15 後妻と悪魔。
《どうにか宥めて下さい》
後味の悪い捕縛騒動だったが。
これは、どうした事だろうか。
一体、このいじらしい態度は何なんだ。
「どちらの事が気掛かりだ」
《そらもう、お子様の事です》
「あぁ、そうだな」
背を撫でるだけでも、逃げる時は逃げるんだが。
背に触れても逃げない。
取り敢えず、撫でておくか。
《どうにか、なりませんでしたかね》
「アレは防ぎようが無い事だろう」
《でも、こうなると無い方が》
「人を刺す者のせいで包丁を規制するのか、フォークを規制し手掴みで食う時代に戻るべきか」
《そりゃ、衛生的にも無理ですけど》
「お前は、あの子が改心すると思っているのか」
《まぁ、どちらかと言えば、はい》
「俺はしないと思っている」
《あー、何ででしょうか》
「どちらの方が問題だと思う」
《あぁ、確かに》
「改心する者は割と直ぐに改心するが、しない者にはどうしても時間が掛かる。その場合の事を考えるか、殺処分基準の再考をする」
《あぁ、まぁ、費用も人員も有限ですからね》
「元から法が完璧では無い、と承知しているかどうかだろうな」
《まぁ、はい》
後味が悪い話。
嫌いなんですよ。
何で、物語の中でまで後味の悪い思いをせにゃならんのか、と。
「寧ろ、良く言った、俺は捕縛してから端的に言う方だが。もしかすれば、あの方法は効くかも知れないな」
褒められた?
《だと良いんですけどねぇ》
「お前こそ、気分転換をすべきじゃないのか」
《娯楽が少なぃ》
「だろうな、ならノートを見たらどうだ」
《良いんですか》
「見るだけだ」
まさか、ネットの掲示板を具現化出来るとは思わなかった。
私が救われた場所、私が救われた道具。
《ふふふ、やっぱりあの美術品の良さが分からない、誰か解説してくれ。コレですよコレ、こうして知識を共有したり、時には冗談を交えるんです》
「一緒に風呂に入るか」
《へっ?》
「気分転換になるだろう?」
《いやもう私は》
「俺の気分転換だ」
《あぁ、行ってらっしゃいませ》
「一緒にと言ったんだが」
《2人で入るには狭いのでは?》
「そうか?」
《いや無理ですよ、清掃した事有りますけど、無理無理》
「なら賭けるか、入れるかどうか」
《どんだけ風呂に無頓着なんですか、良いですよはい、行きましょう》
因みに言うと、この後、嵌められた。
浴槽が大きな物に入れ替えられてました。
ですが婚約していないのでと、何とか振り切りましたが、まぁ悩みは確かに吹き飛びました。
なるようにしかならん、と。
「何で不満げなんだ」
やっと、婚約まで漕ぎ着けたんだが。
《書類書いて婚約式してー、同居して期間を置いてー、飽きたら捨てる?》
「寧ろ、捨てられる心配は俺の方なんだが」
《何故》
「趣味が少ない、共有する話題もさして無い、明らかに捨てられるのは俺の方だろう」
《無理すんな》
「本当に、肩透かしの天才だな、間違い無く社交場でやっていけるぞ」
《そら煽りの天才侯爵に煽られまくってましたし》
あぁ、以前の事か。
確かに謝っていなかったな。
「すまない、悪かった、思った様に話が進まず八つ当たりをした」
《ガキ》
「良いのか、逆の煽り方をするぞ」
《乙女にオバサンはもう殺人事件ですよ》
「少しは乙女の自覚が有るのか」
《この位》
「糸の細さか」
《あー、髪の毛の細さ位》
「全く、未だに口説き落とせる自信が無いんだが」
《分かる、自分でもそう思う》
「お前の場合は本心なのがタチが悪い」
《嘘言うの面倒》
「だからお前が良いんだと思う」
《でも、抱けるかど》
「なら試すか」
《ぅう》
「悪かった」
《まだギリギリ16ぞ、少しは手加減を》
「中身はもっと上だろう」
《まぁ、そうですけど、処女は処女ですしぃ》
「入浴施設で働いてたヤツとは思えんな」
《そら臨戦態勢では無いから怖くないし》
「怖いのか」
《ちょっと》
「何だ、その程度か」
《この間が、実は国と国を走る川幅位有る》
「結構だな」
《そら痛い事は嫌いですし》
「出来るだけ優しくする」
《貴族たるもの、成婚してから》
「いや、そこは飛ばしても構わない」
《飛ばすんかい》
