番外編 前園サナのスタイリストに恋の相談は厳禁です
「サナちゃんおはよ〜。今日もお肌の調子は完璧ねっ!」
わたしのスタイリストさんであるタケオさんが元気に挨拶してくれる。
タケオさんは気軽に自身の恋バナをしてくれて、わたしはそれが大好きなのだ。それを聞くためにメイクさんと三人でよくランチをしたりお茶をしに行く仲である。
「そこはもう、プロですから」
ふふんと自慢げに顔をそらして見せると、タケオさんは「流石だわ〜」と可愛く微笑む。
「でもちょっと悩みがあるんじゃない? 元気がないように見える」
この人は少しの変化も見逃さない。
わたしのことを妹のように可愛がってくれるし、わたしも姉がいたらこんな感じなのかなと思うくらいタケオさんのことを信頼している。
心配そうな眼差しに、わたしは友だちにも相談できないことをタケオさんなら笑わずに聞いてくれるんじゃないかと一晩悩んだ悩みを打ち明けた。
「実は、結婚に焦っていて」
周りの友だちがどんどん結婚してしまったこと。
出会いがその先に結びつかないこと。
わたしには良い人がいるはずだと言われてしまうこと。
「だったら婚活アプリよ!」
タケオさんは私の悩みにスマホをぐいっと突き出した。
「サナちゃんが良いオンナすぎるから男たちもみんな近寄れないのよ。だったら婚活アプリよ。今流行ってるんだって」
婚活アプリなんて、存在すら知らなかったわたしは驚いた。出会い系サイトとは違うのだろうか。なんだか怖い。
「でもそういうの、ちょっと信用ならないっていうか。不安だし心配だな……」
「大丈夫よ! この婚活アプリはアタシの友だちの会社が運営してるんだけど、顔出し無しで直接会うまで写真の送り合いは無し。顔バレしないから安心よ!」
よくわからないけど、タケオさんの力説にわたしはタケオさんがそこまで言うなら大丈夫かなと思い始める。
「アタシは登録しただけなんだけど、結構いい感じみたいよ。レビューも良いし」
ほらほら、とタケオさんのマイページを見せてもらう。本当に写真を載せるスペースがちっとも見あたらない。
「顔写真がないからサナちゃんでも始めやすいんじゃない?」
タケオさんが優しく微笑む。
タケオさんも夢はウェディングドレスだって言ってたもんね。その話を聞いた時、わたしと一緒だなってなんか嬉しかったんだよね。
「何かあればアタシがすぐ相談に乗るし、とりあえず始めてみたら?」
タケオさんに背中を押され、わたしは婚活アプリに登録することになったのだった。
そんな登録した時のことを思い出していると。
「なぁに〜? にやにやしちゃって。良いことでもあったの?」
タケオさんが嬉しそうにわたしを覗き込む。
「実は、マッチングした人と良い感じなの」
「ヤダ〜! 良かったじゃない! サナちゃんが嬉しいとアタシも嬉しい」
「タケオさんのおかげだよー!」
「ほんとー? 嬉しい! 今度会わせてよね」
それからわたしが柊さんにプロポーズするのはもう少し後の話。