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想い繋ぎて波となる。  作者: 萩原慎二
第1章 花宮へ
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第4話 コロシアイ

花宮学園に来て二日目。

今日は花宮学園の目玉授業である、『能力育成カリキュラム』の初日である。


この能力育成カリキュラムは、花宮学園の全てと言っても過言ではない重要な授業らしい。

志賀が言うには、この能力育成カリキュラムに合格するというのは、就職や進学において他のどんな資格や実績よりも優位的なものとして扱われるらしい。


というのも、『合格すると』と言った通り、この授業は不合格でも進級などにはなんの影響もない授業ではあるが、合格すること自体が難儀で、毎年一学年で両手で数え切れるぐらいの合格者しか出ないとのこと。

そんな情報を聞いた俺と真美はというと……。


かなりワクワクしていた。


いやだってさ?そういう”難関クラス”みたいなやつってメチャクチャカッコいいじゃん?

『合格者がほとんどいない』とか、俺と真美からしたらもはややる気を出すための言葉でしかないのだ。


「いやー!能力育成カリキュラム!楽しみだねぇ!!」

「あぁ。もうこれをするために入学してきたと言ってもいいぐらい魅力的な授業だな」


授業で使用する専用の施設への移動中、俺と真美はあまりの期待に目をキラキラと輝かせていた。


「二人とも、気楽そうでいいね~。私は対戦形式とかじゃないと楽しめないから、もし単純にトレーニングするとかならどうしようかと……」

「いや、俺から見たら3人ともおかしいからね?この授業をそんな楽観的に捉えてるの本当に君たちくらいだよ?」


胡桃沢は少しは心配をしながらも、俺達と同じようにルンルンと歩いている。

対して志賀はドンヨリとした雰囲気だ。こいつ、初回の授業でこんな感じで大丈夫なのか?


でも、志賀が不安そうにしているのには一つ心当たりがある。

なんと言ってもこの能力育成カリキュラム、授業内容は担当の教員が自由に決めるのだ。

教員が勝手に……というのに一抹の不安を覚えるのは俺も同じだが、担当する教員は皆、この能力育成カリキュラムの合格者というのを前提に、様々な有名企業から集められたエリート達だそうだ。

そういう、教える者が実力者である。というのは大きな信頼に値する。内容がランダムなのも、授業としてはどうかとは思うが一周回って楽しさまである。


「まぁ、内容にもよるけど3人は合格できると思うよ。少なくとも過去のトップ5くらいの人達はだいたい合格してるんだからね」

「そう言われると急にプレッシャー感じるなぁ。こちとら、能力育成カリキュラムなんて聞いた事しかない程度なのに」

「討伐テスト1位の人が何言ってんだか……。君が合格できなかったら、他の人達もできるとは思えないんだけどね」


そんなこんな雑談しながら歩いていたら、いつの間にか能力育成カリキュラムの実施場所である第3運動場に着いていた。


「第3も運動場があることも衝撃だが、能力育成カリキュラムなんて重要な授業をここでやるってのもまあまあ驚いたな」

「まぁね。第1は基本的に行事や重要な集会で、第2は優先度の低い集会や3年の能力育成カリキュラムで使われるんだ。第3は1・2年の能力育成カリキュラムや部活動が主にかな」


