2 善悪の正しい世界。
《それにしても、箱庭って》
『あら、知らないの?悪魔の箱庭』
アレキサンドリア様、ラプラスさんをガン見した後。
コチラを。
「それ、定番、なんですかね」
《いやいや、聞いた事も無いですけども》
『ココの定番よ』
《えっ、じゃあラプラスさんの箱庭も有るんですか?》
「数が凄そう」
『そうなの。だから寧ろ、私が発端、かしらね?』
「演算数が多過ぎて他を圧迫してしまいましたか」
『そうなの、どうしても干渉しちゃって、だから隔離されたのが切っ掛けね』
「可視化したら眩暈がしそう」
《それ数式で言ってます?》
「勿論、きっと途方も無い公式と乱数が」
『ふふふ、0と1なら特にね』
《あぁ、無限ぽそう》
『でも無いのよ』
「公式が有るワケですしね」
《不意に現れる科学ヲタクの要素》
「切っても切れませんから」
『ふふふ、そうよね』
「あ、あの、では善悪の逆転した箱庭も又」
『そうした公式で成り立っている箱庭』
「ですよね、道理で規律正しいワケですよ」
『けど乱数はちゃんと組み込まれてるそうよ?』
《あの子が乱数、ってワケじゃないですよね?》
『勿論、アレは世界ちゃんからの贈り物、だもの』
《「世界ちゃん」》
『神様は居ない、けれど観測者が居る場合、何と呼べば良いのか。だから世界ちゃん』
「その、観測者を捉える事は」
『残念だけれど、私達でも無理なの』
《と言う事は、精霊さんでも無理な存在、なんですか》
『そう、だから世界ちゃんは居るかも知れないし、居ないかも知れない』
「ですが、何か確信が有るから、そう名言しているのですよね」
『いえ、願い、ね』
「願い」
『万能なる神が居なくとも、ソレらを観察し、物思う何かの存在』
《居てくれたら良いな》
『そうね』
「やはり神は、居ないのですね」
『居るわよ?』
《居るんですか》
『東の概念、守護神』
「あぁ、アレは本当に成れるんですね」
『そうよ、けれど個人だけに影響する事が殆どだから』
《いや待って下さいよ、何ですか守護神が実在するって》
「稀に聖獣や精霊種が、その者の魂に沿う、だそうで」
『どうしても超えられない種族の壁が有った時、その魂に、その背に宿る事が有る』
《じゃあ、神様、居るじゃないですか》
『けれど西洋的概念としては、どうかしら?』
「寧ろ、守護天使に近い」
『だからこそ、神と呼ぶには少し不足が有る』
「つまり、概念としては未だに定着していない」
『殆どの大陸では、ね』
《いや、神様は神様でしょうよ》
「万能では無いと神では無い勢」
『ふふふ、数は時に暴力的だもの、ふふふ』
《頭でっかちめ》
「いえ落ち着いて考えてみて下さい、コレが他にまで定着すると、寧ろ弊害の方が多いかと」
《あぁ、惚れされて守護神にさせる系》
「です、コレはやはり、土着の信仰とすべきかと」
《確かに、悪用しようとする輩はもう、本当無限に湧き出てきますからね》
「教育です、教育で先ずは悪の芽を摘むんです」
《草の根運動》
「百里の道も一足から」
《ふぇええ!》
『ふふふ』
「あ、箱庭の内部の方は」
『怠惰国の内部で死んでしまった、とされる者達』
「つまり、年代はバラバラ」
『そうね』
「けれど、その場所で違和感無く生きていた」
『そこは可視不可視、休眠を使って乱数は最小限に、私はそうしてるわ』
『私もですよ』
悪魔さん、不意に現れる。
「報告書によると、ベリト侯爵では」
『そうです』
真っ赤な目に真っ赤な唇に、金髪。
何だろう。
綺麗で澄んだ声だし、何か凄い。
『ふふふ、彼女は箱庭の管理者』
『放浪・不満・躁鬱、破滅と急ぎ・殺人と冒涜・地獄の記録保管所の看守・錬金術師、それらの名を冠しています』
《なる、ほど》
「あぁ、記録保管所、つまりは箱庭の管理者」
『正確に言うならば箱庭置き場の管理者です』
《成程》
『そして天使名は』
『Seehiah』
『悪を取り除くモノ』
「あの、では善悪逆転の箱庭は」
『私の管理下の箱です』
「では、公式などは」
『価値観を逆にしたまで、ですが統率に関しては幾ばくか関与していますが、デストピアと呼ばれる程の規制はしておりません』
