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悪魔貴族譚~ノビリタス・ディアボロス~  作者: 中谷 獏天
第8章 各国、各地の事情。
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後宮。

『私の娘は香に優れております、是非、帝の』

「うむ、では外交を得意とする高官の妻としよう」


『恐れながら』

「朕の考えに異議を唱えるか」


『いえ』

「次」


 憤怒国、この国には後宮が有る。

 だが、その内実を理解している者は僅か。


《本日は》

「本題から入れ、朕の時間を無駄にするな、お前の娘の秀でている所は何だ」


《大変失礼致しました、私の娘は茶に秀でており》

「そうか、では農務を司る高官の妻とさせよう」


《はい、謹んでお受け致します》


 有能な者を帝の傍に置けば良い、と言うものでも無い。

 何事も適材適所、その有能さを活かせる場所に置くべきだろう。


 では、帝の妻に相応しい者とは何か。


「次」


「はい、失礼致します……」




 後宮に入れられてしまった。


 全く何の才も無く、眉目秀麗でも無いのに。

 何故。


《あの》

「茶は何が好きだ」


《あ、渋みが少なければ、何でも》

「拘りは特に無いのだな」


《と申しますか、そう何種類も飲み比べる機会が無かったもので》

「そうか、ならいつか好みが分かると良いな、暫くは朕の好みに合わせて貰うとしよう」


《はい、仰せのままに》


 真面目で勤勉でらっしゃるとはお伺いしておりますが、何故、私のお部屋に。


「香は焚かないのか」

《申し訳御座いません、偶にでしたら、少しだけ焚く事も有るのですが。常に焚く習慣が無く、こうして過ごさせて頂いております》


「そうか、過ごし易い様に過ごせば良い」

《はい、ありがとうございます》


「甘味は何が好きだ」


《干した棗、ですかね、近くで良く採れますので》

「茶と同じか」


《まぁ、はい、ですね》

「そうか、では多くを知ると良い、用意させよう」


《はい、ありがとうございます》




「北の宮、麗英をどう思う」


《正直、大変キツい方なので。もし私があの方の子供に生まれ変わったなら、同じく子を成した方をも、もの凄く恨むかと思います》

「そこまでか」


《私、ご存知の通り見下されがちですので、どんなに正しい事を言おうとも一蹴されてしまうのです。他の方は、愁陽様や燕花様は、もう少し柔らかい受け取り方をなさるか成程ねと。そう判断を保留なさるのですが、あの方は、そうでは無いので》


「成程」

《私が幼稚で有る事は百も承知なのですが、麗英様もご承知の筈、ですのでその様に思うに至りました》


「では誰の妻に相応しいと思う」


《尚書相応の、大理寺の方、でしょうか》

「それは何故だ」


《厳しい方には、厳しい方も従うかと。より正しく強い者には敵いませんでしょうし、逆らう利も無いかと》


「中々に厳しい物言いだな」

《あ、申し訳御座いません、強く正しい者に阿り易い方かと思い。正直、強き者に従う方が楽でらっしゃるかと思ったまでで、麗英様の事はどうとも思っては居りません》


「どうも思わないのか」

《少なくとも、陛下のお傍にとは、誰も思わぬ筈でしょうから》


「そうか?」

《陛下には心穏やかにお過ごし頂きたいので、あの様な方を薦める者は陛下を軽んじてらっしゃるか見誤って居られるかと、ですので私なら燕花様をお勧め致します》


「ほう、何故だ」

《穏やかで明るく楽しげな方ですから、きっと憂鬱な事が有ろうとも、軽やかに吹き飛ばして下さいますかと》


「そうか、では明日は燕花の元へ行こう」

《はい、是非》


 そうして翌朝、麗英様は大理寺の偉い方に下賜され、陛下は燕花様の元へ行かれました。


『宜しいのですか』


《何がでしょう?》

『陛下に他の方を薦めるだなんて』


《私、選ばれる自負も何も無いのですもの、私から見てより良い方を薦める事こそ国の為になる。ただ、それだけですから》


 私達としては、この方こそ、と思っているのですが。

 まだ、経験の浅い方だからこそ、なのでしょう。




「翠苑からお前は気立てが良いと聞いてな、訪ねに来た」


 よりによって、あの出来損ないの女に薦められた、だなんて。


『そうでらっしゃいましたか、では翠苑様には』

「どうやら仲が良いと思っているのは、翠苑だけの様だな」


『とんでもない、私も』

「あの出来損ないに薦められたのか、そんな顔をしていたが、違うか」


『いえ、ただ突然のご訪問に驚き』

「性根が悪くしかも嘘が上手い、コレを推薦した者には相応の罰を与えなければならないな」


『陛下』

「朕が何故、帝で居られるのか。それはこの麒麟によるモノだ、諸外国で言う聖獣、人語を解し特別な能力を持つ麒麟が朕の傍に居るからこそ。嘘も何もかもを、コレは見破るのだよ、例え瞬きの間だとてな」


