生えてたかな……。魔物の目撃が少ない場所での採取依頼だからEランクになってるけど、あまり前例のない依頼だから気を付けな。依頼中に死んでも保証も何もないからね」

「はい、わかりました」


 さて、初依頼の受注は終わった。

 この依頼は期限も他よりやや長めなので、すぐに出発しなくてよい。


「ねぇガボ、ところで魔樹草ってなに」

「ンー。土地の魔力をため込んで生まれた草花のこと、だな。いろいろと多彩な外的効能を示すことが多いらしい。例えば薬草になったり、毒をもっていたり、幻覚を見せたり、とかな」

「なるほど。紅影草は、わかる?」

「それ、確認してから受注決めろよな……」

「ごめんごめん、なんとなく、依頼自体が気になって」

「なんじゃそりゃ。まぁいい。ンー。記憶を保持する力らしい。……なんじゃそりゃ」

「ふぅん、そっか、ありがと」


 そうこう話しているうちに、北通りにやってきた。ここでは武器・防具・魔道具などを売る店が連なっている。僕達は武器は強力なものがあるので、目当ては防具だ。それも、ガボに覆われていない部分を守りつつ、装着の際に邪魔にならない程度には軽装である必要がある。


「色々考えた結果、良質な革装備、それも出来ればマジックエンチャントがあるものがベストだな」

「良質な革っていうと」

「魔物原産品だな」

「うっ、魔物か……」


 いつぞや森で偶然であった猿みたいな手足の長い魔物を思い出し、ゾッとした。


「魔物は二足歩行だろうと四足歩行だろうと、外皮が通常の生物と比べて異常に丈夫だから、すべて上質な革防具へと変わる。その分値が張るが、ここは金の使いどころだ」

「そうだね」


 僕らは幾つかの防具屋を見て回り、怪獣系の魔物からとれた上質なレザーアーマーセットを購入した。マジックエンチャントはついていないが、それでも15万ゴールドもかかった。

 素材が高価なぶん見栄えもよく、浮浪者一歩手前だった身なりから一気に立派な冒険者に見えるようになったと思う。


「よし、じゃあ行くとしようか、冒険者としての初仕事に」

「あぁ」


 西門から街を出て、僕らは『誘いの森』へと出発した。

サツキ・ノーマン

スキル:召喚術

 ガボ:ユニット展開×2、高周波ナイフ

所持金:9万ゴールド

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