39 暗闇に生贄は鳴く
「やめろよクソ雑魚がよ! 近寄んな! おい! 聞いてんのか!」
牙を剥き出しにしたチッチョが翔の接近によって暴れ狂うが、縛り付けられているためかなんの抵抗にもなっていない。むしろ、飼い主が撫でさせるために暴れ狂うチワワを抱きしめているところに近寄るような、そんな気分で翔は近寄って行った。
もに、と暴れるチッチョの腹に指先を沈める。子供特有の少し柔らかい質感にやけに官能的な何かを覚えそうになったが、それよりも先に翔の手に伝わってきたのはあまりにも艶めいて、流水のように指先から溢れる毛並みだった。
「おぉ……なんか、すごいな」
翔が声を発したこととは逆に、チッチョは一気に言葉を発さなくなってしまう。口を膨らませてそっぽをむき、顔を赤らめて耐えているようだ。
だが、翔の最初のワンタッチでそうなってしまった以上ここから先にどうなるかなど想像に難くはないだろう。
局部やそれに近い部分は、いくら相手が動物の見た目だったとしても獣人である以上翔の中の倫理観がブレーキを働かせていたため触れなかった。だが、それでも触れられるところはたくさんある。それでいて、キーウィの時と違って遠慮はいらないとくれば、翔の手は止まらなかった。
「ンンンンン!!!!」
真っ赤な顔で何かを我慢しながら叫ぶチッチョだが、その体に力は入っていない。それどころか先ほどとは打って変わってまるで自分が撫でて欲しいところに自らすり寄せて行っているような動きをしていると言っても過言ではなかった。
「落ちたな。おい、次だ」
「え、もう良いの? まだ撫で足りないんだけど……」
「バカ。満足させてどうするんだ。それに、その顔を見てみろ」
手を離した翔がこれ以上撫でてくれないということを知ったチッチョが絶望の表情を浮かべている。
「ははは! ここを荒らしたんだからそれくらいの罰は受けてもらわないとな」
「だいぶ軽い罰だなぁ……。正直、餌場を壊した制裁にしても軽いと思ってるんだけど」
「そんなことはないぞ」
撫でられることを我慢する程度ならば、別に誰にでもできることだろうと翔は思っていた。だが、ムトはその身を持って知っている。それが我慢できないということ、そして何よりも、それの中毒性を。
ムト自身、実のところ自制心を強めていなければ、今すぐにでもフクロウの形態で翼を広げて地面に転がってしまうほどだった。
だからこそ、これが尋問に使えるということもムトだけが知っていた。
「ほら、見てみろ」
ムトが指差す先では、確実に先ほどよりも弱い力で暴れるチッチョの姿があった。
「はぁ……も、もうやらないのぉ? もしかして、び、ビビっちゃってるぅ?」
チッチョは翔を煽るが、その表情に余裕はない。
その様子をずっと眺めていても、翔には何もわからなかった
「いや……わからん」
翔にとっては獣人でも動物でも変わらない。ただ自分が撫でて相手が喜んでいるようにしか見えなかった。
「まぁ、良いか。俺にできることをやればいいならそうするだけだし、何より次はこんなデカいイタチを撫でられるんだし。まあ役得だ役得!」
餌場を壊された怒りも新しく作れるとわかった以上怒ることもない、と翔は割り切っていたことも、ここまで割り切れた理由だった。ここで何もできなくても、ムトがおいおい別の方法でやってくれるだろうという後ろ盾の大きさもあり、翔は腕まくりをするとラプタの寝かされているベッドに近寄った。
「お、おいおい。俺は男だぞ? ヤロウを撫でる趣味なんかないだろお前もさ、な?」
「俺には雌雄の差とかわからないんだよな……それにほら。こんなデカいイタチを撫でる機会とかないだろ?」
翔の目は爛々と輝いていた。それは既知でありながら撫でたことのない大きさの、しかも抵抗しない生物をモフれるという期待感と、そしてそれに対してブレーキが必要ないという人生で過去類を見ないほどに外れてしまったタガが原因だった。
「おい、おい! やめろ! こっちに来るな! おい!」
怒りを通り越して成人男性であろう生物が焦る様子を見ても、翔は可愛いとしかもう感じていない。
そしてその顎に、ゆっくりと手が行った。
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