「多少はな、明らかに相性が悪かったら解消になる事も有る、主に大きさの問題だ」
《あぁ、成程》
「じゃあ試すか」
《うぅ》
「お前は本当に、可愛いな」
まだまだ、暫く掛かりそうだが。
少なくとも、芽は見えてはいる。
意外と長く掛かったが。
容易いよりは、遥かにマシだ。
《あ》
「何だ」
《試しても良いですけど、それこそ色狂いになったらどうします?》
「確かにな」
《ですので、そう言うのは程々に》
「飽きるまでした後、直ぐに子作りに移行すれば良いだろう」
《そうか、意外と避妊方法が有るのかぁ》
「そこからか」
落胆されました。
だって、結婚したら避妊する必要無いかと思ってたんですから、仕方が無いじゃないですか。
で、ラプラスから教わる事になりました。
主な避妊方法の1つが避妊具、生き物の内臓を加工したモノらしい。
そしてもう1つは、排卵日を避ける方法。
《えっ、魔獣》
『そうなの、基礎体温を測る水銀が無いから、排卵日や受精は魔獣に判断して貰うの』
ウチの国、亜人も魔獣も居なかったから忘れかけてたけど。
ココ、異世界だったわ。
《それで、その魔獣は》
『色々と居るのだけれど、今は猫の魔獣、かしら』
《猫の魔獣》
『コレ』
《からくり箱?》
『シュレディンガーの箱』
《おぉ》
『ココに手を入れると、もし相性が良ければ、猫が手に乗って現れるわ』
《良いですか》
「好きか、猫が」
《はい、お金を払ってまで触りに行っていました》
「そうか、構わないぞ」
《はい、失礼します》
アイリスは猫の魔獣を手に入れた。
人語を話すモノも居るらしいが。
『ニャー』
《ニャーなのぉ、可愛いねぇ》
暫くの間、猫にアイリスを取られる事となったが。
もう直ぐ、婚約期間が終了する。
どうせこうした事に興味が無いだろうから、と予め、全てコチラで用意する事にした。
招待客も場所も時期も、ドレスも装飾品も。
新婚用の宿泊施設も、だ。
「結婚してくれ、アイリス」
婚約期間が終了するその日に、結婚式が行われ。
あっと言う間に、宿泊施設へ連れ込まれた。
物理的に防音性が高く、魔法も使われているらしい。
お城の様な場所。
つい、うっかり喜んでしまったが。
《流されたと言うか、囲われて逃げ場が無かったと言うか》
「屋敷から逃げ出した事もあったな、他にも手紙を置いていたとは意外だった」
《急に辞めるんですし、せめてお詫びとお礼は》
「どうして俺に焼き菓子を出さなかったんだ」
《いや高位貴族に適当なクッキーはダメでしょうよ、しかも微妙な反応をされたら、お前の為に作ったんじゃないのに腹立つわ。とかなるので、はい、上司は上司ですから》
「もし浮気する位なら、いっそ急に消えてくれ」
《意外と、弱気》
「こう面倒だからこそ、情愛は程々にと思っていたんだ」
《まぁ、お仕事に差し障りが有っては困りますからね》
「仕事に理解が有る所も、高位貴族に理解が有る所も良い」
《宣誓はもう聞いたんですが》
「家の帳簿を任せられるのは大前提だが、そこに配慮と理解が有るのも良い」
《まーた無視する》
「俺には分かり易い所が良い」
《そらお外では良い子にはしますよ》
「変な鳴き声を出すのも可愛らしい」
出た、良い所の羅列ならまだしも。
可愛らしいとか可愛いとか、仕舞いには愛しいとか愛らしいとか言ってくるんだ。
どう、返せと。
《どう返せば良いのか》
「キスしろ」
頬にされるのは慣れましたけど。
ハードル、鬼高。
《それ、意外は》
「頬でも良いぞ」
《いやそれ以外で》
「抱き着け」
えぇ。
《えぇ》
「何だその眉間の皺は、泣きそうなのか嫌なのかどっちなんだ」
《困惑》
「どうして難しい」
《恥ずかしい、変な顔になっちゃうんじゃないかとか、嫌な思いをさせないか不安で怖いです》
「嫌われたく無いか」
《そらそうですよ》
好みは好みなんですから。
「なら目を瞑っておく、どうだ?」
《そこまでして欲しいですか》
「情愛が有ると示して欲しい」
まぁ、ずっと受け身でしたし。
不安だとも仰ってましたけど。
自覚が無いんですかね、全然、モテるのに。
《じゃあ、ちゃんと瞑ってて下さいよ》
「分かった」




