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悪魔貴族譚~ノビリタス・ディアボロス~  作者: 中谷 獏天
第8章 各国、各地の事情。
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4 魔獣と家政婦と来訪者。

 あの子達と似た様な厳しい場所に居ただろうに。

 何故、どうして、こうも自分達に甘いのか。


 正直、腹立たしい。


「何故、皆さん、繕い物をなさっていないのですか」


《その、もう夕暮れですし》

「まだ日が有ります、多少の光量を足し、今日出来るだけの仕事を出来るだけこなして下さい。先延ばしにしては、今回の(はた)き掛けの様に、必ず後で失態を晒す事になります。明日の余裕を持つ為に、今日、出来るだけの事をして頂けないなら見捨てられてしまいますよ」


『やはり、ルイス侯爵は』

「その方の事は良く存じませんが、使用人とは、いつ切られてもおかしくは無い存在なのです。今は大目に見て頂いている試用期間中も同然、だからこそ、体を壊さない範囲を自ら理解し働く事が重要なのです。夜目が苦手なら申し出て下さい、他の仕事をお任せする役割に組み込みますから」


「あの、私、縫い物が苦手で。しかも全く、夜目が効かないものでして」

「では洗い場を多く勤めて頂く事になりますが、構いませんか」


「はい、ありがとうございます」

《あの、私、掃除が苦手でして》


「どう、苦手なのでしょう?」

《特に銀食器などを、何処まで磨けば良いのか》


「あぁ、分かります、細かい傷も出来るなら消してしまいたいですよね」

《はい、ですので、どうにも加減が難しく》


「でしたら縫い物はどうでしょう?」

《はい、寧ろ得意なのですが。私ばかり、得意な事をしていては》


「得手不得手が存在しますから、人より多くこなせるのでしたら、それは寧ろ立派な職人も同義。以降は縫い物全般をお願い致しますね」

《はい、ありがとうございます》


「皆様、何も特化しなければならない、と言うワケでは無いですからね。得手不得手が無くとも、素直に従える事もまた、家政婦や侍女に必要な素養です。そして慣れれば慣れる程、余裕も出来る、そして余裕が有るからこそ空いた時間に手近な仕事がこなせる。そうすれば評価もされます、どうか慣れて下さい、コレはフェルナンド殿下からのご要望でも有るのですから」


