7.建国祭②
「ふふん、ふふん、ふふっ」
カシスの家に向かう中、私はとても上機嫌で鼻歌をうたっていた。
「建国祭、そんなに楽しかったの?」
機嫌がいい理由は、これから推しに会えるからだが、カシスに話すのはまだ早い。
「はい! とっても楽しかったです」
しかし建国祭が楽しかったのは嘘ではないため、笑顔で即答した。
「じゃあこれから毎年行こうか」
「良いのですか?」
思わず食いついてしまったが、すぐにダメだと首を横に振る。
だってカシスは私より先に社交界デビューを果たし、他の令嬢令息と交流を深めるはず。
そんなカシスの大事な時間を奪うわけにはいかない。
「ですが、カシスには他に友人がいらっしゃるかと……」
「君が一番の友人だよ。これからは君優先だ」
「カシス……」
友人のいない私に対する気遣いも完璧で、思わずカシスの手を握る。
「ありがとうございます、カシス。嬉しいです」
一番の友ってなんだか照れくさい。
カシスとの関係って、幼馴染みたいなものになるのだろうか。
「俺も嬉しいよ。あの日、俺と出会ってくれてありがとう」
「うっ……あれほどひどい出会い方だったのに、お礼を言ってくれるなんて……」
名乗り合う前にカシスの腕を引っ張り、クローゼットに押し込んでしまった過去があるというのに申し訳ない。
「そんなことないよ。あの日は俺にとってとても大切な日になったんだ」
「そう……なのですか?」
もしかして悪い意味だったりするだろうか。
初めて屈辱を味わったから忘れられない……とか。いや、カシスに限ってそれはないだろう。
気にしていないなら良かったと思いつつ、馬車が公爵邸の前に止まった。
「あらあら」
「まあまあ」
屋敷に着くなり、私とカシスはお母様とキャロル様にまじまじと見られていた。
何やら二人とも楽しそうで、ニヤニヤしている。
「カシス、その耳飾りはどうしたの?」
「メアリーと友人の証として買ったのです」
「まあ、そうなのメアリー? メアリー、どうしたの?」
「は、はい! なんでしょうか!」
私は推しを探して周りをキョロキョロしており、話を全く聞いておらず、お母様に名前を呼ばれて過剰に反応してしまう。
「何か探しているの?」
「いや、あの……お父様は?」
「すでにテラスで待機しているわ。ふふ、今は話を聞くよりも花火が先の方が良さそうね」
「そうね。では二人ともいきましょう」
つまりテラスに推しがいる⁉︎
ようやく会うことができて嬉しい。本当に嬉しい。
緊張で心臓がバクバクとうるさい。
「メアリー、何かあったの? 様子が変だけれど……」
「き、気のせいかと! 初めての花火が楽しみで……!」
初めの挨拶は何が良いだろう。
いきなりがっついては引いてしまうだろうから、儚げな少女風でいこうか。
「おっ、帰ってきたようだね。待っていたよ、メアリー嬢」
「こ、こんばんは……」
(おかしい……いない)
広々としたテラスを見渡すが、なぜか推しの姿がなく、お父様と公爵様の姿しかなかった。
「メアリー? 先ほどから誰か探しているの?」
「あ、えっと……推しの……いや、フリップ様の、姿がないなと思って……カシスの、弟の……」
「フリップなら友人の家で花火を観に行っているわ。あの子ったら、家族より友人を優先するんだから寂しいわ」
キャロル様の言葉に大きなショックを受ける。
(そんな……推しとまた、また会えなかったの⁉︎ それほど友達が多い設定なんて聞いてない!)
思わずふらついてしまい、咄嗟にカシスが支えてくれた。
「メアリー、大丈夫? 顔色が悪いよ」
「だ、大丈夫です……」
「どうして俺の弟に会いたいの? 確か前も、会いたい様子だったよね」
そう尋ねられ、ぎくりとする。
両親や未来の義父母も私の回答が気になっている様子で、尚更本当のことを言えるわけがない。
「挨拶を、したかったのです……! これからカシスの時間を私がたくさんもらうことになると思うので、お兄様をお借りしますってご挨拶を……」
嘘は言っていない。
推しは兄を慕っていたため、嫉妬されて敵対心を抱かれては困る……けれど、嫉妬している姿も見てみたい。
いや、今はダメだ。邪心を捨てなければ。
「あら……二人の仲はそれほど進んでいたのね」
「言ったでしょう? 建国祭でさらに親しくなるって」
お母様とキャロル様が嬉しそうに話し出し、それ以上問い詰められることはなかった、
どうやら無事に切り抜けられたようだ。
チラッとカシスを見ると、なぜか照れくさそうにしている。
「カシス……?」
「大丈夫だよ。弟には俺から話しておくから」
(そ、れだと推しと会えない……!)
なんとかして会う方向に持っていけないかと思ったが、直後にドォンと低くて大きい音が鳴り響き、思わず空を見上る。
前世で何度か見たことのある綺麗な花火が打ち上げられていた。
花火が始まってしまったのもあり、私はそれ以上推しについて話すことができなかった。