2 目を覚ましたら、そこは異世界でした
目を閉じていてもまぶしさに目が眩みそうになるほど、明るい光が自分を照らしている感覚。覚醒した翔が最初に感じたものはそれだった。
「ん……あれ? 昨日は確か……」
玄関先で倒れ、そのまま何かにぶつかって眠りに落ちたはず。そうであるのであれば、こんなにまぶしい光に当てられることはないはずだ。
ならばこれはなんだと目をゆっくりと開けると、目の前には真ん丸な毛玉に犬のような顔がついた生き物が翔を覗き込んでいた。しかも一匹ではない。二匹も、三匹も、だ。まぶしいと感じた光はそれらの間から差し込んでくるものだった。
「もー! マルハスたち! いい加減に離れなさ……あれ? 起きたんですか!」
遠くから駆け寄りながら、聞いたこともない女性の声が聞こえてくる。翔がボサボサの頭を掻きながら起き上がると、そこは翔の家の玄関でもなんでもない草原の上だった。
遠くから駆け寄ってくるエプロン姿の赤髪のやけに可愛い少女がマルハスと呼ばれた生物たちを翔の上から退かした。
大きな目と長くウェーブのかかった髪。三角巾をつけてエプロンと手袋があり、泥が頬についていてなお、純朴さではなく可愛らしさが全面に飛び出るような顔つきだ。
翔は一目でその少女を可愛いと思ってしまった。
「……あ、自分ですか?」
これはだからこその、ワンテンポの遅れだった。
「それ以外に誰がいるっていうんですか!」
「そ、そうですよね。すみません。で、俺はこんなところで何を……」
「そんなの私に聞かれてもわかんないですよ! マルハスたちがいきなり連れてきて、起こそうにも起きないですし」
少女は首を傾げながらマルハスを撫でていた。
「俺は……家に帰って、疲れてたからそのまま玄関で寝たわけで……なにこれ幻覚?」
翔は昨日のことを思い出す。仕事から帰って、家の玄関で倒れたまま眠ってしまって……。
「そうだ仕事! い、今何時!?」
「何時って……大体一時くらいだったような」
翔は急いでポケットからスマホを取り出した。確かに画面には十三時と表示されている。そして不思議なことに、数分前に社長から連絡が入っていた。
「か、会社……! 社長に殺される……。昨日の資料も終わってないし、う、オエ……」
びたびたと翔は胃液を地面に吐瀉した。液体だけのそれは、翔の喉をピリピリと焼く。
「うわ! だ、大丈夫ですか!? ちょっと休んだほうが……」
「だ、大丈夫です。そ、それよりもどっから帰れるんですか!」
今にもつかみかからんといった様子で翔は少女に問いかけた。
「家に帰る方法……? あ、多分あれかな」
翔は少女に連れられて空中に開いた真っ暗な穴の元にやってきた。
「異世界への……扉?」
「私も気が付かなかったんですけど、いつの間にか開いていたみたいなんですよね。マルハスたちがあなたを運んできたんですよ」
「なるほどそうだったのか……。っとそんな場合じゃないんだ!」
翔は何かわからないまま、異世界への扉と呼ばれた穴の中に飛び込んでいった。
穴の中は真っ暗であったにも関わらず、翔が飛び込むとその先は自室のクローゼットの中だった。振り返れば、確かにそこに穴はある。
法律上、異世界への扉が見つかった場合は警察に通報しなければならない。
「けど、まあ良いか」
翔はそう呟いて、家から飛び出した。
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