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想い繋ぎて波となる。  作者: 萩原慎二
第1章 花宮へ
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第2話 爆発と言う名の芸術

「同じクラスでよかったね!」

「あぁ。流石に周り全員が知らない人ってのは耐えかねるからな」


花宮学園へと登校して、クラスへの移動中。

俺と真美は同じクラスへ振り分けられたことに安堵していた。


「しっかしクラスまで遠いなぁ。ココに来るまでで十分歩いたのに、更に歩くことになるなんて……」


真美がそうぼやくのも無理はない。

俺達のクラスは1-A。教室は玄関からそれなりに遠くの場所に位置している。

というのも、教室までの間には授業などで使う施設で溢れている。これだけ施設数が多いのは魅力だが、そのせいで無駄に苦労を強いられているような気がする。


「まぁ、明日からは寮からの登校になるし、今日ぐらいは目を瞑ってやるか~」

「そうだな。荷物も昼には届いてるだろうし、入学式終わったらすぐに荷ほどきだろうけどな」


俺達は今日から、花宮学園が有している寮で生活することとなる。

本当は前日のうちから引っ越しは終了しているはずだったのだが、内部生の移動が優先されていたため、当日の引っ越しとなってしまった。

こんなところから外部生差別を受けてしまうとはなぁ……。

まぁ、部屋自体は広いし1年生からも個室を用意されているのだから、多少のことなら文句は言うまい。


「よし!やっと教室についたし。早速行こうか、慎也」

「あぁ。うん」


それなりに時間がかかったが教室に到着。真美は何も考えていないようでガバっ!と勢いよく扉を開いた。



瞬間、先程まで外まで聞こえていた話し声はピタッと止み、まるで小学生が教師から叱られた後のようにシーン…と静まり返っていた。


「あ、あるぅえ?………お、おはようございます………」


勢いよく入っていた真美も、流石にその違和感を感じ取ったのか困惑しているようだ。

まぁ、うん。俺はある程度は予想してましたけどね。

けど、ここまで露骨に態度に示されると、流石の俺も萎縮してしまう。


真美は無言で席に着くが、明らかに居心地が悪そうで汗までかいているように見える。

俺と真美は、出席番号の関係上で席はだいぶ離れてしまった。

真美は出席番号1番で廊下側の一番前。俺は34番でやや窓側の一番後ろ。空気的に、もう二度と話せないのだろうかと不安になってしまうような距離感だ。


相変わらず、教室内はシンっと静まり返っている。

そんな空気に耐えかねたのか、真美の方へと一人の女子生徒がトコトコと近づいていった。


「やあ!はじめまして、私は胡桃沢結希奈(くるみざわ ゆきな)。これからよろしくね!」

「あぁ!えうぁ、よろしくお願いします……」


互いに握手を交わす。少しぎこちなくはあるが、真美は無事に入学後初めての友達ができたようだ。

胡桃沢に続き、周りにいた女子生徒も次々に真美の元へと行っている。どうやらあっちは心配なさそうだな。


むしろ、問題は俺の方。

真美があんなにワイワイガヤガヤやっているのに対して、俺の周囲には誰ひとりとして集まっていない。

あれ?これってむしろ自分の方を心配すべきだったかな?


そんなこんな考えていると、一人の男子生徒が俺の元へとやってきた。


「やぁ。僕は志賀直人(しがなおと)。君は灘波慎也君だね?よろしく」

「あ、あぁ。よろしくな」


話しかけてきた志賀直人は、見てくれは絵に描いたような爽やかイケメン。

しかも話しかける前から俺の名前を知っているところを見ると、心までイケメンなナイスガイのようだ。

あまりの嬉しさについ語彙力が無くなってしまったが、そんなことは今はどうでもいい。

流石に真美ほどワラワラとは集まらないが、それでも見知らぬ環境で友人ができるのは嬉しい。


「麻田さんと一緒に来たみたいだけど、もしかして知り合い?」

「おう。同じ中学校から来た……まぁ幼馴染ってやつだ。流石に初日は一緒に登校しようって話をしててな」

「へぇ。二人はそんなに仲がよかったんだな。こっちはクラスどころか、学年全員が幼馴染みたいなもんだから、今まで顔ぶれが変わらなくて退屈していたんだ。まぁ、しばらくは君たちの話題でもちきりになるだろうけどね」


