2 貴族位内務調査員、フィオナの憂鬱。
「ご機嫌よう、私、こう言う者です」
私は帝国と怠惰国の王族候補の方から、正式に任命された。
貴族位内務調査員。
既に婚姻が成立した貴族位の中に、不適格な者が居ないか調査する任を負っている。
《あの、何かの、お間違いでは》
侍女が僅かに動揺している。
あぁ、ココも、調査書通りなのですね。
「正式な書類は当主、又は当主代理にお見せします。ですが、もう既に見定めが始まっている事を、了承しての事だと受け取っても宜しいでしょうか」
執事が、やっと出て来ますか。
『侍女が大変』
「さっさと案内して下さい、コチラとて喜んで遠出をしているワケでは無いのです。それとも、単なるお遊びだとでも」
『滅相も無い、大変申し訳御座いませんでした、ご案内致します』
「もう既にご理解頂けているなら、可及的速やかに、宜しくお願い致します。コレは、王命同等の任なのですから」
もうココは、既に破滅だと決まっている。
こうした事はもう、既に何度も経験しているけれども。
巻き込まれる者こそ、最も可哀想だと同情するしか無い。
『どうぞ、コチラへ』
「私、こう言う者ですが、もうお分かりになっていますよね」
そこらの優秀な侍女を引き抜いては、令嬢に育て上げてやる、と口説き直ぐに体を奪う。
そして、飽きたら捨てる。
やはり君には、令嬢は荷が重かったらしいね、と。
《何かのお間違いでは》
私の独断と偏見により、更生させる為の場所を決める権限を持つ。
彼には、地獄が相応しいだろう。
「では、競りを始めましょうか、悪魔貴族の方々」
《一体》
彼ら彼女達は、趣味趣向が合うと次々に札を持ち現れる。
41番 11番 46番 53・58・12。
35・44・27、32。
「あら、アナタまで」
「あまりに琴線に触れるモノでね、思わず惹かれてしまったよ」
彼は友情の王子であり、怒れる悪魔、破壊するモノ。
人の上半身に、鳥の下半身と蛇の尾、そして人・牛・羊の頭を持つ悪魔。
25番 63番 36番 7・24・6
「あら、5番の方は良いのかしら」
『コレに高貴さが有るなら、誰にでも有るだろうに』
19番 20番 34番。
38番は、偽りであれ高貴さが有る、と捉えたのね。
41番 42番 49番。
「あらあら、彼の体が保つかしら」
「傷なら癒せば良い、記憶なら消せば良いからね」
51番 59番 60番 61・64・66。
67番 68番。
「あぁ、アナタまで」
「支配・辛抱・労働に関わっているのだもの、とても見逃せないわ」
69番 72番。
プルフラス、アドラメレク、アバドン。
コロンゾン、スカルミリオーネにカルカブリーナ。
「ダンテの地獄の悪魔、悪の爪までご登場よ」
良かったわ、広い応接間で。
まだまだ、彼を求めるモノは居るのだもの。
《あの》
「あぁ、彼らは悪魔に引き取られたわ。けれどココの代表が居なくなってしまったから、暫くは私が家を回しますが、幾ばくかお付き合い頂けますか」
ご主人様と執事が居た筈の部屋には、彼女しか居らず。
そして、ご主人様と執事の衣類や靴だけが、残されていた。
《え、あ》
「大丈夫、アナタは単なる雇われ、何もココの事情は知らないでしょう」
《あぁ、はい、そうですが》
「暫く忙しくなるけれど、あぁ、お茶のお代わりをお願い。出来ればアールグレイ以外で、それと軽食もお願い」
《はい、畏まりました》
そして私は先ず厨房に向かいました。
するとそこにも、衣類や靴だけが残り、使用人の殆どが消えておりました。
はい、すっかり消えていたのです。
跡形も無く、衣類だけを残して。
「お疲れ様です、ありがとうございます、フィオナ様」
「いえいえ、私はただ赴き尋ねるだけ、ですから」
私の働きについて知る者は少ない。
そのウチの1人、アレキサンドリア様。
アイリス様を気遣い、こうした件には出来るだけ触れさせまいとしている、良き宿星の1人。
そして、彼こそが怠惰国で1番に私を認めた者。
『今は、どうしているんだろうか』
「あぁ、どうぞ、ヴラド殿下」
水晶玉には、弄んだ者が弄ばれている最中。
彼がした様に、恥辱と快楽、苦痛を与えられている。
『不思議な事に、君はコレには惹かれないんだね』
「コレは罰です、私は罰する為に抱く、だなんて性癖は生憎と持ち合わせておりませんから」
