表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/20

第十伍話 天正十年 六月一日 本能寺 其の壱

 六月一日、この日は茶道具開きの日であったため、本能寺には安土から運び入れた大名物をはじめ、瀬戸ものから『信長好み』や『利休好み』合わせて三十八点の名器を持ち込んで、盛大な茶会を催した。


 例年であれば京での在所は妙覚寺であったが、此度は三位中将(さんみのちゅうじょう)を伴っての入洛で在ったため、妙覚寺は三位中将(さんみのちゅうじょう)に譲り、本人は本能寺を在所として入った。


 茶の湯の席には、近衛卿父子に二条右府、勧修寺准大臣、甘露寺権大納言など有力公卿を始めとして、高僧併せて四十人以上を招いた。

 因みに近衛卿は直前の五月に辞任していた。

 織田前右府(さきのうふ)が三職の内、どの官位を求めるのか?全く見当がつかなかったからだ。


 その場で大名物を披露しながら、『信長好み』や『利休好み』といった瀬戸物の受注も受けた。

 公卿たちは三職に対して、何らかの沙汰があるものと気色ばんで挑んだが特に何も起こらなかった。


 近衛前太政大臣は堪らずに、別室に場所を移して端的に尋ねた。

前右府(さきのうふ)は朝廷の官位は何がご所望でおじゃるか?よもや()()()()を所望ではあるまいな?」


 織田前右府(さきのうふ)は、ゆっくりと首を振りながら答えた。

「前太政大臣なら、帝から聞かされておろう。腹芸は苦手の様であるな。儂の望みは一切変わらん。その手立ての順番も含めてな。先ずは何より帝の譲位じゃ。これが成らずば中国・四国入りの際には再び、御所にて馬揃えを執り行うより他無かろうの」


 近衛前太政大臣は背筋に空寒い想いを覚えた。


(もはやあの()()に与力して貰うより、他に策は無さそうでおじゃるな)


 公卿一行は茶席が無事に終わると、それぞれ帰途に就いた。


 織田前右府(さきのうふ)は本能寺を去る、公卿の背に向けて大声で言い放った。

「この現人神、第六天大魔王がこの世の日を切り取って見せようぞ!神の声を聞き入れぬ者には総じて天誅が加わると心得よ」


 織田前右府(さきのうふ)は背後にそびえる南蛮寺に聞こえたか?確認すると、本能寺の宿所に歩みを進めた。


 やがて雲一つない青天の下で、辺りが次第に暗くなっていった。

 空を見上げると、日差しの強かった太陽は黒い影に切り取られていく。


 帰途に付いていた公卿たちは輿の中で、一様に怯え腰を抜かしていた。


前右府(さきのうふ)を討ち果たすのは、菅原大宰府以来の怨霊として厄災を招くやも知れぬ)


 南蛮寺の宣教師(バーデレー)たちも、その神の如き振舞いに信仰の危機感を募らせていた。


(6の字を冠する悪魔が、まさに黙示録を成そうとしている)


 黙示録六章~八章に描かれた白い馬、赤い馬、黒い馬に青い馬の行進とその先の戦争、そして無慈悲な大虐殺。

 ()御馬揃えや比叡山延暦寺に於いて、何度となく目にさせられた。


 そして本日の奇跡は、黙示録八章十二の通りに太陽の三分の一が切り取られた。

 宣教師(バーデレー)もまた、その預言に恐怖するのであった。



 やがて太陽は元の通りに戻り、強い日差しが京の町を照らし付けるのであった。

※1 織田信長はこの直前に古い宣明暦から、三島暦への改定を求めていた。

   三島暦には、六月一日の日食が記されていた。


※2 この中では予言(未来の予知)では無く、預言(神の啓示)としました。

   耶蘇会(当時のイエズス会)からも反信長の企てが有ったものと考えられます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