そんな話を聞いていると、登校前に思っていた外部生差別なんてものとは全く無縁な感じに見える。

そういえば、さっきから真美の周りを取り囲んでいる女子や、離れて様子を伺っている生徒達から向けられる視線は、差別なんてものは一切感じられず、単純に興味はあるが一歩引いている。という感じが見受けられる。


「なんか、以外だな。こう言うのもなんだが、内部生と外部生ではそれなりに差別的に見られるんじゃないかなって思ってたが、案外優しいんだな」

「あぁ、まぁ確かに。他のクラスや先輩方にはそういうヤツらはいるけど、うちのクラスにはいないよ。他のみんなも、ただ単に恥ずかしがっているだけだろうしね」


他のクラスにはいる。という発言に少し不安を感じるが、少なくともこのクラスにそういうヤツが居ないことは素直に嬉しい。


「それに、俺と向こうの結希奈は他の幼稚園からの出身だし、純粋な初等部からの人間は6割ぐらいなんだよな。………まぁ、差別してくる大体のやつはその初等部からのヤツらだけど」

「そうなのか。まぁ確かに、少し前の俺らからみたらこの学園の生徒はみんなお坊ちゃんやお嬢様って感じに見えてたしな。そんな性格のヤツがいたっておかしくはないか」


自分でそう言ってふと思い出す。

それは、真美に初めに話しかけていた胡桃沢結希奈のことである。


「そういえば、胡桃沢って()()胡桃沢か?」

()()って言うのが、かの有名な胡桃沢グループのことを指しているのなら、その通りだよ。彼女は胡桃沢グループの一人娘。正真正銘のお嬢様さ」

「まじか……。お嬢様っぽいどころか、マジもんのお嬢様にいきなり出会えるとか、やっぱこの学校スゲーな」


胡桃沢グループ。

日本にいて、その名前を知らない人はほとんどいないだろう。

胡桃沢グループ現会長である胡桃沢理人は、医療・スポーツ・能力業界などで数多くの実績を上げている実業家だ。

元々大手企業であった胡桃沢グループを、彼が1人で世界的に有名な企業にのし上げたというのはあまりにも有名な話だ。

かく言う俺や真美も、胡桃沢グループで作られている能力強化目的の製品にはそれなりにお世話になった。

と言っても、その大半は俺と真美には物足りない物ばかりではあったが。


「ちなみにここだけの話、結希奈の家はこの学校にかなりの額の寄付をしていてね。まぁそれもあって彼女、他クラスの人達にはまぁまぁ遠目に見られててね」

「なるほどな。……でも、内部生でもそういう差別……とまでは言わないが、距離があるんだな」

「まぁそれは、お互いに人間だからね。好き嫌いはあって当然だよ。……特に彼女の場合はね」


志賀は胡桃沢を見ながらそう言った。

その顔は、どこか憂いが帯びていて物悲しそうな雰囲気がしていた。


「うちの学校には、彼女のような名家の生まれはそれなりにいるんだ。だから彼女ほどの存在は、その手のグループでは排斥される対象なんだ」


なるほど。俺もそういう経験はいくらばかりかある。

というか、ついこの間までの俺と真美がそうだ。

能力者として、それなりの強さでブイブイ言わせていたのはいいものの、そのせいでまともな友人なんてできなかった。


「ちょっと直人ー?何私抜きで楽しそうな話してんのさー」

「うおっと、結希奈。何、他愛もない話だよ」


突然、志賀の体が大きく揺れたと思っていたら、その身体に胡桃沢がのしかかっていた。

どうやら真美との話を終えてこちらに来ていたらしい。傍には真美も一緒に居た。


「慎也も、無事友達ができたみたいで良かったね。クラスの人達、みんな優しい人みたいだよ」

「あぁ、色々と心配してたが、どうやら杞憂だったみたいだな」


俺と真美は、互いの顔を見て笑い合う。

他のクラスは……とか、まだまだ心配は絶えないが、一先ず今後の生活で不自由は無さそうだ。


「あ、そういえばだけど、慎也君……でいいよね。初対面でこれ聞くのってどうかと思うんだけど……さっき真美ちゃんから聞いたんだけど、記憶喪失……なんだって?」

「……確かにいきなりだけど、うん。まぁそうだよ」


といっても、胡桃沢の話出し的にかなり端折られて説明されているようだ。


「真美の説明がちゃんとできてないっぽいけど、俺の記憶が無いのは中学校前くらいのだけなんだ。だから、話すのに影響が〜とかがあるわけじゃないから、そこまで配慮しなくても大丈夫だよ」


