02
厨房を借りてメイドのメリーと一緒に調理を開始する。
リナリアには卵を焼いたものときゅうりを挟んで食べやすく小さめにカットしたサンドイッチを、ヘリオスには葉物野菜と肉を挟んでソースをパンに塗ったがっつりしたサンドイッチを作る。
今日は少し肌寒いから温かい野菜スープも追加する。野菜スープもリナリア用は味を少し薄くする。
「メリー、リナリアのスープはこのくらいでいいかな。」
「はい、美味しいです!ミナ様の料理が食べられるリナリア様とヘリオス様が羨ましいです!」
「ありがとう。スープはたくさんあるから食べてね。」
やったぁと喜ぶメリーを見てこちらも嬉しくなる。
ちなみに料理長からは許可をもらっている。
サンドイッチはそんなに作れないが、スープならたくさん作れるためたまに調理するときはスープをたくさん作って使用人の皆さんに食べてもらっている。
メリーにお礼を言って、リナリアの部屋に向かう。
「リナリア、お待たせ。たくさん食べてね。」
「ミナ、ありがとう。」
リナリアの前にサンドイッチとスープを置く。
彼女が向けてくれる笑顔はいつも眩しい。
笑顔を向けられた人は皆彼女に惚れてしまうのではないか。
2人でにこにこと微笑んでいると、
「おい、俺も待ってるんだが。」
「はいはい。ヘリオスはこっちね。」
リナリアのベッドの近くのテーブルに腰かけているヘリオスに声を掛けられ、ヘリオス用のサンドイッチとスープを置く。
「ミナ、美味しいわ!」
にこにこと微笑みながら美味しそうに食べてくれるリナリアを見ながら、食べてくれて良かったと思う。
2人が食べた食器を持っていこうとしたらメリーが来て厨房へ持っていってくれた。
リナリアは昼食後、毎食後飲んでいる薬を飲んで少し休憩する。
食事することもリナリアにとっては体力を使うようだ。
その間は彼女のベッドの傍に居て彼女を観察する。
以前より細くなった腕、白すぎる肌、やせこけた頬。
これだけで以前より食事が細くなったことを感じさせる。
たくさん食べると吐いてしまうこともあるので無理強いは出来ない。
リナリアのことを思うときゅっと胸が痛くなる。
(長くはもたないでしょう。)
以前専属医に言われた言葉らしい。もって5年といわれていたとか。
リナリアはそれよりも長く生きている。
もっと彼女には生きていてほしい。
ぎゅっと自分の手を握って力をいれて、涙を流さないように気を付ける。
私の小さな抵抗だが、彼女の前では泣かないと決めているのだ。
「ごめん、少し寝ていたわ。」
「大丈夫、10分くらいよ。」
リナリアを安心させるためにふと微笑む。
「本は読めそう?窓辺は日の光があって温かいよ。」
「うん、本は読めるわ。でも今日はベッドの中で大丈夫!」
分かった、と返事をして2人で本を読み始める。
きっと、また体力が落ちたんだ。
悔しい、生まれつき病弱なのは知っているけどどうしてリナリアがこうならなければならないのだろう。
私だったら悔しくてなぜ自分がとひねくれると思うが、彼女はとても優しい。
世界は不平等だ。優しい人を先に連れて行こうとする。
本を読んで気を紛らわす。
しばらく本の頁をめくる音だけが聞こえる。
「…面白い?」
「わっ」
ヘリオスが唐突に話し掛けてきた。
驚いたのは私だけのようで、リナリアはふふっと笑う。
「兄さんってばずっとこっちを見てたから、ミナにいつ話し掛けるのかと思っていたわ」
「ずっと居たんだけどな」
そう言ってヘリオスは少し拗ねたように顔を逸らす。
「…もっと前に声をかけてくれたら良かったのに。」
「2人の世界だったからさ。」
何を、言っているのだろうか。
ヘリオスが入って邪魔になることなんて無いのに。
「兄さんって本当にミナのこと好きよね!」
「リナリアもな」
そういうと2人は微笑む。
2人の世界とはこういうことを言うのではないのだろうか。
私はこの世界に入れない。
ふと笑い、
「はいはい、2人も仲良いからね。」
と2人の関係性も良いのだと伝える。
ヘリオスは声を掛けて満足したのか、自分の部屋に戻ると言ってリナリアの部屋を出て行った。
私たちは本の続きを読み、今日一日では読み終われないと判断して私は帰ることにした。
「ミナ、今日もありがとう。楽しかったわ。」
「リナリア、また来るから。ちゃんと食べて寝るのよ。」
「うん、分かった。次も楽しみにしているわ!」
また訪れると約束をして部屋を出る。
近くに居たメイドにメリーを呼んでもらい、歩きながら相変わらず広い屋敷だなと思いながら玄関へ向かう。
「ミナ、帰るのか?」
「ええそうよ、ヘリオス。」
ヘリオスも移動中だったのか、廊下ですれ違った。
「じゃあ、俺がミナを送っていく。」
「はい、ヘリオス様。」
メリーはさっと下がり、ヘリオスが隣に立つ。
基本ヘリオスも私もリナリアと一緒に居るため、ヘリオスと二人きりという機会はあまり無い。
リナリアと一緒に居る時とはまた違う雰囲気を感じてどきりとする。
なんだろう、ヘリオスは1歳年上だからかさらにかっこよく見えるのだろうか。
それとも好きだから勝手に補正がかかっているのだろうか、分からない。
悟られないように気を付けなければ、玄関までの辛抱だ。
「あ、ありがとう」
「嫌だったか?」
「いえ、…嫌とかではないです。」
「なんだよ、曖昧だな。」
少しからかうような口調で聞かれ、反射的に答える。
でも、これで良いんだ。きっと嬉しいと素直に言えるような方が好ましいのだろうが、生憎私はそのような素直な性格ではない。
その後は玄関までの予定だったが、馬小屋まで来て馬をひいて門まで送ってくれた。
馬に乗り、ヘリオスに挨拶をする。
「ありがとう、また来るから」
「あぁ、リナリアが待っているからよろしくな。」
俺も楽しみにしてるけどな、とヘリオスが呟いた。
私は聞こえていないふりをして、馬を走らせた。
…ずるい。
何気ない一言で胸が高鳴ってしまう。
…本当は、この人は私を好きなのではないだろうか、と勘違いしそうになる。
でも、私は彼の口から直接聞いたのだ。
彼の妹、リナリアのことが好きなのだ、と。