01
初投稿です!
ちょっと切ないストーリーが好きです。
どうぞよろしくお願いします。
「あなたのことが好き」
でもこの思いはきっと、きっと叶わない。
だってあなたは違う人を愛しているから。
あなたとの出会いは両親の仲が良いこと、比較的家が近いこと、この2つからだった。
最初は何とも思っていなかった。あなたよりもあなたの妹に興味を持っただけだったのに。
あなたが妹をとても大切にしているから。妹に向けている微笑みが私に向いたら、といつの間にか考えていた。でも、この気持ちには一生蓋をして生きていく。私のこんな汚い気持ちはあなたに知られたくない。
寝起きの頭で鳥のさえずりをぼんやりと聞きながら、こんなことを考えるようになったのはいつ頃からだろうか、と考える。
恋だと気付いた時には気持ちが大きくなってしまっていた。
彼には気付かれていないはずだ。我ながら上手く顔に出さないようにしていると思う。
…くだらない、と私の思考を一蹴して伸びをする。
早く支度をして彼らに会いに行こう。
軽く朝食をとり、身支度を整える。
今日は彼に会える。週に1,2回は会っているのだが、会える日は足取りが軽くなる。
どうしてこうも恋というものは人を愚かにするのだろうか。叶わぬ恋と知りながらも、恋をしている相手に会えるとなると心や体が軽くなる。
私は家から馬で彼らの家に向かう。
馬で移動しているのは移動時間を短縮するためだ。
そのために無理を言って乗馬を習わせてもらった。
男爵家とは言え令嬢が乗馬するということを世間はあまり良い目では見なかったが、私には関係なかった。私に出来ることは何だってする。世間の目なんてどうでもよい。
後ろで一つに結ばれた黄色い髪が上下する。
今の時期の午前中の空気は少し冷たい。
もうすぐ花々が咲いて春の香りがするだろう。
花が咲いたら彼女に持っていこう。
相変わらず大きな家だ。私の家なら3つほど入るだろうか。
それも当然だろう、だって彼らは伯爵家なのだから。
頻繁に訪れているため、私を家族のように思ってくれている門番や使用人の方々に挨拶をし、馬小屋に馬を預け、軽く服をはたいて汚れを落とす。
年齢が一番近いメイドのメリーといつも通り彼女の部屋に向かう。
メリーに彼女の体調に変わりはないか、食事は摂れているかを尋ねる。
特には変わりがないとのことで、胸を撫でおろす。
メリーと私が彼女の部屋の前で止まる。
彼女に会いに来たんだ、と念を押す。
きっと彼もこの扉の先にいる。
扉をメリーに開けてもらうと、
「ミナ、早く来て!」
愛らしい笑顔でベッドの上から私のことを呼ぶあなたの妹リナリア。
ふわふわとした白くて長い髪と細い腕を揺らしながら紫色の目が私を捉える。
「分かったからそんなにはしゃいだら駄目よ、リナリア。」
私を見てはしゃぐ彼女を少し注意する。
彼女は幼いころから体が弱く、すぐに風邪をひいてこじらせたり、ちょっとしたことで怪我をしたりする。
幼い頃でも走ることすら難しかったのに、今となってはベッドの上にほぼ寝たきりだ。
調子が良ければ、椅子に座って本を読んだり、景色を眺めて過ごしている。
私はそんな彼女の傍に居て少しでも元気づけたいという思いでここに来る。
「いつもすまないな、ミナ。」
最初に会った頃と比べると低くなった声で私の名前を呼ぶリナリアの兄ヘリオス。
この2人は椅子に座っているだけでも美しい。ずっと見ていたいくらいだ。
この2人の白い髪と紫の瞳がきらきらと見えてまるで美術品のようだと思う。
他の伯爵家の方々とは違い、私のような男爵家にも気を遣ってくれる。
「私が好きでやっていることよ。リナリア、今日は何をしようか。天気が良いから窓辺で本を読む?それともヘリオスをからかう?」