『そこも不思議だね、罰する為に抱く、だなんて』
「どう、なのでしょう?」
「先ずは抑圧、だそうです、そして怒り。征服・制圧、そして自身と同じく抑圧し、同じ身とする」
「ある種の自傷行為、成程」
「はい、流石ですアレキサンドリア様」
『本当に、そう言われなければ納得が難しかったよ』
「はいはい、ありがとうございます」
『本当だよ、ね』
「はい、驚かれてらっしゃましたよ、本当に」
「こんな事でと言うのは失礼かも知れませんが、あまり素直に喜べないのですが」
『民を理解してこそ、真の裁きや更正を考える事が出来る、やはり君は私の為に居るんだね』
「公私を分けて下さい」
「ふふふ、殿下も人なのですね」
『君もね』
私は、来訪者から産まれた純粋な人。
けれども向こうの知識の無い、稀有な存在。
決して居ないワケでは無いけれど、こうして動ける者は僅か。
私自身、稀有さを望んだワケでも無いのに。
特別、稀有なモノになってしまった。
「あ、贈り物を用意していたんです、どうぞ」
「ありがとうございます、あぁ、本当にありがとうございます」
私は、悪魔達に育てられた人。
そして人の手作りを知らぬ《ヒト》種。
『この料理名は、何かな?』
「“肉じゃが、モツ煮、カレー”です」
「ありがとうございます、大切に食べさせて頂きますね」
「あぁ“モツ煮”は、食べ慣れないかも知れませんから、無理をしないで下さいね」
「ふふふ、ありがとうございます」
両親は、とてもクズな来訪者だった。
怠惰国の王族に食い込んでいながらも、コチラでの性技に不満が有り、訪れた来訪者に抱かれ。
私は産まれた。
「甘味はアイリス様から、ご一緒にとの事ですが」
「はい、謹んでお受け致します。では、失礼致します」
『あぁ、では、また』
「また、宜しくお願い致しますね、フィオナ様」
「はい、では」
私の出自に関して知る者は、殿下だけ。
それは私達への配慮。
同情など、欠片も必要とはしていないのです。
《あ、いらっしゃいましたね》
「はい、失礼致します」
《はい、本日はコチラとなります。“ナポレオンパイ・分厚いパンケーキ・私の最初のクッキー”です》
「ありがとうございます」
《本当に良いんですか?私の最初のクッキーは、ベタベタの激甘ですよ?》
「コレも向こうを知る材料、ですから、本当にありがとうございます」
《いえいえ、ではクッキーだけは、感想無しで》
「ふふふ、はい」
私には、僅かに母の記憶が有る。
とても静かに、小声で、東の国の言葉で私を謗る母の記憶。
“お前なんか産むんじゃなかった”
“お前のせいだ”
私は4才の時に、悪魔達に助けられた。
もっと早くに、そう思った事も有るけれど。
その前に引き離されてしまったら、私は今でも、あの愚かな母を求めてしまっていただろう。
アレは私にとって、とても必要な時間だった。
《何だか、やっぱりとても安心します》
「半分だけでも、そうなりますでしょうか?」
《はい、あ、嫌でしたか?》
「いえいえ、ありがとうございます、どちらかと言えば違う国。憤怒国か、虚栄国の者に近い、そう思われる事が多いですから」
ほんの幾ばくかだけ、母の血を呪い忌み嫌った事も有る。
けれど、たった1適の毒液。
他は清く美しい、有益な水。
それらを一括りに毒の液体だ、などとは、愚かにも程が有る。
本来なら、清く美しい水の国の証。
唯一、悪魔が存在出来無い、東の国の証。
《ふふふ、次はお気に入りを頼んで下さい、私はもうストック切れです》
「あ、ではパフェは、出来ますでしょうか」
《何と、盲点でした。次は色んなパフェをお出ししますね》
「はい、ありがとうございます。ふふふ、美味しいです、“分厚いパンケーキ”」
私はこの再編を乗り越えた後、再び他の代行者と共に、地獄の最下層で眠りに付く。
そして私が真に目覚めるその時まで、氷の中で経験を繰り返す。
良い思い出を増やし、繰り返し繰り返し噛み締める。
目覚めたくなる様に、次に新たな良き何かを得たい、そう思える様に。
《あぁ、大変だ。次までに虫歯に気を付けて下さいよ、もう10品は浮かびましたからね》
「ふふふ、楽しみにしていますね、ふふふ」
醜悪な者は一部に過ぎない。
醜悪な血は、私の一部に過ぎない。




