9 後妻と悪魔。
《一体、何を企んでいますか》
急に、向こうの事を知りたいだなんて。
一体、何を考えているのか。
「君の様な寛容さと知識が有りながら、何故、未だに争い続けているんだ」
まぁ、コチラにしてみればココは天国に近いですけど。
《私の私見で恐縮ですが。端的に言うと、そもそも神様を使って殴り合いを始めた辺りから、ですかね》
「神を、使い」
《はい、それと資源や土地の奪い合い、です。神様に与えられた土地だと思っていると言いながら、奪い合って、いつまでも平行線だと思います》
自国の奇異性は理解していますが、皆が平和になるには、皆が受け入れれば良い。
否定せず、存在を許すだけで、本当は良いと思うんですが。
どうしたワケか、他人の土地で権利を主張し始める者も現れる。
嫌なら来るな、帰れ、と思うんですけどね。
「君は、ココは、どうすれば良いと思う」
《この調子で良いと思いますけどね》
「何故だ」
《だって向こうは進化や進歩に追い付けて無いんですよ、そのせいで犠牲になってる数は多い様に見えます》
車、ネット、野生動物。
上げればキリが無い、どの国も教育も法整備も追い付いている様に見えない。
「何処もか」
《はい、一時は他国の教育方針が素晴らしい、と話題になりましたけど。数年後には学力が低下し、導入した我が国も低下しました。教育方針だけが影響しているかの判断は難しいですが、数値的には低下し、結局は方針転換しています》
「君は、さして優秀では無いと言っていたが」
《あ、一次情報源だけの情報を集めていたワケでは無いですけど、色々と調べるのは好きなので調べていただけです。何の専門家でも無い、ただの庶民です》
「学歴を、良いだろうか」
《あー、そこまででも無いです。国外も入れて上位20%で、分かりますかね?》
「賢いじゃないか」
《いやココではそうでも、向こうでは落ちこぼれですよ。世の役にも立たず、結婚もしないで》
『先進国には多いのよ、職が無いのでは無くて、希望を持てないの。特に、自由を愛する国、とかね』
《「あぁ」》
『ふふふ、本当に仲が良いわね』
《あ、気さく過ぎて困ってます?》
「いや」
『ちゃんと言わないと分からないわよ?』
「少し、舐めていた」
《えー?そうですかねー?》
「今までのは、ココまでしっかりしていなかったんだ」
《あらー、でもそれは、単にお若いだけでは?》
『何故、人種に治療魔法師が居ないのか、分かる?』
《理屈が難しいからでは?》
『けれど行えてしまう、不完全な魔法が』
「人が行おうとした時点で魔術となり、必ず何処かで理論体系が構築される。例えそれが不完全だろうと行えてしまう、それが人の特徴なんだ」
《人、転生じゃなくて転移ですか》
『そうなの』
あら面白い流れだわ。
《ギフト的な?》
『そうね、どうしてか、そうなの』
「人種にもその不安定な要素が有る、だが他は別だ」
『まぁ、私達や精霊が補佐をしているから、ね』
《やっぱ治療魔法は高度説、立証完了》
「まぁ、光魔法と呼ばれるモノも、結局は火属性だからな」
《あ、ですよね、分かります。光とはつまりは熱源、だから発光するんですし》
理論や理屈が一貫していない子って、結構多いのよね。
「ココまで、こうして会話が続かない様なモノばかり、だったんだ」
《あらー、お疲れ様です、でどうしたんですか?》
『ウチで引き取ってるの』
《帝国?》
『ゲヘナでね』
《ゲヘナ?》
『ソチラでの意味だと、“地獄”』
《えっ》
『悪魔の本拠地なの』
《“血の池”》
『そうそう』
「本当に、宿星だったんだな」
《あ、通じました?》
「いや、難解な言葉だった」
《ふふふ、暗号化し放題》
『ふふふ、そうね』
《“私は舐められていたんでしょうか”》
『“そうね、少し。けれど良い意味で、よ、親しみ易さに不慣れな子なの”』
《あぁ、あ、ゲヘナはどんな場所ですか》
「最も安全な場所だとされている」
『善人には、ね』
《“私は安全に過ごせますか”》
『“勿論よ”』
《成程》
「すまなかった」
《何がです?》
「君を、甘く見ていた」
《いや今まで通りが良いんですけど、過大評価するなら逃げ出しますよ、そこそこ面倒な問題を放置して》
