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悪魔貴族譚~ノビリタス・ディアボロス~  作者: 中谷 獏天
第8章 各国、各地の事情。
168/200

1 生まれ変わっても。

 妾に階段から突き落とされ、殺された。

 だから今世は、夫の為に私が妾となった。


 なのに。


「何故っ」

《だってアナタ、目障りなんですもの》


 夫を愛している、だからどんな立場だって良かった。

 なのに、また、私は最後まで。


『お嬢様、お嬢様』


「はっ、はぁ、はぁ」

『大丈夫ですか、お嬢様』


 アレは、単なる悪夢だったの。

 いえ、それよりも重要な事が有る。


「アナタは、誰」

『寝惚けてらっしゃるのですか、お嬢様。私はニーナと共に侍女をしている、ベリトですよ』


 以前も、その前も、そんな者は居なかった。


「いいえ、私はアナタを知らないわ」

『では、命が尽きる前に契約した者、ではどうでしょうか』


「尽きる前」

『意識を手放す直前、私はアナタに1つの提案を申し出た。愛を得る為の機会が欲しいか、と』


 あぁ、とても小さな声で、僅かに聞こえた幻聴の様な何かに。

 そうだ、私は返事をした。


「欲しい」

『では、改めて契約成立ですね、マリー』


 握手を交わした瞬間、体の全てが覚醒したかの様な感覚が広まり。

 再び生が始まった事を、改めて理解した。


 以前よりも若返り、夫とは婚約すらしていない状態。


「何故なのベリト」

『そもそも、あの方が妾を必要となさらなければ、殺される事は無いのでは』


 夫が、何故あの女を必要としていたのか、前回でも分からなかったと言うのに。

 いえ、今なら知る事が出来る、変えられる。


「そうね」

『ご命令を、願いを口にして下さい』


「夫の家の事を、全て、教えて」

『はい、仰せのままに』




 夫の家は、醜聞にまみれ酷い状況だった。


 両親共に愛人を作り、息子の事は乳母と侍従に任せ、子供には無関心。

 しかも侍従は金持ちが気に入らないからと虐げ、乳母ですらも無関心。


 こんな家はいずれ崩壊する。


 その証拠に夫の家は名家ながらも、私の家に買われるも同然だった。

 それでも私は、夫を愛していた。


 そして今でも。

 どんなに酷い扱いを受けようとも、私は夫の傍に居たかった。


 その命が尽きるまで、最後まで添い遂げたかった。


「ウチで面倒を見る、それは難しい事かしら」

『ご命令を、願いを口にして下さい』


「あの人を守る為、ウチで保護して」

『はい、仰せのままに』


 願いは直ぐに叶う事になった。


《侍女から聞いたぞ、中々に賢い子だ、恩を売ればいずれ安く買い叩けるだろう》


「受けて下さるのね、お父様」

《勿論だ、保護してやろう》


 とても簡単だった。


 最も金に困っている者や、最も良心の有る使用人にウチへ駆け込む様に仕向けさせ、内情をバラすか子供をコチラに預けるか。

 どちらかを迫った。


「もう大丈夫よ」


『ありがとう、ございます』


 幼い夫は、とても可愛らしく、少しでも一緒に居られる事が嬉しかった。

 けれど、幼いながらも赤の他人の男女を、同じ家で育てる事は出来無い。


 夫は叔父の家に住み、私の家に通い学びを得た。


 だから、今度こそ私を愛してくれると思っていた。

 なのに、今度は別の女に手を出した。


《コレだけ手間を掛けたと言うのに、恩義を感じぬとは、やはり》

「良いのお父様、それでも私は彼を愛しているの。お願い、たった1度の過ちよ、お願い」


 夫は侍女のニーナに手を出した。

 私は2人とも愛していた、だから許した。


 なのに。


『お前を女としては見れない』


 また、他の女に手を出した。

 目の覚める様な白い肌に、金髪で青い目の美しい娘に。


「何が、いけなかったのでしょう」

『共に育ったんだ、君を、妹の様にしか思っていない』


 私は、また失敗してしまった。

 少しでも傍に居たい、そう欲張ったせいで、また。


「分かりました」

『だが離縁する気は無い、君は君で、愛人を探せば良い』


 とても心が抉れた。

 ナイフを突き立てられ、更に抉り出された様に痛かった。


「分かりました」


 けれど、私は今度こそ、夫と最後まで一緒に居られる。

 そう思っていたのに。


《ごめんなさい、お嬢様》


「ニーナ、何故」

《まだ、あの方を愛しているんです、今でも》


 私は、幼い頃から一緒に居るニーナに殺された。

 あんなに愛していたのに、愛してくれていた筈なのに。


『もう1度、やり直しますかマリー』


「お願いベリト」




 次は夫と共に過ごすかどうか、選べる時期に目が覚めた。


『マリー、どうなさいますか』

「離れて過ごすわ」


 夫は叔父の家で過ごし続け。

 私もニーナも全く関わる事無く、彼は立派に育った。


 やっと、最後まで共に過ごせる。

 そう思っていたのに。


《すみませんお嬢様》

『す、すまない、悪かった』


 彼はまたも、ニーナに手を出した。

 今回も、私には触れる事すらしなかったのに。


《お嬢様》

『彼女とは別れる、だから許してやってくれ』


 どう足掻いても、無理だった。

 どう足掻いても、結ばれない相手。


 けれど、手放せない。

 今でも私は愛しているから。


「そう」


 私は自ら命を絶った。

 そして願った。


 もう1度。

 コレで最後と。




『マリー、どうなさいますか』

「一緒になりたい」


『はい、仰せのままに』


 夫とは適度に関わり、近付く女を牽制し。


 そしてどうにか、婚約に至れた。

 嬉しかった。


 なのに。


『しつこい女だな、どうして俺なんだよ』


 初夜の晩、夫に首を絞められた。


「な、なん、で」

『何度も何度も繰り返したって、お前みたいな醜い女を、誰が愛するかよ』


 最初から、夫は愛してくれてはいなかった。

 あの優しさも何もかも、全て、打算でしか無かった。


『マリー、どうしたいですか』


「ぶ、武器を、頂戴」


 私は夫の腕を刺し、驚いて離れた夫の足を刺した。


『ま、待ってくれ、冗談。冗談だよ、こうした、そう、新しい趣向なんだよ』


「そう」

『あぁ、そうとも、こうした事が巷では流行りなんだ』


「そう」

『どうしてか足が動かないんだ、頼む、助けてくれ』


「何故?」

『お、僕は、君の夫じゃないか』


「そう、そうね」


 美しくも無く、可愛らしいとは自身でも思ってはいなかった。

 だからこそ、夫の言葉は嬉しかった、信じていた。


 君は可愛らしいよ。


 愛してくれていると思っていた、だからこそ愛せていたのに。

 彼は、最初から愛してはいなかった。


『だから、な?ナイフを置いてくれ、助けてくれ、どうしてか動かないんだ』


「誰にでも欠点は有る、だからアナタの欠点だって許してきた。なのにアナタは、最初から、愛してくれてはいなかった」

『違う、違うんだ。言い間違いだ、本心じゃない。そう、試したんだ、あんまりに幸せで不安だったから。試しただけだよ、君を愛してる、君だけだ』


「そう」


 そうして私は夫のもう片方の足も刺し、残りの腕も刺した。


『頼む!許してくれ!!』


 夫を滅多刺しに、私は自ら命を絶った。

 もう、やり直さなくても良い、そう願いながら。


「私はただ、愛し愛されたかっただけなのに」

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