「なんで俺をからかうんだよ。リナリア、ミナに口を開かせたら駄目だ。本を読もう。何か本棚から持ってくるから。」
私とヘリオスのいつもの掛け合いを見て、リナリアはくすくすと笑う。
「本当に2人とも仲が良いよね、羨ましいなぁ」
「何を言っているの、リナリア。私はリナリアと大親友なのよ。」
リナリアの耳に顔を近づけてヘリオスはおまけよ、と小さな声で話す。
リナリアは目をぱちぱちとさせて、先程よりも大きな声でふふふと笑う。
その笑顔につられて私も笑顔になる。
(あぁ、なんてしあわせなんだろう)
私の恋はうまく隠せているだろうか。リナリアに悟られてはいけない。
知られたらリナリアの相手をするのを利用してヘリオスに会っているように感じるだろう。
リナリアを利用しているわけではない、私は彼女のことも本当に大好きなのだ。
「リナリア、ミナが俺のことについて何か言っただろ。」
「いいえ、私とミナが大親友って話をしていたのよ。」
本を持ってきたヘリオスとリナリアが楽しそうに話す。私の話題のはずだが、2人だけの世界のようだ。こんなに美しい兄妹が楽しそうに話していたら、周りの人たちは見惚れてしまうだろう。
だって頻繁に訪れている私でさえ、いつまで経っても慣れないのだから。
「リナリアが好きな作家の新刊持ってきたぞ」
執事のロイが昨日買ってきてくれたみたいだ、とヘリオスが伝えると
「この作家さんの本好きなの!新刊出たのね!」
とリナリアは嬉しそうに微笑む。
私はリナリアが微笑んでくれていたらそれで良い。
「それとミナ、これ。」
ヘリオスが不愛想にそれでも優しく私にも本を渡す。
「え、これって…。『放浪日記』!」
「前にストックさんには見られたくないから買わないって言ってたよな。ここでリナリアと読んだら良い。」
私にはストックという兄がいる。兄は世間の目を気にしているようで、女性が男性の真似事をするのは良くない、淑女らしくと常日頃から言っている。
リナリアに会うのはお互いの両親から了承は得ているが、ヘリオスにはなるべく会うなと毎回出掛ける前に釘を刺す。今朝も同じことを言っていた。
同じ黄色の髪なのだが、兄はふわふわした髪でとても人懐っこい見た目だと思う。
しかし、頭は切れる方で昔から周りからは一目置かれていた。
昔から私は顔に感情は隠せる方だと思うが兄には隠し通せたことがない。
そんな兄にもしこの本が見つかったら言い逃れる方法を私は知らない。
「ありがとう、この本気になっていたから嬉しい」
お礼を伝え、本をぎゅっと抱きしめる。
勘違いするな、これはリナリアの本を買うついでに買ったのだろう。
私には過ぎた幸せだ。
「じゃあ、ミナ。一緒に本を読んで、その後感想を…」
「リナリア、その前に昼食を食べないと。」
ヘリオスから楽しみだとはしゃぐリナリアの言葉を遮り、昼食を食べるべきだと言う。
「そうね、厨房を借りて何か作ろうかな。」
リナリアはあまり量を食べられない。厨房に軽めのものが作れるように材料を準備していることを知っている私はたまにこうやってリナリアのために軽食を作るように提案することがある。
「本当?ミナのご飯美味しいから食べたい!」
「何か食べたいものはある?」
「何でも良いわ!」
嬉しいとまたはしゃぐ彼女を落ち着かせ、私は厨房へ向かおうとする。
「俺も楽しみにしてるからな。」
後ろからヘリオスの声が聞こえる。
「…もちろん」
言われなくてもいつも2人分より多めに作っているのだ。
ヘリオスも食べてくれるかもしれない、と淡い期待をして。
そしてヘリオスはいつも食べてくれるのだ。感想は特に無いけど。
それでも嬉しくなってしまうのだから、私は末期かもしれない。