 教えられた事に素直に従い、如何に慣れるか。

 子供達には言わずとも分かっている事を。


 いえ、大人だからこそ、慣れるには時間が掛かりますしね。

 私達が慣れるまで、としておきましょうかね。




『おめでとう』


《うん、ありがとう》


 誰のお陰か、順番に子供達は知恵熱を出し。

 とうとう、ユサール君が熱を出しました。


「氷ね、いっぱい有るからね」

《うん、ありがとう》

『ありがとう、コレだけ有れば十分だから、もうお休みなさいしようね』


「うん、おやすみ」

《うん、おやすみ》


 何故、どうして知恵熱を出すのかは分かった。

 そして何故、ユサール君が熱を出したかも。


 妖精や魔法の存在。

 それと聖獣や魔獣の存在を知って、自分達の手足が補えるかも知れない、と知ったから。


 やっぱり、コレはかなり衝撃的らしく。

 殆どの子の知恵熱は、コレで出ていた。


『魔獣や聖獣の事かな』


《うん》

『驚いた?』


《ううん、不安になった》

『あぁ』


 もし、悪い子なら協力は得られない。

 そして帝国で働いてる方に、義手や何かを作って貰う事になる。


 じゃないと、悪人だと思われてしまうから。


 罪人か悪人しか、欠損は放置しないのがココの流儀。

 だから、先ずは望むしかない。


 中々に、ハードモードだと思う。

 死生観も、価値観も。


《僕、あんまり良い子じゃ、無かったから》

『大丈夫、妖精さんだって寛容なんだし、大丈夫。必ず誰かが、助けてくれるから』


《でも》

『大丈夫、ココを追い出されたりしないし、誰も嫌ったりなんかしない』


 子供達には少し申し訳無いけれど、協力を願うのは全員が知恵熱を出してから。


 一旦は何班かに分かれて、ほぼ一斉に得て貰う。

 じゃないと、本当に仲間はずれが起きるかも知れないから。


《何でもするから、捨てないで》

『捨てない捨てない、見捨てない、大丈夫』


 どの子も、こうして泣いて縋る。

 不安は全く与えて無い筈なのに、どうしても以前の事が浮かぶらしい。


《うぅ、ごめんね》

『大丈夫、けど先ずは目を瞑って、何処にも行かないから』


《うん》


 幾ら人手不足と言えど、良くもこんな混乱するだろう大所帯を受け入れてくれたと思う。

 その恩に報いる為にも、先ずはこの子達を出来るだけ自立させるのが、当面の役割だとは思うけど。


 その先がなぁ。




『幸か不幸か、纏まりが生まれたそうで』

「あぁ、子供とは実に面白い作用をするものだな」


 私が残るかどうか、帝国からの家政婦、そして子供達の存在。

 それらが作用し、新参者も含め、格段に纏まりが良くなったものの。


 今度は、私がいつ公式に戻るか、なんですが。


《いっそ、この部屋で殿下と籠ったままで良いのでは》

「若しくは、今と同様に、不意に現れるか」

『いえ不意に現れるにしても限界は有りますので、徐々に、復帰しようかと』


 完全に戻ってしまえば、いつ気が緩むか分かりませんし。

 不意に現れる事が長く続けば、今度は不満が出て来てしまうでしょうし。


「まぁ、それが妥当だろうな、暫く緊張し続けるが良いさ」

《甘過ぎたと言うか、手が回らなかったとは言えど、帝国の家政婦に指摘されましたしね》

『はい、そうですね』


 出来る事を、出来る範囲内で。

 其々が妥協し、我慢するしか無い。


 そこまでしか、介入出来ませんでしたから。


『あのー』

『はい、何でしょう、カメリア嬢』


『自分の身の振り方が、どうにも、全く分かりませんで』


 綿花の様な気質を持つ来訪者。

 しかも、子供の一部に好意を持たれている方。


「私の下で働くのは不満か」

『いや何をすれば宜しいので?』

『子供達の自立は、そこまで目途が立っていますか』


『あ、いえいえ、まだ1年は確実に掛かるかと。ですが私が居れば甘えてしまう、頼ってしまうでしょうから、徐々にでも離れるべきかと』


「お前が出て行くつもりか」

『捨てないでくれ、が子供達の要望ですので。何処か地方の孤児院に飛ばすとか、ですかね?』

『それは無理かと、アナタの容姿を見慣れている者は僅かです、直ぐに目立ち最悪は誘拐されるかと』


『あぁ、そうなっちゃいますか』

『リリー嬢の仕事を手伝うつもりは無いですか?』


『私を育ててくれた祖父母に、看護師と酒や色恋に関わる仕事だけはするなと、キツく言われておりまして』

『では、以前のご職業を活かすのはどうでしょうか』


『それなんですが、ココでは、食べていけない職業でした』


 彼女の経歴等は相変わらず不明なまま、だったんですが。


「どの様な職業だ」

『義足や義手などを製作、取り扱う仕事でしたが。帝国の職人ですらも、片手間の趣味、だそうで』


 欠損は大きな印となる。

 だからこそ、聖獣や魔獣の協力を請う事が大前提。


 ですが中には、敢えて、生きた証として残す者も居ますが。

 数は少なく、稀有と言える存在。


「そうか、それでか」

『はい、しかもココの様に木工では無く、特殊な材料を使っての加工ですので。正直、木工の技術は皆無、私の知識や技術は全滅です』


「であれば、他に興味が有る事は、子供か」

『あぁ、いえ別に興味が有ると言うより、少しでも何か出来る事が有るかな。程度で、寧ろ家政婦などが、良いかなと。まぁ、そんな程度でして、はい』


『ではいっそ、貴族の妻になるのはどうですか?』


 目が飛び出しそうになっていますが。

 以前にも、お伝えしてある筈では。


『お作法を、この年から、覚えるのは流石に』

『リリー嬢からはさして問題は無い、とお伺いしておりますが』


『そんなもん見様見真似ですよ、そんなに甘くないでしょうよ、貴族の生活』


『まぁ、そうですが』

「少なくともそう働かないで済む相手を、探してやるつもりだが」

『何故』


『相応の功績を頂いておりますので、それの返礼です』


『何も』

「お前のお陰で事が有利に運んだ、そして来訪者も認めた王族候補だと、箔も付く。相応の対価だ」


 まだ、ご納得頂けませんか。

 と言うか、欲の無い方ですね本当に。


『まぁ、もう少し模索して頂こうかと』

『是非、そうさせて頂きます』

「あぁ」


 では先ずは、暫くカメリア嬢との交流から増やしていく事にしましょう。

 どうやら彼女を、本気で慕っている者が居る、そうですから。

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