5 善悪の正しい世界。
Barbegazi、雪の精霊種。
冬の雪山にのみ現れ、容易く雪に埋もれ、同時に容易く雪から這い出る事が出来るモノ。
そして雪上を容易く滑り降り、時には雪崩にすらも乗る、雪の精霊種。
更には遭難者を導き、雪に埋まった者すらも助け出すモノ。
氷柱に良く似た髭や髪を持ち、足は大きく小人族に近い容姿を持っている、とされているらしいが。
子供では、この髪色が精々だろうに。
「ごめんなさい殿下、私、アマデウスみたいに賢くないの」
「其々に得手不得手が有る、お前は氷を作れるのだろう、だがアマデウスには出来無い事だぞ」
「本当に?」
「あぁ、アレは家守の妖精種、家の事は出来るが氷は作れない」
『そして私達にも作れません、ですので氷を売るだけでも、アナタ1人でも生きられますよ』
「ココに居たらダメ?」
「いや、だがお前には生きる場所を選ぶ権利が有る。更に安全な場所で、新しい家族に囲まれて過ごす事も出来る」
「カメリアは?」
「何故、カメリアの事を気にする」
「だって、連れ出してくれたから。いっぱい来たけど、消えちゃったり、何処かに行っちゃったから」
悪魔の箱庭とは、つまりは試練の箱なのだろう。
悔い改めるなり、償うなりをすれば出れるか、若しくはこうして見本を示すか。
「お前が知る限りは、だろう」
全てが、全ての時間目覚めていたワケでは無い筈。
「うん」
『彼女なら大丈夫ですよ、来訪者様として、功績を打ち立てれば貴族としても過ごせます。彼女も、生きる場所も方法も、選べますよ』
「じゃあ、カメリアが私を選んでくれなかったら、離れ離れになっちゃうの?」
「カメリアの何が気に入った」
「分かんない、でもあんまり、離れたくない」
人を惹き付ける才。
コレばかりは、生まれ持った性質なのだろうな。
実に羨ましい限りだ。
「ではカメリアの熱が収まってから、改めて尋ねる事としよう、良いか?」
「うん」
『熱が収まるまで数日掛かります、それまで必要な事を学びましょう』
「うん」
「カメリアが気になるのだろう、帰って看病してやると良い」
「うん、さようなら殿下」
「あぁ」
王族候補より、地位よりも、か。
『彼女の性質は暑さが苦手だそうですから、夏の時期には涼しい部屋に、もう割り振って決めてしまいましょう』
「あぁ、だが他にも居るのだろう、ジョゼの妖精」
「アドニスの系譜、だそうよ」
《ココは我じゃよね、ざっと言うと、アフロディーテの策略により仕込まれた子供じゃよ》
『いや、アレは偶々では』
《何が偶々じゃよ、幾年も生きとる女神じゃよ?その結末がどうなるかまで、最初から、分かっていたであろうに》
「何が有った」
《とある王女がアフロディーテへの祭事を怠り、その罰にと、実父へ恋する様に呪われたんじゃよ》
そして王女は乳母の仲介を経て、十二夜に渡り念願を叶えたが。
実父に気付かれ殺害されそうになると、神々に祈り没薬の木となった。
『そして没薬の木から、アドニスが生まれ』
《そこじゃよ、アフロディーテが養育者となったんじゃ、じゃが忙しいんでペルセポネに預けた。そして案の定じゃ、ペルセポネも惚れ込み奪い合いとなると、ゼウスじゃかカリオペーが仲裁に入り。年の3分の1はペルセポネ、アフロディーテ、アドニスの月が出来上がったが。まぁ、自分の時間を殆ど、アフロディーテと過ごしてたそうじゃよ》
『そして狩りの最中に、命を落とした』
《最有力候補としては、アルテミスの怒りに触れた、じゃな。時点でアフロディーテの愛人のアレス、若しくは同一視されとったヘパイストス、アルテミスの双子の兄弟のアポロンじゃな》
「美と愛の女神に愛された、人の系譜か」
《そして豊穣、収穫の秋と死に関連するで、蓄えの才が有るぞい》
《ドリアード、もう少し人語を介するべきだろう。保存食、乾いた風を操る、風の精霊種となった》
「あぁ、風が風邪の元となる、は東のか」
『はい』
《過保護な悪魔め》
《お前には遠く及ばん》
貴族の多い場所。
だが消費は多く、加工の知識や経験が不足している場所。
「実に便利だな」
《じゃろ!》
子供達に介護されている間に、其々に役割が出来ていた。
そして既に、衛生教育まで。
『申し訳無い』
『いや、そこは寧ろ好転しての結果だと捉えて欲しい』
『好転?』
『あの側近のルイス侯爵が居るだろう』
『はい』
『アレが出て行くかも知れない、その揺さぶりを掛けている最中に、君達が現れたんだ』
『何とまぁ、間の悪い』
『いや、それこそ事態が好転する材料だったんだ。単に焦るだけ、引き留めるだけでは、人材を篩に掛ける事が難しかった』