《なのに、あの感じなんですね》
『暴力や見た目で直ぐに判断出来る事が優先されている為、より規範の広まりが強いのです』
「成程、やはり掲示力、ですね」
『はい、そして分かり易さ』
《成程、線引きがよりハッキリしてるから》
『どうでしたか』
あ、感想が気になる感じなんですね。
《ぶっちゃけ、やっぱり意外と似た状況になると思ってたんですよね、善悪逆転の世界って》
『はい、混沌が生まれるのは線引きの曖昧さ故、明確な線引きは寧ろ統率が容易くなる』
《ですよねぇ、だからデストピア=管理社会、白黒ハッキリしてるとグレーが困る》
『ですが、だからと言ってグレーの幅を広げる必要は無い、少数の為の幸福故に大多数の幸福が侵害されては本末転倒』
《やっぱり、余力有ってこその救済措置、ですよね》
『はい』
「確かに、流石アイリス様、博識でらっしゃる。いや真面目に、ですよ、真面目にですから」
《本当に?》
「はい、大真面目です、善悪の逆転の世界について考えてもみませんでしたし。そもそも、何故、そこに至ったんですか」
《いやー、良く有ったんですよ、凄く酷い世界が下地になった物語》
けど、それって一周回って、結局は同じ世界になるんじゃないかなって。
だって結局は幾ら力でのし上がっても、物量、より多い人員や金がモノを言う世界になる筈。
戦争は勿論、威嚇攻撃とかって、定期的に有ったじゃないですか。
「あぁ」
《不健康であれ何であれ、結局はお金が欲しいから暴れる。でお金が有れば大人しくさせられる、大人しくなればお互いにお金が楽に使える、お金を使えば欲しいモノが楽に手に入る》
で、資格が必要なモノなら、脅すか金を更に積む。
でも、やり過ぎたら他の権力者も同じ事をするか、若しくは台頭する者が現れる。
だから抑止する為に法を作ると、他の者も対抗して法を作る。
「だからこそ結果として、法整備がなされ、結局は同じ事になる」
《ただ権力者の位置が変わるだけで、そこまで世界が変わる様には思えなかったんですよねぇ》
大多数が理不尽だと思えば、いずれ打倒される。
それに縄張り争いって、常に諍いが起きてるワケじゃない。
欲しいモノが出来た、他に奪われた、だから争う。
「だとしても、限度を決めないと、最悪は全滅する」
《です。ほら、ヤの付くお仕事の方々ですら、仁義だとか掟が有るワケじゃないですか》
「そして目立ち過ぎると」
《より強いモノに捻じ伏せられ、今度は他の悪が台頭する》
「けれど、それらも目立ち過ぎれば、同じ事の繰り返しになる」
《で、目立たない様にするには、同盟やら掟を決める必要が出る》
「そうして安定を図らなければ、いずれは人口減少、果ては金が手に入り難くなる」
力を誇示するだけ、って殆ど無いと思うんですよ。
あの背中に鬼が居る最強生物以外は。
結局は欲しい何かが有って、それを如何に手に入れるか、で。
《一強の存在が居るワケでも無い限り、統治も同じだと思うんですけど、どうですかね?》
『はい』
《ほら簡。いや、時が止まった世界、誰も賢くならず幼いままで。それこそ、特定の誰かだけ、が強いままで居続けられるなら別ですが》
「老いが有り、衰退が必ず訪れる」
《けど、それすらも凌駕するってもう》
「神様、ですよね」
《でも神様って、1人じゃないと思うんですよ》
「はい、なんせ私も、多神教者とも言えますから」
そして次は神々が争うけど。
結果的には安定する。
《コレ、物理法則とか良く分かりませんけど》
「恒常性って、必ず働くと思うんですよね」
常に動き続ける分子だとか原子だって、安定、と呼ばれる状態が有る筈なんですから。
『はい』
『そして、安定には定義が必要となる』
《それが、観測者の世界ちゃん》
『はい、常に無秩序な世界は有りません』
『だからこそ、私達はそう考えているの』
「定義を齎す世界ちゃん。ほら、やっぱり賢いじゃないですか」
《ヲタク知識ですからね、ヲタクの定番》
「ヲタク凄い」
《いやSFヲタクには負けますって》
『はい』
《ほらね》