そこまで分けられると、普段使うことのなさそうな第1運動場とかが少しもったいない感じもするなぁ。

伝統を重んじるってのは立派な心がけだが、もうちょっと効率重視でもいいんじゃないかとは思う。


「あ!ほらほら、もう先生もいるみたいだし、早く行こ!みんな!」


そう言うと、胡桃沢は駆け足で待機所まで向かう。


「………ってえ!?あまみーちゃん!?」


俺達も向かおうかと思った矢先に、真美が驚いたような声を上げる。


「ん……初対面で人を小馬鹿にしたような呼び方をしてきたと思ったら、なんだ真美じゃないか。おまけに慎也も」

「えぇ…?城ヶ崎さんじゃないですか」


驚く俺達に対し全くと言っていいほど驚きを見せない表情の彼女は、城ヶ崎あまみ。

俺と真美は中学生の頃、放課後や休日によく手合わせをしていたのだが、それをよく見守ってくれていたのが彼女だ。


「え、何?先生と知り合いなの?」

「あぁ。ちょっと前まで俺と真美の面倒をよく見てくれてた人だよ。俺達の受験とほぼ同時期に多忙になってたみたいだけど、まさか花宮学園の教師になってたなんて」


俺がそう言うと、城ヶ崎さんはくっくっく……と不敵に笑い出す。


「まぁな。元々声はかかってたが、面倒くさすぎて拒否してたんだ。まぁ、ここ近年の両親の目線が痛すぎて、しょうがなく就職したがな」


その発言のとおり、俺達が城ヶ崎さんと出会ったとき、彼女は生粋のニートであった。

しかも、就活に失敗して……とかの理由ではなく、単純に『働きたくなくて親のスネを齧って生きていきたいから!』とかいうまぁまぁ終わっている理由で。


そう。こんなクールで完璧そうな見た目をしている彼女、実は超絶クソ駄目人間である。

俺と真美が手合わせの監督を頼む時の9割は酔っ払っていたし、偶に居ないと思ったらその大体はパチンコに行っていて不在という、もはや業と言っていいほどの駄目人間っぷり。


「驚いたぁ……まさかあまみーちゃんが社会に出るなんて……。もはや酒飲むのが仕事かと思ってたくらいなのに……」

「いやぁーそれほどでも。私だって、やればできるんだぞってな」


城ヶ崎さんはそう言ってわははと笑う。

人間としては微塵も尊敬できないものはあるが、それでも中学時代一番と言っていいほど触れ合ってきた人間が能力育成カリキュラムの担任なのは嬉しい。

しかしそう思っているのは真美と俺だけで、他の生徒たちは俺達の話を聞いて更に心配になっているようだ。


それに気がついたのか、城ヶ崎さんは皆を集めてコホンと咳払いして話し出す。


「あー、失礼。知り合いに会って少しテンションが上ってしまったよ……。私は、この1年A組の能力育成カリキュラムを担当する城ヶ崎あまみだ。ちなみに、真美があまみーと呼ぶのは過去に向けた罰ゲームの名残だから、他の生徒は絶対に呼ばないように。読んだら即刻愛の平手打ちをするからな」


挨拶からまぁまぁ酷いなこの元ニート。

確かに、真美が城ヶ崎さんをあまみーと呼ぶのは過去、テレビで競馬を見ていたときに二人が罰ゲームをかけて勝負した末、城ヶ崎さんが負けたのが原因だ。

本人からして良い悪いは置いといて、呼んだ瞬間平手打ちとか、体罰もいいところだぞ。


「あの……城ヶ崎先生。一応聞きたいのですが、能力育成カリキュラムの授業内容は……」

「おぉ。お前は……志賀直人か。まぁ焦るな。時間は丸一日あるんだし、ゆっくりいこうぜ。……じゃ、授業の内容だが……」


城ヶ崎先生の溜めに、皆がゴクリと唾を飲む。


「うん!!まだ決まってません!!」

「………………………………はぁ?」


志賀の困惑の声を皮切りに、皆がざわざわと騒ぎ出す。

それを見た城ヶ崎さんは『ウンウン』と満足気に頷く。いやウンウンじゃねぇだろ。


「まぁまぁ皆落ち着け。私がこう言うのにもちゃんと理由があるんだ」


そう言うと、皆がおぉ。と声を上げる。なんだか楽しそうだ。


「というのも、この授業は基本的に個人の能力を考慮した内容を提供して、年度末のテストで合否を決めるテストをやるんだが……。残念ながら、私は今年から赴任した人間だから、慎也と真美以外の生徒の能力なんてほとんど知らないんだ。一応情報と入学時の実技テストの結果は見たけどな」