『ほう』
『だが、成果を目に見えて上げる、そう事態を好転させる為にどれだけ働いたか。コチラが、評価出来る状態となった』
『つまり、寝込んでて良かった?』
『あぁ、子供達も自主的に動く様になった。あのままなら、君に甘えた状態のまま、過ごす事になっていたと思う』
まぁ、そう評価頂いているなら、良いんですが。
『成程』
『他にもだ、本気で居場所を考える切っ掛けにもなった、主に侍女達のな』
『問題が山積みでしたか』
『まぁ、だがそれも好転した。実を言うと男嫌いが集中していてな』
『あぁ』
『相談さえしてくれていれば、と、そうした状態だったんだが。子供達に関わる事で、子供の事、家庭に対して真摯に考え相談してくれる結果となったんだ』
『あー、女同士じゃ子作り出来ませんもんね』
『だが、ココでは出来るんだ、性転換の魔法や魔道具が有る』
ザ・ファンタジー再び。
『知恵熱が、ぶり返しそうなんですが』
『そこはすまない、ただ期間は十分に猶予を持たせたつもりなんだが、何か違和感が有るならココで止めておこう』
違和感。
『多分、無い、気もしますんで。はい、続きをお願いします』
あぁ、流石看護師。
触って確かめるんですね。
『すまない。まだ1人しか相談は来ていないんだが、そうして状態が好転した事だけは、知っていて欲しいんだ』
私を看病してくれていた子は、綺麗な白髪になり、冬に備え雪室のお勉強をしている最中。
そして欠損が無いながらも1番に容姿が悪いだろう、とされそうな子は瘤や痣が消え美少年になり、保存食の指導係に。
今でも青空教室で、のびのび学習中。
の筈が、コチラの存在に気付くと、一斉に視線が集まり。
走って来ますか。
「あ、お熱は大丈夫?」
『あぁ、どうも、多分大丈夫かと』
『カメリアが好きな保存食は何?勉強しておくね?』
『あぁ、どうも』
何故、こう慕われているのか。
ただ連れ出しただけで、寝込んでただけなのに。
『お話は後で、休憩の時間にしましょう』
「はーい」
『はい』
もう子供達だけで、仲良くなっている。
凄い。
『まだ、自身の身の振り方についても、暫く時間が掛かるとは思う。だからこそ、当面は子供達を頼みたい、一応だが手引き書を用意した』
『あぁ、何から何までどうも、ありがとうございます』
『いや、俺はあくまでも片手間にしか関われないんだ、看護院の設立に携わっているんでな』
『看護院、と申しますと』
『寝たきり状態の者を看病する施設、それと看護師を養育する施設だ』
『魔法が有るのに、寝たきり』
『魔法で疫病の殆どが守られてはいるが、それは限定的なんだ。人の生活圏内のみ、精霊の加護により、破傷風菌などが抑え込まれているに過ぎない』
結界、的な感じですかね。
『成程』
『そして治療についても、基本的には自然に任せ、薬草を主に使用している。そして限られた抗生物質は存在するが、限定的に使用するのみなんだ。その抗生物質に耐性の有る菌が出来ては、本末転倒だからな』
『あぁ』
『そして、寝たきりの状態になってしまうには、様々な要因が有る。些末な菌が入ったにしても、稀にだが、寝たきり状態になってしまうのは向こうも同じなんだ』
『魔法で、治さないのは』
『そもそも、出来る者が限られる、そして果ては不老不死に繋がってしまうからだ』
『あぁ、成程』
何でも治せたら、そりゃ死にませんもんね。
『熱は、大丈夫そうか?』
『多分』
『ユサール、少し良いですか』
《はい》
ダッシュ。
元気。
『彼女の散歩の付き添いをお願い致します、少し熱が出るかも知れませんので、様子を気にしてあげて下さい』
《はい》
『あ、今は特に気配は無いですからね、大丈夫ですよ』
『ですが体温となると、手を繋いであげて下さい』
《はい》
素直。
『では、休憩の時間まで、無理せず宜しくお願いしますね』
《はい》
『あぁ、ありがとうございました』
『いえ、では』
リリーさん、使い分けが本当に凄い。
《カメリアが居ない間、読み聞かせをして貰ったよ》
『おぉ、そうでしたか』
《けど知恵熱が出ない様にって、少しだけだったんだ》
『まぁ、知恵熱を出すと暇ですからねぇ』
《知恵熱、次からはカメリアにお願いしろって言われたんだけど、本当に良いの?》
あぁ、だから私が必要なんですね。
子供ならきっと、心細くもなるでしょうから。
『もうお世話され慣れましたからね、どんと来い、いつでも知恵熱を出して良いですよ』
《ありがとう》
暫くはお世話係。
それから、身の振り方を考えますかね。