説明した通り、俺には中学校入学前……正確には小学校5年生より以前の記憶がない。

無いというのも、一般常識や学んできた事は忘れてはいないが、それを取り巻く人間の記憶が一切ない。


あの日、目を覚ました時、俺は周りに居る誰一人を知らなかった。

俺の両親は、俺の記憶喪失の件で外国にいっているらしい。

そう俺に告げたのは、俺の祖父を名乗る人物だった。その傍には祖母を名乗る人物もいる。


両親が不在の俺は、結局祖父の家で育てられる事になった。

正直、両親の記憶も曖昧な中、知ってすらいない祖父祖母にお世話になるのには、少しばかり抵抗があった。

けど、生きるためには文句も言ってられない。俺は二人のお世話になる事を選んだ。


「まぁとにかく、これから寮生活にもなるし、周りは知らない人ばかりなんだ。目が覚めた時と殆ど変わらないんだし、本当に気にしなくてもいいよ」

「う、うん。ならいいんだけどね。……ていうか目覚めたらって、なんか病気にでもなってたの?」


ほ、本当にズカズカと来るなこいつは…。

といっても、その点については俺も少し気になった事があるから調べてはいる。


「医者が言うには、大きい交通事故に巻き込まれて、そのショックで記憶を無くしたらしい」

「おぉ、なんかそれっぽい理由だねぇ。まぁ、そんな事故なら生きてるだけよし!か」


生きてるだけよし。

そう言われて少しだけ違和感を感じる。

けど、その違和感を感じるのは初めてでは無い。

医者や祖父祖母、たまに出会う俺を知る人たち皆からそう言われてきた。


記憶も無く、ただただ肉体と知識だけが残っている状態を、果たして生きていると言うのだろうか。

中学に上がって、真美と出会うまでは俺は、生きているのかどうかなんてわからない状態だった。

けどまぁ、真美に出会ってからは色々と考え方も変わった。

というか、考える暇が無くなった。と言った方が正しい。だってあいつ、出会うたびに勝負仕掛けてきてたんだもん。

おっと、これはあまり思い出さなくてもいい思い出な気がするな。やめよう。


「と言うか真美、何話してるかと思ったらいきなり他人の話してたのかよ」

「だ、だってしょうがないじゃん!初対面でいきなり手出すわけにもいかないしさ!」

「手出すってお前……俺の時は即殴りかかってきてたじゃねぇか」

「そ、それはそれ!これはこれ!だよ!」


うーむ、納得がいかない。

けど、いつか仲良くなったら避けては通れない話題でもあるだろう。いきなりとはいえ、話してくれた事には感謝だな。こんな話題、自分から振るわけにもいかないし。


「と、ところでお二人さん、さっきから手を出すとか殴るとか、かなり物騒な話題ばかりだけど、二人は本当に幼馴染って事でいいんだよね?」

「まぁ、中学校からだからそっちよりは日が浅いが、そんなモンでいいだろ。いちいち中学からの同級生でーとか言うのは面倒なんだ」


俺と真美の会話を聞いていた志賀が、恐る恐ると聞いてきた。まぁ、普通の友達がこんな事言うわけないしな。


「真美は、かなりの戦闘狂でな。一番になるためには平気で殴る蹴るしてくるようなやつなんだよ」

「え!本当!?真美ちゃんも戦うのが好きなの?私も戦うの大好きだよ!」


俺の発言を聞くや否や、胡桃沢がパシッと真美の手を掴んでブンブンと振り始める。

あまりの勢いに、真美もポカンとして戸惑っている。


「あぁ……うぅ、遂に現れてしまったか……」


志賀はそう呟きながら落胆した表情を浮かべる。


「現れたって、どうゆうことだ?」

「……結希奈の反応を見てわかると思うけど、麻田さんと同じように彼女もかなりの戦闘狂なんだ」


そう言って、志賀は深くため息をつく。

あぁ、何となく察してしまった。胡桃沢の喜びようは、かつての真美を見ているかのようだ。

今の胡桃沢の反応はあの時の真美と同じ、『やっと楽しめる相手が来た』という感じだ。


それに、志賀の反応を見ていると、こいつも戦闘狂な幼馴染に散々振り回されていたタチらしい。苦労人として気が合いそうだ。


「まぁ、ただ出会うってのはキツイところがあるけど、慎也君みたいなストッパーがいるのは不幸中の幸いかな」