城ヶ崎さんの発言に、皆納得したような顔をする。

確かに彼女の言う通り、他の教師なら今まで行事とかで軽くでも実力を見ているのだろう。

しかし、城ヶ崎さんは今年度からの教職採用で、接点のある俺と真美以外は名前も知っているかどうか怪しいレベルだ。


というか今更ながらだけど、前から誘われていたとはいえいきなり能力育成カリキュラムの担当を任せられるなんて信じられない話だな。

他のクラスはおそらく、選りすぐりのエリートが担当していると思われるが、城ヶ崎さんは……申し訳ないが、お世辞にもそうやって選ばれてそうな人とは思えない。

となるとやっぱり、この人の『能力』が主な要因で誘われたんだろうな。


「はい!というわけで、そんな皆さんにはこれから、『コロシアイ』をしてもらいまーす!」

「いぇーい!!」


いぇーい。と喜んでいるのは真美ただ一人であった。

他の生徒達は突然の『コロシアイ』発言に戸惑いを隠せないようで、ザワザワとお互いの顔を見て不安そうな顔をしていた。


「えっとその……城ヶ崎先生。殺し合い……というのは、これまたどういった意味で……」

「ん……よく聞いてくれたな志賀よ。って言っても、そのままの意味。みんなにはこれから戦って……もといコロシアイをしてもらって、その実力を見せてもらう」


今まで言っていたコロシアイが、真の意味での殺し合いだとわかった途端、クラスの皆は今までにないほど不安な顔で話し合う。

まぁそりゃ困惑するだろうなぁ……と思い、俺は城ヶ崎さんへ一言添える。


「城ヶ崎さん。意図を伝えるためにはまず城ヶ崎さんの能力を説明しなければいけないかと」

「んおお、そうだった。ありがとうな慎也。……と言うわけで私の能力『白紙流し』の説明タイムだ」


そう言って、城ヶ崎さんは用意していたホワイトボードを裏返す。元々用意してあったなら最初から説明くらいしろよな……。


「私の『白紙流し』は簡潔に言えば領域を作る能力だ」

「領域……ですか」

「あぁ。その領域は作成時に内部に居た者、後から領域内に入ってきた者の状態を記憶する。そして領域を消すか、領域から出るかすると、その者の状態を記憶した状態に戻す。というものだ」


城ヶ崎さんの説明に、一部の生徒が首を傾げる。

まぁ、たしかにこの『白紙流し』は言葉で聞くより、実際に体験してみるのが一番手っ取り早い能力だ。


「ん~、これからやるコロシアイと一緒に説明させてもらうが、まず私の『白紙流し』で領域を作り、その中で1対1でコロシアイ……もとい対戦をしてもらう。もちろん、その時に怪我や欠損、なんなら死亡する可能性もあるが、領域から出れば全部元通りになるから心配はいらない」


