13.危機回避③
その後の私は、帰るまで終始上機嫌だった。
嬉しい。フリップ様との明るい恋愛が現実味を帯びている。
「母上とバルコニーで話した後からやけに上機嫌だけれど、何を話していたの?」
すっかり長居してしまったが、私たちの家族は帰ることになった。
馬車の用意ができたけれど、両親は公爵夫妻と再び話が盛り上がってしまい、私はカシスの付き添いで先に馬車へ向かうことにした。
本当のことを話そうかと悩んだが、友人の弟を狙っていただなんてあまりいい印象ではない気がして、今はまだやめようと思った。
ただでさえ年齢の壁を感じているのだ、これ以上カシスが離れてしまうのは嫌である。
フリップ様と想いが通じ合っても、カシスとは一番の友人でいたいというのはわがままだろうか。
「いつか聞いてくれる?」
今は話せないことを遠回しに伝えると、カシスは優しく微笑んで頷いてくれた。
「君が話せる日が来るまで待つよ」
これぞまさに今まで築き上げた信頼関係である。
「おおっ、カシスじゃないか!」
外に待つ馬車が見えてきた時、突然一人の男が暗闇から現れた。
「……叔父上」
(お、叔父上ってあの悪役の⁉︎)
カシスの言葉に思わず声が出そうになる。
叔父上と呼ばれた男は一見すると優しそうな見た目だったが、腹に一物抱えていそうな笑顔を浮かべ、カシスの前に立った。
「成人おめでとう、カシス。直接祝えてよかった」
「ありがとうございます、叔父上」
「しかし残念だ、今の私はまるで部外者のように扱われているからね…‥以前のように気軽にこの屋敷へ入れない。私の話に耳を傾けてくれないんだ」
どの口が、と言いたくなるほど都合のいいように話していた。
まるでヴィクシム公爵家が悪と言いたげな様子に吐き気がする。
叔父の存在が推しの家族を危険に晒しているのだ。
「カシスからも言ってくれないか? 一度話がしたいと」
「俺もそう思っているのですが……ダメだと言われてしまいました」
「そうか……でも進言してくれたんだな、ありがとうカシス。そうだ、今度フリップと共に私の家に遊びに来るといい」
「……ぜひ」
叔父は不服そうな様子であったが、それを隠すようにわざとらしく笑い、カシスに声をかけてその場を後にした。
最後まで私は空気のように扱われていたけれど、関わりたくなかったからちょうどよかった。
「カシス、本当に行くの?」
「うん?」
「その、叔父様の家……遊びに」
なんとなく嫌な予感がして尋ねる。
「警戒はしているけれど、今のところこれといって動きはないからね。フリップも叔父上のことを慕っているし、俺たちが遊びに行く分には問題ないから行くつもりだよ。あまり避けすぎて相手を刺激してもいけないからね」
「そっ……か」
「心配してくれているの?」
「当たり前だよ。カシスたちに何かあったら……」
大切な友人を失いたくないし、フリップ様もそうだ。
「大丈夫だよ。君が心配するようなことは起きないよう気をつけるから」
カシスの言葉を信じようと思ったけれど……日を増すごとに、嫌な予感は募っていった。
「そういえば、今日だったかしら」
「ああ、そうだったな」
そんなある日。
家族での夕食が終わって部屋に戻ろうとした時、両親の会話に足を止めた。
「今日、何かあるのですか?」
なぜだろう、先ほどから胸騒ぎがするのは。
「今日はキャロルたちが夫婦で旅行に行く日なのよ。カシス様が無事に成人したのもあって、二人の時間も大切にしたいと思ったのでしょうね」
心臓が大きな音を立てる。
大丈夫……スパイはすでに取り除いている。
そう自分に言い聞かせても、不安が拭いきれない。
(本当に大丈夫……? 敵は……カシスの叔父は、まだ諦めていなかった)
どうか杞憂であって欲しい。
けれど、行かないで後悔するなら行って後悔したい。
「お母様、お父様。今すぐカシスに会いに行っていいですか⁉︎」
私の必死の訴えに両親は圧倒され、馬車を出してくれた。
行き先はヴィクシム公爵邸である。
門番に止められたが、カシスを呼んでほしいと頼み込む。
「メアリー、こんな夜遅くにどうしたの?」
カシスは急いで来てくれたようで、少し息が乱れている。
「お願い、カシス……! 今すぐキャロル様たちを追いかけて欲しいの!」
「え……? 母上と父上を?」
「できれば兵も何人か連れて行って欲しい。勘違いであって欲しいけれど、もしかしたらお二人の命が狙われているかもしれなくて……!」
どこから情報を得たのだと不審がられるかもしれない。
それでも今は、一刻も早くカシスの両親の元へ向かいたかった。
「お願いカシス、今は何も聞かずに私を信じてほしいの……!」
「……わかった」
こんな話、信じてもらえずに断られるかもしれないと思っていたが、カシスはすぐに受け入れてくれた。
「い、いいの……?」
「もちろん。俺はメアリーを信じているから。急いで準備するから待ってて」
そう言ってカシスはすぐ兵を招集し、準備が整った。
「メアリー、乗って」
カシスに誘導され、私は同じ馬に乗る。
そのまま走り出し、すぐに公爵夫妻の元へと向かった。
しばらく走り続け、王都を出てすぐの山の中に入る。
「きゃああ!」
すると女性の悲鳴が聞こえ、私たちは声の方へと急いだ。
「……っ、母上!」
視界に入ったのは、横転した馬車の近くで尻餅をつき、刺客に襲われそうになっているキャロル様と、腕から血を流しながら剣を握っている公爵様の姿だった。
カシスはすぐ兵に応戦を命じる。
カシスの冷静な判断もあり、刺客の一人を生捕に成功し、公爵夫妻は無事死なずに済んだ。
「良かっ……た」
嫌な予感は的中してしまったが、フリップ様の家族を死なせずに済んだ。
これでカシスも濡れ衣を着せられることもないし、フリップ様も闇堕ちしないだろう。
安堵で涙を流す私を、カシスはそっと抱きしめてくれた。