「あぁ。俺も同じこと思ってたよ。苦労人同士よろしく」


俺と志賀は熱い握手を交わす。


「あっ!そういえば二人って入った時に受けた実技テストって何位だった?そもそも討伐テストかサポートテストどちかな?」


胡桃沢がその問を投げかけた瞬間、俺は凍りついてしまった。

というのも、俺と真美は1位と2位。会っていきなりテスト自慢みたいになってしまうのはいかがなものか…。


「ちなみにね!私は3位だったんだ~。前やった時は1位だったんだけど、まさか越されるなんて思ってなかったよ~!」


更に硬直。

前まで1位だった内部生に対して、外部生がトップ占領したことを伝える…?

そんなこと、並の精神力ではできない。ひとまずここは適当な話で誤魔化して…。


「うん!私は討伐テストで2位だったよ!こっちの慎也も討伐テストだったんだけど、こいつ1位だったんだよ!すごいでしょ!」


うん。並の精神力じゃないやつがいた。

忘れてた。こいつは戦闘狂に加え、かなりの自慢したがりな性格なんだった。


―――ザワザワ……


真美の発言を聞いて、周囲の生徒達が騒ぎ出す。

いつの間にか、握手していたはずの志賀の手は、遠慮したかのように離されていた。


「ごめん……君も()()()()だったんだね……」

「ち、違う!いやテスト結果は違わないけど、俺はこいつみたいな戦闘狂じゃない!」


俺の渾身の叫びも、どうやら今の志賀には届いていないようだ。


「す、すごい!二人ともすっごい強いんだね!!戦うのが楽しみだよぉ~!」


胡桃沢はというと、俺と真美の結果を聞いて嬉しいのか、ブルブルと身震いしていた。

あぁ…終わった…。せっかく同志とも言える存在に出会ったというのに、ものの数秒で決別することになるとは。


「でも討伐テストトップ3が集まるなんて、今年の闘劇祭は楽勝かな?」

「闘劇祭?」


胡桃沢の発言に首を傾げる。

一応花宮学園の事については軽く調べはしたが、闘劇祭なんていう行事は聞いた事がない。


「あぁ、慎也君達は知らないか。闘劇祭ってのは、毎年5月に入る頃にある大会の事でね。クラス単位で争うっていう、まぁ…一種の親睦会みたいなものだよ」

「闘う親睦会って、やっぱこの学校変わってんな。つっても、クラス単位ってことは他で言う運動祭とほとんど変わんないか」

「そうだね。一応、企業からの視察とかも来るから、上級生からしたら自己アピールの場でもあるんだ。それもあって、下級生は上級生と当たったら手を抜く。みたいな風潮もあるらしいけどね」


志賀の言っている事はつまり、就職や進学を控えている上級生、主に3年生と闘う時は立ててあげようという、配慮のようなものだろう。

まぁ、1年生はこれから時間がたっぷりある分、時間が限られている上級生に接待しようというのはそれなりに筋の通った話だ。

けど問題は、この戦闘狂二人が遠慮なんて言葉を知らないだろうということだ。

まぁ俺も、いざ闘うとなると遠慮するつもりはサラサラないんだけどな。


「闘劇祭のことはまた後で話があるだろうからいいとして、話しているうちにそろそろ入学式が始まる時間だよ」

「あっ!いけない!遅れないように早く体育館に行かないと!」


志賀と胡桃沢はそう言って立ち上がる。

いつの間にか時間は進んでいて、周りの生徒達もチラホラと移動を開始しているようだ。

俺と真美は、体育館の場所がわからないため志賀達の後ろについていくことにした。


「ねぇ、慎也」

「ん?どうした?」


歩いている途中、真美が俺に向かってコソコソと話しかけてきた。


「これからの学校生活、めちゃくちゃ楽しくなりそうだね!」

「あぁ、そうだな。志賀と胡桃沢も悪いやつじゃないみたいだし、他のクラスとがどうなってるかは気になるけど、今のところは平穏に過ごせそうだな」


俺がそう言うと、真美はニコニコと笑顔になりながらスキップしだした。

ホント、わかりやすいやつだな。


これから始まる新生活に胸を踊らせながら、俺達は花宮学園入学式へと向かった。

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