簡潔に、パッとまとめられることで全員が理解したのか、「おー!」と声を上げる。


そう。城ヶ崎さんの『白紙流し』のもっとも驚くポイントは、内部で最悪死亡しても全て元通りになるという事だ。

過去に俺と真美が戦った時も、軽い怪我から骨折などの大きめの怪我、時には四肢の欠損や死亡など、様々な体験をしてきたが、その全てが元通りになっている。


そんな能力だ。戦いでは役に立つとは言えないが、こういった訓練などでは例を見ないほどの貴重な能力となっている。

おそらく、前から花宮学園からスカウトを受けていたのもそれが理由だろう。

回復系の能力では、ある程度の怪我を治せても、死んでしまってはどうしようもない。

まぁそんな貴重な能力が、今まではこの駄目人間の気まぐれのせいで有効活用されていなかったのだが。


「というわけで、対戦相手の振り分けはこの紙に書いてある。ランダムで決めたから、実力差があっても文句言うなよー」


そう言って対戦表が配られる。それを見て俺と真美は首を傾げた。


「ねぇあまみーちゃん。私と慎也の名前が無いんだけど。表記ミス?」

「あぁ。お前らの実力はじゅーーーーぶん知ってるからな。戦わなくてもいいだろって思って外しといた」

「えー!!!じゃあ、今日は見学してろって言うの!?授業楽しみにしてたのにー!!」


そう言って真美は駄々をこねる。

……まぁ、正直俺も少し残念な気持ちはあるが、今日はとりあえず各々の実力を知ることがメインだ。俺達は弾かれてもなんら不思議ではない。

しかし、俺と真美が参加しないと聞いて、真美の隣に居た胡桃沢も「えー!?」と驚きの声を上げた。


「そんなー!せっかく二人と手合わせできると思ったのにー!!」

「まぁまぁ結希奈。今日ぐらいはいいじゃないか。これから機会は沢山あるんだしさ」

「そうだけどー……」


志賀が胡桃沢をなだめる。

しかしそんな志賀の顔は、どこか安堵しているかのような顔をしている。


「うーん……でもたしかになぁ。二人が受験で忙しくなってからは戦いを見てないしなぁ……。よし、ならこうしよう」


そう言って、城ヶ崎さんはパチンッと指を鳴らす。


「このコロシアイをトーナメント形式にして、1位が慎也、2位が真美と戦うということにしよう」


そう言うと、真美と胡桃沢はお互いに手を繋いで喜んだ。どんだけ戦いたがってんだこいつら。

しかし、この提案に不満があるのか、他の生徒達はどこかご立腹のような態度をしめしていた。


そんな中、一人の生徒が喋りだした。


「あの……城ヶ崎先生。一応、そのような判断にした理由を聞いてもいいでしょうか」


そう言われるのが予想外だったのか、城ヶ崎さんは「えっ」と戸惑った声を上げる。

そんな城ヶ崎さんに追い打ちするかのごとく、もう一人女子生徒が喋る。


「この学園が実力主義であるのはご存知ですよね?そんな学園のクラスのトップ2と戦う……確かに、お二人は実技テストでトップの成績でしたが、実際に評価されるのは闘劇祭などでの実戦形式の場になります。それで、実力もわからないはずなのに、いきなりトップ2と戦わせるなんて……まるで私達は『その二人以下の実力だ』と言われたような気分です」


思ってもみない反抗に、城ヶ崎さんは一瞬たじろぐ。

しかしまぁ、聞いてる身からすれば随分とボコボコに殴られているかのような気分になるな。


あの女子生徒が言っていたことはつまり、自分たち。ひいては内部生のプライドの問題だ。

確かに実技テストは形式上、相性の問題で普段の実力を発揮できなかった者もいるだろう。実際、真美はその中の一人と言っても過言ではない。まぁそれで2位だけど。


言いたいことをまとめると、『そこまで内部生を舐めないでほしい』ということだろう。

真美もその意図を読み取ったのか、すこしムッとした顔をして見せる。

俺はまぁ……別に怒る程ではないが。実技テストの結果でそれなりにヨイショさせられてからこの態度。というのは少し遺憾だ。


しかし、そんな苦言に対し城ヶ崎さんは、フッと笑う。


「そうだな。別に振り分けにそんな悪意はなかったんだが……あえて言わせてもらえば、そのとおりだ。ってところかな」


城ヶ崎さんの強気な発言に、内部生達は息を飲む。真美は「いいぞぉー!!」と檄を飛ばす。


「実戦形式で見たわけではないから最終的な評価はまだできん。だが、実技テストの映像をクラス分は見させてもらったが……はっきり言って思ったことは『こんなものか』ってところだな」

「……………つ、つまりは、私達では相手にならないと?」

「うん!そうかなって!」


城ヶ崎さんのあまりの満面の笑みでの煽りに、そこらじゅうから『プッツン』とか『カッチーン』とかの音が聞こえてきた。

この人、屈託のない笑顔でありえんほど大きい爆弾投下してきやがった。


皆がそれぞれ怒りを溜めている中、胡桃沢がスッと立ち上がる。


「みんな!!こう言われっぱなしでいられないよねぇ!!絶対に二人をギャフンと言わせてやろうぜ!!」

「「「おぉーーー!!!!!!!」」」


胡桃沢に続いて他のクラスメイト達が皆立ち上がり、怒号を上げる。


どうやらこの『コロシアイ』真の意味で殺し合いとなりそうな雰囲気になってしまった。

それに対して真美と城ヶ崎さんも「うおー!!」と声を上げる。本当にこのダメ大人はなんてことをしてくれたんだ……。


こうして、クラスとで出会って2日目とは思えないほどの大喧嘩が、始まろうとしていた。


ちなみに、みんながやる気を出している中俺と志賀は、互いに頭を抱えていた。

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