『あら、なら私も協力するわ』
「ラプラス」
《“どんまい”》
『“良い言葉よね、ふふふ”』
面白いわ。
遊び仲間が増えたみたい。
「俺には、寧ろ」
『アナタがそう思うなら、そうなのかも知れないわね』
「ラプラス」
『好きにしたら良いじゃない、未亡人と収まっても良いのだし、適当な部下に押し付けても私が何とかするもの』
「すまなかった」
『気にしないで、人種なんて、所詮はその程度と言えばその程度だもの』
悪魔貴族の存在を知り。
その冷酷さや情の深さ、冷静さに憧れ、近い存在になろうとしていた。
だが、俺は俺自身を、そう冷静に観察出来ていただろうか。
いや、ココ最近は出来て居なかった。
出会ってからだ、調子が崩れた。
「出来るだけ、尊重するつもりだ」
『お好きにどうぞ、じゃあね』
悪魔は興味が無い事には、驚く程に冷淡だ。
俺はもう、失敗しているのだろうか。
だが、何に対してだ。
確かに甘く見ていたが、決して疎かにはしていない筈だ。
しかも、関係性に問題は無い。
なら。
一体俺は、何を失敗したんだ。
「はぁ、何なんだ」
未亡人の侍女になりました。
うん、色気が有るなぁ。
《アイリスです、宜しくお願いします》
何か、久し振りに名乗ったかも。
『皆さん、侯爵から派遣して頂いたの、粗相の無い様にね』
《あ、私、非常に未熟者ですので。寧ろ、お世話になるかと、何せ弟と共に拾って頂いたので、はい》
『弟さん』
《はい、以前に1度、侯爵と共にお会いしたかと》
先ずはコレで反応を見ろ、って指示されたんですけど。
『あぁ、そうなのね』
反応は悪くない。
《はい、何か失礼をしたかも知れませんが》
『いいえ、そうなのね、お礼を伝えておいて』
《はい》
『あ、そうだわ、ならあの子も懐くかも知れないわね。一緒に来て頂戴』
《はい、喜んで》
そうしてお庭に行くと。
まぁ、相変わらず可愛い子が、侍女と遊んでました。
『さ、いらっしゃい』
「はじめまして」
《初めまして、アイリスと申します、先日は弟がお世話になりました》
『入浴施設のお兄さんの、お姉さんよ』
「抱っこして見せて貰いました」
《だそうで、私も弟から良い子を案内したとお伺いしました》
『まぁ、良い子でしたね、ですって』
「うん、良い子にしてました」
『じゃあ、そのままお姉さんとも良い子で遊べるかしら』
「うん、はい」
『良い子ね、暫くお願いね』
《はい》
暫くとは言わず、寝付くまで構えます。
『会いたかったわぁ、アイリス』
《そう言えばお久し振りでした、お元気そうで何よりですが。侯爵は、どうされましたか》
「報告書に驚いていただけだ、簡潔だな」
《だって何の問題も無いんですもん、それに諜報の技術は皆無です》
あまり考えたくは無いが、あの未亡人は。
「俺の話題は出たか」
《侍女からのみですね、未亡人からは何も聞かれません》
「当たりか」
《何の事です?》
「俺に狙いを定め騒ぎを起こしたんだ」
《で?》
「あのな」
《子供の事を大切にし、真剣に考えた結果では》
「だとしてもだ」
《報告書にも書きましたが、質素倹約、使用人も大切に扱い。使用人でも男性との距離は有りますが、それ意外は問題は無い。確かに手段は強引でしたが、親は子供の為なら何だってします、それが親なんですから》
「君は、大切にされていたのか」
《だからこそです、もし自分なら、と何度も考えました。でも、だからこそです、思った通りにならない事は幾らでも有る。アナタの理想は知りませんが、高望みを続けていると、本当に独身のままかより不本意な相手になりますよ》
「結婚もしていなかった君が言うのか」
《ではアナタは子供の頃の記憶は何も無いんですか、私は子供の頃の思いを元に発言しています、アナタは良い父親になれそうなんですからグズグズしない》
「男になり相手にしたかったんじゃないのか」
《適材適所です、私には勿体無いと思いました》
何処かで聞いた事の有る言葉だ。
自分には勿体無い。
そう思うなら、どうして俺は誰かに譲らないんだ。
欲か、未練か。
いや、失敗を覆い隠したいだけだ。
「分かった、下がってくれて構わない」
《はい、失礼します》