 失敗した。

 今まで必死に隠していたのに、誰にも見せなかったのに。




『陛下』

「愁陽か、どうした」


『実は、私には』

「やっとか、それで何処の誰だ、直ぐに下賜しよう」


『陛下、ありがとうございます』

「だが、お前をねじ伏せココに入れた者を処罰しなければならない、どちらかだ」


 父を取るか、愛する方を取るか。

 勿論、そんな事は決まっている。


『どうぞ、私にも厳しい処罰を』

「その覚悟とコレからの忠誠で償えば良い、明日にも下賜する、準備をしておくと良い」


『はい、ありがとうございます、陛下』


 私利私欲の為に、娘を後宮へ送り込む。

 しかも、思い人と引き裂いてまで。


 国の為などと言いながらも、結局は私利私欲。

 あんな親は、国の為にはならない。


 償いは、私達夫婦で行おう。

 聡明であらせられる陛下の為、私達は外側から支えよう。




《陛下、誰も居なくなってしまいましたが》

「お前が居るだろう」


《私は、ほら、この通り無知ですし》

「今日の茶は何処のだ」


《あ、美眉の黄茶でして》

「この菓子は何だ」


《雲南の五仁餅ですが》

「無知では無いだろう」


《陛下》

「今でも好みは同じか」


《好むモノは増えましたが、はい、棗の干したモノと地元の青茶です》

「何が増えた」


《黒胡麻餡です、あの香ばしさはやはり堪りません》

「そうだろう、黒豆も餡に混ぜているからな」


《あぁ、通りで》

《陛下》

「何だ、急ぎか」


《実は……》


 麗英が厳しい夫婦仲に耐えられず、後宮に押し掛けて来たらしい。


「そうか、なら話を聞いてやろう。翠苑、麗英が来ているそうだ、会ってやろう」


《はい》


 翠苑は、どうやら麗英に叱られると思っているらしいが。

 寧ろコレは、良い機会となるだろう。




「麗英、どうした」


『陛下、翠苑を選ばれたと』

「そうだが」

《えっ、何故です陛下》


『何故、その様な、何の才も無い女なのです』

「その様に言わぬ、思わぬ女だからだ。そしてお前が選ばれなかったのは、その様な事すら分からぬ、自称優れた女だからだ。1つ尋ねるが、お前が有能なら何故、国の為に高官の妻になろうとはしなかった」


『それは、帝をお傍でお支えする為』

「朕や側近は、そんなにも無能か、お前如きの力が無ければいけない。そう申すか」


『いえ、ですが』

「ふむ、お前には不備が有る様に見えるのだな、では全てココで挙げよ。速やかに改善させよう」


 麗英様は泣き出してしまわれた。

 もしかすれば、夫婦仲があまり良く無いのかも知れない。


《あの、私の助言のせいで》

「いや、コレは納得のいかない要因を全て外に求めているせいだ、気にするな」


 陛下のお言葉に、更に麗英様は泣いてしまわれ。

 陛下は溜め息を。


《あ、陛下、1つ宜しいでしょうか》

「どの事だ」


《国の不備についてです》

「まさかお前から不備への忠言が出るとは思わなかったが、良いぞ、何だ」


《何も帝自らが、こうして私達の面倒を見なくとも、と思うのですが》

「コレだ、こう慮れる所が良い。麗英、お前にコレが有ると、本気で思っているのか」

『それは、私とて』


「待ってやったろう、だが言わなかったでは無いか。で、お前はいつから思っていたのだ」

《すみません、先程です。帝が不備が有るなら、そう申されて、私には何も不備が無いと思っていたのですが。ふと、見定めや教育は、帝がなさらなくとも良いのでは、と》


「成程。お前、朕が見定める理由は何だと心得ている」

『それは勿論、国や民を見定めるお方、だからこそ』


「いや、朕の為だけに選ぶ事に些かの我儘さを感じるのでな、そのついでだ」


 私は成程、と思いましたが。

 麗英様は更に涙され、とうとう兵に追い出されてしまいました。


 きっと、陛下からのご寵愛が有ったのだと、錯覚なさっていたのでしょう。


 皆に平等に接し、自らのモノとなるまでは、決してご寵愛を傾けぬだろう陛下に対し。

 そうした幻想を抱き、好意を寄せられていたのですね。


《お可哀想に》

「いや、アレは単に夫婦仲が上手くいかぬ八つ当たりだろう、離縁が妥当だろうな」


《あ、そうなのですね》

「自負が大き過ぎたのだ、己を過大評価し履行した、その結果に過ぎない。それで、返事はどうなっている」


《何の事でしょう?》

「朕がお前を選んだ事についてだ、正当な理由が有れば断る事も出来るぞ」


《でしたら是非、もう少し優秀な方を》

「であれば高官に下賜するだけだが、思い人でも居るのか」


《いえ、居りませんが》

「穏やかだが言う時は言う、明るいばかりでは無く静かに過ごす事も出来、そう欲張りでは無い。ココまで、妃に相応しい者が居ると言うのなら、紹介してみせると良い」


《刺繍は、刺繍屋へ》

「そうだろう、なら才より相性、穏やかさと本音だ」




 こうして才の有る娘は皆、夫婦となってもその才を開花させ続け、国へ貢献し続けました。

 ですが帝に固執した者は、いつの間にか消え。


 国は長く続く安泰の道を歩み続けました。

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